October 2, 2023 | Travel, Architecture, Design, Food | casabrutus.com
能登半島の東側、七尾湾に浮かぶ能登島に9月4日、穏やかな内海を見晴らす海景の宿がオープン。絶景と寿司、そしてサウナを堪能できるリゾートを建築家・中永勇司が手がけました。

金沢市街から、車で約1時間半。美しい曲線を描く、全長1,050mの能登島大橋を渡ると、目指す寿司オーベルジュはもうすぐそこだ。
豊かな自然を背景に、古くから半農半漁の暮らしが根づき、1982年に能登島大橋が開通してからは観光地としても人気の能登島。その南部、七尾南湾(七尾湾は能登島を中心に、北湾、南湾、西湾に区分)を一望する高台に〈一 能登島(ひとつ のとじま)〉は建つ。

設計を手がけたのは、金沢出身で東京を拠点に活躍する建築家・中永勇司。宿の設計やまちづくり、地域活性化などに携わってきた経験を活かし、今回新たな試みとして、オーベルジュのスタイルをとったリゾートの開発・運営に自ら乗り出した。
「目指したのは、『リゾートまちづくり』。資源が豊かな場所にリゾートをつくり新たな集客を図ることで、施設単体ではなくエリア全体を活性化する。その最初の舞台として選んだのが、ここ能登です。海と山に囲まれた能登は、瀬戸内や伊勢志摩といった人気エリアに匹敵するだけのポテンシャルがあると思っています」

かつてホテルだった築50年近い建物を取得後、恵まれたロケーションを最大限生かせるようフルリノベーション。窓外の景色を眺めながら、季節や時間の移り変わりを楽しめる場所を館内にいくつも作り出した。例えば、2面開口のラウンジでは、座った時に空と海だけが見えるよう窓の高さを調整。よく晴れた日には、正面に立山連峰、左手に寺島とカラス島を望む。
「大きな開口を持つ薪サウナや、半露天の薬草風呂のある貸し切りスパも気持ちいいですよ。夕朝食を味わう〈饗処(あえどころ)〉には、拭き漆仕上げのカウンターを設置。職人の手元と付け台を照らし出すことで、特別な時間を演出します」

地上2階建ての1階に客室と貸し切りスパ、2階に客室とラウンジ、レストランが入る構成。すそ(須曽)、くき(久木)、まがり(曲)など、能登島の町名を冠した客室はすべてオーシャンビューになっており、昇る朝日を見ることができる。
全8室ある客室は4タイプ。開口が大きくとられたシンプルなワンルームが基本だが、中にはサウナを備えた特別仕様の部屋も。琉球畳敷きの室内は家具も低めに設えられており、座ったり、寝転んだりして、寛いで過ごせる。

リゾートの看板となる寿司は、金沢に本店を構え、六本木やニセコにも出店する〈鮨 みつ川〉の店主・光川浩司が監修。光川と協働することについて、中永は次のように話す。
「まずは、僕自身が光川さんの寿司を好きだということが大きいですね(笑)。食のジャンルとしての寿司人気の高さ、魚介や米、野菜といった食材が能登には豊富に揃うという点も後押ししました。まだ日本でも珍しい寿司オーベルジュ。能登ならではの一品を味わってほしいと思っています」

お待ちかねの夕食は、江戸前寿司とつまみのおまかせコース。地元・能登を中心に、全国から旬の魚介を選りすぐって提供する。例えば、この日は、能登外浦で養殖されたカキやノドグロ、アワビ、アカニシ貝といった地物がお目見えした。
つまみ8皿と握り12貫などから成るコースは、つまみと握りを2〜3品ずつテンポよく交互に提供。石川や富山の日本酒のほかワインも揃い、「実は、寿司にはボルドーの赤ワインが合うんですよ」という光川のオススメに従って、赤ワインとのマリアージュを楽しむのもいいだろう。

「〈一(ひとつ)〉は、この宿だけの名称ではなく、リゾートのブランド名として考案しました。まずは能登島で足固めをし、ゆくゆくは輪島や珠洲(すず)、そして県外にも“リゾートまちづくり”を広げていきたい」と中永。
一見、リゾートとは無縁と思われる能登で始まったばかりの建築家の挑戦。その目は、遠く未来を見据えている。