April 5, 2022 | Art, Architecture | casabrutus.com
広島の街並みを一望できる〈おりづるタワー〉。ここで今、9人のアーティストたちが壁画を描いています。平和を願う絵画が見る人の希望につながる作品です。
〈おりづるタワー〉は広島に建つ複合商業施設。1階にはカフェやショップが、12階では〈おりづるタワー〉専用の紙でおりづるを折り、ガラス張りになった「おりづるの壁」に投入することができる。屋上の「ひろしまの丘」からは〈平和記念公園〉や〈原爆ドーム〉、晴れていれば宮島の弥山(みせん)までが望める。
現在、ここで9名のアーティストによる公開制作プロジェクト「WALL ART PROJECT "2045 NINE HOPES"」が行われている。〈おりづるタワー〉の1階から屋上までをつなぐ螺旋状のスパイラルスロープ「散歩坂」にある、約4メートル×24メートルの壁面を大型キャンバスに見立てて壁画を描くというものだ。戦後100年となる2045年の節目に向けて、各作家たちがそれぞれの願いを込めて制作に励んでいる。公開制作は4月26日まで行われ、4月29日に完成する予定だ。
作家はいずれも広島にゆかりのある人たちだ。広島県尾道市出身の山本基は塩による迷路の作品で知られている。近年では壁や床に迷路のモチーフを描く作品も制作している。人はどこから来てどこに向かうのか、その迷路のような道筋を想起させる。
同じく広島県出身の三桝正典は「ジャパニーズ・モダン」をテーマに寺社や茶室などの和の空間を舞台に襖絵や掛け軸を発表してきた。〈おりづるタワー〉では2羽の白いカラスを描いている。「白いカラス」は原爆など、あり得ないことの象徴なのだという。どんなに信じられないことが起きても乗り越えられる、という思いを込めている。
田中美紀は人々の夢やビジョンを可視化、絵画化する「ビジョンプロジェクター」として活動している。白い壁の中心には乳母車があり、その周囲にはていねいに描かれたさまざまな花が舞う。この花は彼女が考えた366日分の誕生花なのだという。すべての人の誕生日を祝い、新しいものが生まれてくることを願って制作されている。
このほかに人とつながりが深い馬やその影をカラフルなドットで表現する土井紀子、ちょっとおどけた”招き猫”など日本らしさを感じさせるモチーフを虹の7色で表現した若佐慎一、自らも被爆し、その体験をもとにした絵画を描き続ける三浦恒祺(つねき)、切り絵によって日本の民話などを絵本にする毛利まさみち、書道に影響を受けたグラフィティを展開するSUIKOらが参加している。
そして、「シークレットアーティスト」としてギリギリまで名前が伏せられていた9人目の作家が、4月4日発表に。『この世界の片隅に』の原作者、こうの史代だ。漫画家、イラストレーターとして活躍する彼女が、第二次世界大戦下の広島とそこに暮らす人々の日常を丹念に描いた作品は、2016年には片渕須直監督によって劇場アニメ映画としても公開され、大ヒットとなった。
〈おりづるタワー〉があるのは〈原爆ドーム〉の隣であり、この建物を運営する「広島マツダ」創業地跡の近くだ。広島の過去・現在・未来が望める〈おりづるタワー〉に作家たちが描き出す壁画が、見る人の希望になる。