October 4, 2023 | Art, Architecture | casabrutus.com
半世紀以上前に建てられた宮脇檀による画期的な住宅がギャラリーとして再出発。畳の部屋でアニッシュ・カプーアの作品が鑑賞できます。
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東京・新宿区の住宅街に隠れるようにして建つ〈松川ボックス〉は「ボックス」の名がつけられた宮脇檀(まゆみ)の一連の住宅建築の一つ。コンクリートの箱に木の箱を入れ子にして、吹き抜けになった居間を中心に部屋が並ぶ構成だ。竣工は1971年。1979年には建築学会作品賞を安藤忠雄の〈住吉の長屋〉と同時受賞している。キュレーター、アートプロデューサーの清水敏男さんは10年ほど前からここを事務所として使ってきた。
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近年、コロナ禍で働き方が変わったこともあり、ギャラリーにすることを思い立つ。ギャラリー名は〈THE MIRROR〉。2014年に解体直前の銀座のビルで清水さんが企画した展覧会の名称を復活させた。もともとはシェークスピアの「鏡が真実を映す」といった内容のテキストからとられている。
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新〈THE MIRROR〉の開館記念となる展覧会は古くから親交のあるアニッシュ・カプーアに依頼した。9年前、『THE MIRROR』展でも出品された、周囲を鏡のように反射するオブジェは畳敷きの和室に展示されている。室内には小さなクッションも置かれていて、座って瞑想にふけることもできる。
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和室の手前の居間と、2階のもと子供部屋だったところにはそれぞれ絵画が展示されている。2点の絵画はいずれも空間の写真を見たカプーアが近作から選んで送ってきてくれたもの。血や肉体を想起させる厚塗りの絵の具が抽象的な記号のようにも、上昇するエネルギーのようにも感じられる。平面でありながら立体的にも見える作品だ。
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オーナーは宮脇建築を理解し、改変しないことに同意してくれる人にのみ、この建物を貸してきた。清水さんの前にも建築家やアート関係者がここを借りていたが、公開されることはなかった。10年間、この家に親しんできた清水さんは「居心地のいい、ストレスを感じない家」だという。
「内部では木に囲まれている感じのほうが強いので、コンクリートの冷たさを感じることはないですね。朝、自宅から通勤してくると『ただいま』という気持ちになります」
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アアルトやイームズの椅子、サーリネンのテーブルなどは清水さんが持ち込んだもの。宮脇も椅子をコレクションしており、清水さんはあとから宮脇の作品集などを見て、同じものが使われていたことを知ることもあったという。
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〈松川ボックス〉の内部の箱である木の部分は釘を使わない木組みで造られている。柱には乾燥して割れるのを防ぐため、あらかじめ切れ込みを入れてある。天井には木の梁が整然と並ぶ。大工のていねいな仕事のたまものだ。
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1階の床が低く、外部のテラスや庭とそのままつながっていくように感じさせるのは宮脇建築の特徴だ。1階の和室は濃紺、キッチンなどは黄色、テラスの塀は赤と色彩の組み合わせも楽しい。外側からは開口部がほとんど見えない閉ざされたイメージだが、内部では天窓やテラスに続く大きな窓、居間の上部の吹き抜けなどで、のびやかな空気が味わえる。吹き抜けを通じた視線の抜けもいい。決して大きいとはいえないけれど、そんなことは感じさせない住宅だ。
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カプーア展は来年3月まで。その後の予定はまだ決まっていないが、カプーアの展示に他の作家の作品を組み合わせたり、といったことも考えているという。コンクリートの箱に守られた木の箱の空間をアートが変える、稀有なスペースだ。
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