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【本と名言365】葛飾北斎|「翁死に臨み、大息し天我をして十年の命を…」

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October 3, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。海外で最も名の知れた日本画家の1人、葛飾北斎。死の直前に発した言葉には、衰えることのない作画への意欲が伝わってくる。

翁死に臨み、大息し天我をして十年の命を長ふせしめはといひ、暫くして更に謂て曰く、天我をして五年の命を保たしめは、真正の画工となるを得へしと、言吃りて死す

日本の浮世絵師として最も著名な画家の1人、葛飾北斎。場所や角度、季節によって表情を変える富士山の景観を描いた『富嶽三十六景』は国内だけに留まらず、世界中で知られる錦絵であり、クロード・モネやゴッホ、ゴーギャンなどに影響を与えたとも言われている。

当時としては珍しい90歳という長寿を全うし、ひたすら画業に取り組んだ。漫画や風刺画、画集、解剖学の図版など幅広いジャンルで活動し、高名な絵師となるものの、お金は絵画研究に使い込んでしまったため、生涯貧しかったという。代表作となる『富嶽三十六景』初編を刊行したのは75歳の時。自身の画業を振り返る有名な一説が『富嶽三十六景』初、二編に記されている。「己六才より物の形状を写の癖ありて半百の比より数々画図を顕すといへども、七十年前画くところは実は取るに足ものなし。(6歳のときから物の形を模写することに熱中し、50歳になってからは多くの絵を発表してきたが、70歳までに描いた絵の中には、考慮に値するものは何もない)」。浮世絵師の老大家となりながらも、これまでなしえた画業に安住することはなかった。

「翁死に臨み、大息し天我をして十年の命を長ふせしめはといひ、暫くして更に謂て曰く、天我をして五年の命を保たしめは、真正の画工となるを得へしと、言吃りて死す(天があと10年、いや、あと5年の命をくれたなら、本物の絵師になれる」とは、北斎が亡くなる直前に残した言葉。死ぬ間際まで「絵がうまくなりたい」と願い、画道への飽くなき情熱を燃やしてきたことがわかる。

浮世絵研究者が北斎を知る人の聞き書きや北斎自身の書簡などをもとに生涯を記した伝記。『葛飾北斎伝』著:飯島虚心、校注:鈴木重三 岩波文庫 1177円

かつしか・ほくさい 

1760年頃東京都生まれ。江戸時代後期に活躍した浮世絵師。近代漫画の祖とも言われ、また、浮世絵界に風景画の流れを取り込む。生涯にわたって30回以上も画号を変えたことでも知られる。1849年没。

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