January 1, 2022 | Art, Architecture, Design | casabrutus.com
2022年の展覧会はビッグネームが目白押し! その中でも絶対に外せない10本をご紹介します。どれに行こうか迷うのも楽しみです!
●『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』東京都美術館:1月22日〜4月3日(その後、北海道、大阪、宮城に巡回予定)
数百年前の絵を修復したら今まで知っていた絵と違うものになってびっくり、ということは時々あるけれど、フェルメール《窓辺で手紙を読む女》のビフォー・アフターは大きな驚きだった。1979年のX線調査で判明した、背後の壁のキューピッドの画中画は長年、フェルメール自身が消したものだと考えられてきたのだが、2017年にフェルメール以外の人物が消したことがわかったのだ。
上塗りの層を鋭いナイフで少しずつこそげ落とす、という根気のいる修復作業の結果、キューピッドの絵が姿を現す。東京での展覧会は《窓辺で手紙を読む女》がオリジナルと思われる姿に戻ってから初めて、所蔵館以外で展示されるもの。この展覧会にはレンブラントやファン・ライスダールら17世紀オランダ絵画の黄金時代を代表する画家たちの作品も並ぶ。17世紀のオランダでは裕福な市民社会の台頭を背景に、自宅に飾るのにちょうどいい家庭の情景を描いたものや風景画が流行した。当時の市民が堪能した技巧を味わえる。
●『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』森美術館:2月18日〜5月29日
2005年に卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀の6人で結成されたアーティスト・コレクティブ、Chim↑Pom。東日本大震災による帰還困難区域での国際展「Don’t Follow the Wind」の発案・立ち上げ、メキシコとアメリカの国境の壁をテーマにしたプロジェクト、19世紀にイギリスで流行したコレラとビールの関係を探る参加型プロジェクト、都内の空きビルをまるごと作品とするようなものなど、都市や消費社会、メディア、境界といった問題に切り込む作品を発表している。
制作だけでなくキュレーション的な活動を行っているのも彼らの特徴だ。この個展は初期からこの展覧会のための新作までを一堂に紹介するもの。一作一作が強力な思考実験装置である彼らの作品をまとめて鑑賞することで、新たな視点が見えてくるはずだ。
● 『ゲルハルト・リヒター展』東京国立近代美術館:6月7日〜10月2日(その後、豊田市へ巡回予定)
現代美術界最大の巨匠は、最大の謎を秘めた画家でもある。日本の美術館では16年ぶりになる個展を開くゲルハルト・リヒターは1932年ドイツ東部に生まれ、1961年、ベルリンの壁ができる直前に西ドイツに移住した。この個展は1960年代のものから近作まで、彼が手元に置いていた作品を中心にリヒターの画業を読み解くものだ。
注目は第二次世界大戦中の強制収容所の地名をとったシリーズ「ビルケナウ」。このほかスキージ(大きなヘラ)で画面に絵の具をこすりつけたシリーズでは表象すること、覆い隠すこと、削り取ることという矛盾する行為が同時に行われている。周囲の景色を映し出す鏡やガラスによる立体は、見る者の視点の位置や光によって常に姿を変える。報道写真や家族のアルバムなどから引用したイメージを忠実に描き出す「フォト・ペインティング」は筆によってボケやブレといった効果が付加される。リヒターの絵は見ることとは、世界を認識するとはどういうことか、という根源的な命題を問い続ける。
●『「ジャン・プルーヴェ」展』東京都現代美術館:7月16日〜10月16日
デザイン・工芸・建築などの領域を横断し、ル・コルビュジエやシャルロット・ペリアンとの協働でも知られるジャン・プルーヴェ。熱心なコレクターも多い彼の大型個展が開かれる。彼はアルミニウムやスチールなど素材の可能性を追求し、解体して持ち運びができる椅子やプレハブ建築など、さまざまな技術を開発した。その成果や思想はレンゾ・ピアノやノーマン・フォスター、ジャン・ヌーヴェルら後の世代の建築家にも大きな影響を与えている。
プルーヴェは自身を建築家ではなく建設家(constructeur)と考えていた。自身の工場で多くの職人達と働いた彼はデザインを考えるだけでなく自ら強度を確かめ、工業化への可能性を探っていたのだ。この展覧会は現存するオリジナルの家具およそ100点、ドローイングや資料などのほか、移設可能な建築物の屋外展示も行う。20世紀の建築を理解する上で必須の展覧会だ。
●『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』東京オペラシティ アートギャラリー:7月16日〜9月19日
もともとは2021年に個展が予定されていたがコロナ禍で延期されたため、アーティストの申し出で急遽、『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』に方向転換。暗がりに同館のコレクションを展示、観客にペンライトで照らさせ、別のフロアでは片方の壁に作品のみを展示、反対側の壁にキャプションを展示するという大胆な趣向で、アートを見る行為について問いかけた。
2022年はいよいよライアン・ガンダー本人の作品が日本にやってくる。壁の穴から何かを語りかけるネズミ、チューインガムで作ったオブジェ、政府広告のような映像など、彼の作品は異質なものどうしを結びつけ、何かを部分的に隠蔽して観客を思索の渦に巻き込む。満を持して開かれるこの個展は新作を含め、空間全体が一つの作品となるような大がかりなインスタレーションになる。図らずも長い熟成期間となった展覧会の幕開けが楽しみだ。
●『フィン・ユールとデンマークの椅子』東京都美術館:7月23日〜10月9日
彫刻のよう、と評されるフィン・ユールの椅子。建築家であり、デザイナーである彼と、彼の出身地であるデンマークのデザインを取り上げる展覧会が開かれる。
展示は3部構成。第1部では王立芸術アカデミーに家具科を創設したコーア・クリントや家具職人組合、20世紀初頭の数々の椅子などを通じてデンマークの家具デザインの歴史を紹介する。第2部ではフィン・ユールの幅広い仕事を見せるセクション。愛らしい曲線が人を誘う椅子、外部の自然とつながって豊かな空間を内包する自邸のイメージ、店舗やオフィスのインテリアに関する資料などが並ぶ。第3部では実際にさまざまなデンマークの椅子に座って、機能性と体に心地よくなじむ快適さを体感できる。より多くの人を惹きつけるフィン・ユールの独創性と魅力に触れられる。
●『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』京都市京セラ美術館:9月17日〜2023年2月12日
今も国内外のアーティストを惹きつける美の都、京都。アンディ・ウォーホルも例外ではなかった。1956年の世界旅行中に初めて来日し、京都を訪れ、清水寺や平安神宮、舞妓などのスケッチを残している。この展覧会は京都でのみ開かれる回顧展。ウォーホルの故郷、ピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館の所蔵作品のみで構成され、展示作品約200点のうち100点以上が日本初公開のものになる。
出品作は彼のアイコンとも言えるマリリン・モンローをモチーフにしたものやレオナルド・ダ・ヴィンチの名作《最後の晩餐》と大型バイクなどアメリカ消費社会の象徴を組み合わせたもの、日本の金箔の技法を取り入れた《孔雀》やツナ缶にボツリヌス菌が混入した事件から着想した《ツナ缶の惨事》など。15点の映像作品も見られる。会場の〈京都市京セラ美術館〉は青木淳と西澤徹夫が改修した、「ガラス・リボン」と呼ばれるユニークなエントランスを持つ美術館。京都でウォーホルが何を思ったのか、想像しながら鑑賞したい。
●『響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき(仮)』静嘉堂文庫美術館:10月1日〜12月18日
1992年以来、世田谷区岡本で 三菱第二代・四代社長、岩﨑彌之助・小彌太が収集した日本美術・東洋美術を展示してきた〈静嘉堂文庫美術館〉。2021年6月まで開かれた『旅立ちの美術』展で同地に別れを告げ、2022年10月、新天地となる丸ノ内に移転オープンする。移転先は皇居のお堀端に建つ〈明治生命館〉。1895年に建てられた〈三菱二号館〉を建て替えて1934年に竣工した、国の重要文化財だ。意匠設計は〈大阪市中央公会堂〉や〈ニコライ堂〉の修復も手がけた岡田信一郎と、岡田捷五郎(しょうごろう)の兄弟。柱頭飾りがついた列柱が美しい、古典主義様式の傑作だ。
オープニングを飾る展覧会では《曜変天目(稲葉天目)》や俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屛風》など同館所蔵の国宝7件が集結。そのほか茶道具、琳派、刀剣、中国書画などから同館を代表する名宝が揃う。印象派など、充実の展示を行ってきた〈三菱一号館美術館〉は1ブロックお隣だ。丸ノ内で洋の東西を越えて美が競う。
●創立150年記念 特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』東京国立博物館:10月18日~12月11日
2022年は〈東京国立博物館〉が「文部省博物館」として創立されてから150周年にあたる節目の年。それを記念して、同館の膨大な所蔵品から国宝89点をすべて展示するビッグイベントが行われる。150年の歴史上、初めての試みだ。
展示は2部構成。国宝が勢揃い(展示替えあり)するのは第1部になる。金地に堂々たる檜が描かれた狩野永徳《檜図屛風》、松が風にそよぐかのような神秘性を帯びる長谷川等伯《松林図屛風》、3年にわたる全面修理後、初の公開になる《埴輪 挂甲の武人》、飛鳥時代の優美さを偲ばせる法隆寺献納宝物の数々……。一部を紹介するだけでも圧倒される豪華さだ。第2部では同館の150年を3期に分けて振り返る。ここでも《遮光器土偶》や尾形光琳《風神雷神図屛風》(ともに重要文化財)など、きらびやかな名品が目白押しだ。かつて総合博物館として自然科学資料も展示していた時代の証人として、今はお隣の国立科学博物館にいるキリンの剥製標本も帰ってくる。日本美術史のトップスターを堪能できる。
●『智積院の名宝』サントリー美術館:11月30日~ 2023年1月22日
豊臣秀吉の愛息、鶴松はわずか3歳で亡くなる。悲しみにくれた秀吉は菩提を弔うため〈祥雲寺〉を建立した。その障壁画を描くという大役を担ったのが当時、狩野派としのぎを削っていた長谷川一門だ。長谷川等伯は息子の久蔵とともにこの大仕事に取り組み、等伯が《楓図襖》、《松に秋草図屛風》を、久蔵が《桜図襖》を手がける。金地に胡粉を盛り上げて桜の花びらを表現する力強い《桜図襖》、楓の太い幹と根元の繊細な草花の対比が美しい《楓図襖》、たなびく雲のようにも見える松に秋草がそよぐ《松に秋草図屛風》はいずれも国宝だ。
このころ等伯は五十代、彼が期待をかけていた久蔵は二十代半ばの若さだったが、《桜図襖》を完成させた翌年に急逝してしまう。〈祥雲寺〉は豊臣家が滅亡した後、智積院に引き継がれ、現在これらの襖は智積院収蔵庫に飾られている。この展覧会はこれらの障壁画が寺外で一堂に揃う初めての機会。絢爛たる桃山の美に東京で出合える。