March 18, 2022 | Architecture, Art, Travel
金沢は、名作建築や美術館が数多くある街。ここでは、谷口吉郎・吉生など巨匠が建てた名建築と、貴重な作品が揃う美術館をまとめました。
●〈金沢21世紀美術館〉SANAA
レアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》など親しみやすい恒久設置作品で、多くの人々を惹きつける。直径113mの円盤状の建物の中に、プロポーションの違う展示室が点在。現代美術や工芸を軸にした企画展は、それぞれの展示室の特性に合わせて設えられる。ショップなどがある「交流ゾーン」は入場無料。三方を道路に囲まれた美術館の敷地内には、どこからでも入ることができる「まちに開かれた美術館」だ。
●〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉谷口吉生
谷口吉郎が育った住居跡に建つ施設。設計は、息子である吉生が担当。町並みと調和するようエントランスの軒を低くした建物は、通りに面したガラスのアトリウム部分に細いステンレスのルーバーを配し、本体の外壁には柔らかな色の花崗岩を使用。常設展示室では、吉郎の代表作である〈迎賓館赤坂離宮 和風別館「游心亭」〉の「広間」と「茶室」を原寸大で再現。一つの建物で日本のモダニズムを代表する2人の建築家のデザインが楽しめる贅沢な建築ミュージアムだ。
●〈鈴木大拙館〉谷口吉生
金沢出身の世界的な仏教哲学者、鈴木大拙の考えや足跡を伝え、思想を学び、思索の場とすることを目的に開設された文化施設。谷口吉生が手がけた建築は、玄関棟、展示棟、思索空間棟の3棟と、玄関の庭、露地の庭、水鏡の庭の3つの庭からなる空間を回遊する構成。展示そばに解説などはなく、自由に空間を体感することで来館者を思索へと導く。館を象徴する水鏡の庭には波紋を発生させる仕掛けを設け、水面に映り込む幻想的な景色に静と動の揺らぎを与える。
●〈金沢市立玉川図書館〉谷口吉郎、谷口吉生
谷口吉郎・吉生親子による、唯一の共作。父・吉郎が総合監修し、子・吉生が設計を担当した。鉄板と大きく切り取られたガラス窓で構成された本館のファサードが、戦後モダニズムを強く感じさせる一方で、大正期に建てられた煉瓦造りの別館とも調和するよう煉瓦の意匠を取り入れるなど、施設全体の統一性も図られている。中庭に向かって緩やかに弧を描く構造の公開ホールには書籍が並ぶ。オーバーブリッジから眺める天井高のあるホールスペースは圧巻だ。
●〈いしかわ生活工芸ミュージアム〉谷口吉郎
加賀友禅や九谷焼など、石川県の伝統的工芸品36種すべてを展示する県内唯一の施設。谷口吉郎が手がけた〈石川県立美術館〉の建物を利用して、1984年に開館した。隣接する兼六園に配慮した落ち着いた外観ながら、水平の軒や整然と連続する柱型など、随所にモダニズムが感じられる。常設展示のほか、企画展も盛んに行われる。また週末は、伝統工芸士などによる実演や、参加者が工芸を体験できるワークショップを開催する。
●〈兼六園茶屋 見城亭〉隈 研吾
日本三大名園として名高い兼六園の桂坂口すぐ、百間堀を挟んで金沢城を望む場所に建つ茶屋〈見城亭〉。大正2年創業の歴史ある店の改修を手がけたのは、隈研吾。雪の多い北陸の民家で見られる「指物造り」という技法を応用し、既存の建物の構造は活かしつつ広々とした吹き抜けの空間を実現した。1階はカフェ、2階はレストランで、なかでも注目は、加賀棒茶の寒天や手作り餡、金箔などが幾層にも重なった《厳選黄金抹茶パフェ》(2,400円)。
●〈金沢美術工芸大学 柳宗理記念デザイン研究所〉
自身が約50年にわたり教鞭を執った同大学内に設立された、柳宗理の作品を展示・研究する施設。常設展示室では、《バタフライスツール》や《シェルチェア》、 食器類など、柳の手がけた作品の数々を、実際に見て、触れて、体感することができる。先入観なくデザインそのものに触れてほしいとの思いから、キャプションや説明文などは一切ない。また研究の成果を発表する企画展や公開講座も行われる。関連書籍を閲覧するコーナーも揃い、多目的に柳についての理解を深められる。
●〈北陸電力会館 本多の森ホール 石川県本多の森庁舎〉黒川紀章
石川県営兼六園野球場の跡地に〈石川厚生年金会館〉として、黒川紀章が1977年に設計。かつては加賀藩の大老、本多家の武家屋敷が軒を連ねた本多の森公園内に位置し、周辺はその頃より残る森で囲まれる。野球場跡地という特性を反映した扇状の外観を持ち、歴史ある周囲の景観への配慮から、建物の高さを制限し平面に広がる構造となっている。黒川はこの作品で、第19回BCS賞を受賞。ホールはすり鉢状になっており、コンサートから演劇、講演会まで幅広いイベントで利用される。
●〈金沢駅東広場〉白江龍三
市の陸の玄関口である金沢駅は、白江龍三の設計により2005年に完成した。東口広場にそびえる〈鼓門〉は、金沢の伝統芸能である能や素囃子などで用いられる鼓をモチーフにしたデザインで、傾斜させた大断面材を螺旋状に配置して構成した組柱が格天井を支える構造。金沢の歴史や伝統を感じさせる意匠であると同時に、地下広場の給気塔といった実用的な役割も担っている。〈もてなしドーム〉と呼ばれるガラス屋根は、アルミでできたドーム部分をワイヤーが支える構造で、空間の開放感と高い耐久性の両立を実現している。
●〈石川県立美術館〉富家建築事務所
1959年に谷口吉郎の設計により旧館が開館。1983年に、隣接する現在の場所へ移転した。新館の設計を担当したのは、富家建築事務所。旧館は現在、〈いしかわ生活工芸ミュージアム〉として利用されている。九谷焼や加賀藩由来の古美術品といった歴史的文化財、石川県出身の作家による日本画、洋画、彫刻など、県ゆかりの貴重な美術作品を豊富に所蔵、展示する。なかでも、野々村仁清による国宝《色絵雉香炉》や、古九谷のコレクションは必見だ。