April 24, 2022 | Architecture, Travel | casabrutus.som
新潟県の大自然の中に位置する、アウトドアブランド・スノーピークの本社。広大なその敷地内には全国のキャンパーが集まるキャンプ場があるが、同じ敷地内に隈研吾設計による、温浴施設をメインとした複合型リゾート〈Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS〉が4月15日に誕生した。
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新潟県三条市の豊かな自然に溶け込むように存在する〈スノーピークHeadquarters〉。広大な敷地内にはスノーピーク本社とともにキャンプフィールドも設置されており、ハイシーズンには全国からキャンプ好きが集う。この春、ここに隈研吾設計による複合型リゾート施設〈Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS〉が登場した。
まず目に飛び込んでくるのは、建物全体の天井に配された薪(まき)と、ダイナミックな線を描く屋根ではないだろうか。隈研吾の建築において木のルーバーは一つの特徴とも言えるが、今回はアウトドアブランドのスノーピークを象徴する“薪”を建物の内外に大胆に取り込んだ。温浴施設やレストラン、ショップなどが入るメインの施設はもちろん、宿泊施設のヴィラにも多用されている薪は3種類の長さにカットして、緻密な計算によって規則的に配置し、美しい風景を作り出している。
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また、屋外、屋内ともに天井を薪で覆うことで、内と外、自然と建造物が溶け合って見える。これは、隈が同じ敷地内にあるキャンプ場からの景観を考え、シームレスな空間を作ったからこそ、かなった風景。そして、特徴的な屋根のラインは施設の目の前にそびえる日本三百名山の一つ、粟ヶ岳の山並みに沿うようにデザインされている。単に建物として存在するだけでなく、自然と一体化する“野性味のある建築”が、今回、隈の目指したところだ。
●自然と一体化した温浴施設
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地下に位置する温浴エリアは、開放的な露天風呂とスタイリッシュな内風呂、ロウリュもできるサウナを擁する。眺望を第一に考えて設計された内風呂は、天井から床まで全面ガラス張りで、ダイナミックな粟ヶ岳を存分に臨むことができる。春は鮮やかな緑、冬は銀世界と、季節ごとに変わりゆく風景を楽しめるのも、このスパの醍醐味だ。
面白いのは、洗い場の設計。湯船とシャワーを隔てる壁は、座ったときにちょうど粟ヶ岳が見える高さに作られている。洗い場に置かれた木製の湯桶と椅子は、〈タイムアンドスタイル〉のもの。実はこの椅子、本来はサイドテーブルとして作られた製品だが、偶然にもデザイン、サイズがぴったり合うと採用が決まったのだという。
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ガラス1枚隔てた露天風呂は、内風呂とひとつの浴槽として繋がっているかのようなデザイン。インフィニティープールのように境界線を感じさせない造りで、まさに“自然と溶け合う”感覚を味わえる。露天風呂前のテラスで、風を感じながらクールダウンするのもまたいい。サウナヒーターを囲むように席が設置されたサウナエリアは、キャンプギアブランドらしく、焚き火をイメージした空間になっている。黒を基調としたシックな雰囲気で、こちらも一面ガラス張りのパノラマビューが心地いい。
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●ラグジュアリーなヴィラ、ミニマムなモバイルハウス
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メインの施設から続く道のすぐ先には、宿泊施設のヴィラ棟が3棟、隈研吾建築都市設計事務所とスノーピークが共同開発したモバイルハウス〈住箱-JYUBAKO-〉4棟が並ぶ。ヴィラ棟は100平米の「Villa suite | Earth」1棟、50平米の「Villa junior suite |Snow」「Villa junior suite |Forest」2棟の2タイプ。
天井に薪が浮かぶガラス張りの3棟のヴィラは、手を伸ばせば触れられそうなほど自然がすぐそこにある。ベッドやソファ、ローテーブルなどがゆったりと置かれ、備え付けのシェルフには、スノーピークのギアや燕三条が誇る金物アイテムなどがディスプレイされている。不自由のない機能を持ちながらも、あえて必要以上にモノは置かず、自然とひたすら対峙する時間を与えてくれる場所。「移ろう季節や自然と向き合うことで、自分の建築の存在が消えてくれるぐらいになればいい」と隈は語っている。
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一方、〈住箱-JYUBAKO-〉は、コンパクトながら窮屈さは感じない空間。ガラス張りの開口部にはゆったり座れるチェアが置かれ、ヴィラ同様、自然との繋がりが感じられる造りになっている。既存の〈住箱-JYUBAKO-〉との相違点は、バス、トイレが備え付けられていること。より快適に、プライベート性を高めた宿泊施設になった。
●〈Restaurant 雪峰〉〈Snow Peak Eat〉2つのレストラン
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施設内には、2つのレストランエリアを併設。ひとつは〈神楽坂石かわ〉の石川秀樹協力のもと、昼はアラカルト、夜はコース料理をメインに提供する〈Restaurant 雪峰〉。粟ヶ岳の山々の雪解け水に運ばれた養分で、土地の作物が育つ。その循環を食で表現すべく、水と土にフォーカスした料理を追求していく。
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もうひとつの〈Snow Peak Eat〉は温浴エリアと同じ地下にあり、湯上がり処としての機能も果たすカジュアルなレストラン。リラックスできる座敷エリア、キャンプ気分を味わえるテラス席などがあり、宿泊者だけでなくスパを日帰りで利用する人々が気軽に利用できる。
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両レストランとショップの内装は、〈Puddle〉が担当。ショップの什器や、レストランのテーブル、チェアなどは〈Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS〉のために特別に作ったものだ。
今回、隈が大切にしていた、土地特有の“場所性”を感じるディテールがレストランにも散りばめられている。例えば、藁と炭を混ぜた素材で塗った左官壁や、建設中に出た赤土と燕三条の産業で出たステンレスを混ぜ、クールな表情に仕上げたカウンターなどがそれ。使う過程で、“育てていく”ことも大切にしたデザインとなっている。
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ショップで販売されているのは、Tシャツや靴下、タオルなどスノーピークに初めて触れる人でも手に取りやすいもの、「燕三条を知ってほしい」という願いから、地元の食品や日本酒、金物などをラインナップ。金物は実際に施設で使っているものもあり、宿泊、温浴体験の中で触れた思い出を持ち帰るというテーマのもと、商品をセレクトしている。
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スノーピークは本社周りの土地を約3倍の15万坪へと拡張し、今後「ライフバリュー=人生の価値」を向上させるフィールドを展開していく予定。彼らが作り出す、“野遊び”がますます楽しみだ。