December 19, 2021 | Architecture, Culture | a wall newspaper
サウナ好きとしても知られる建築家の谷尻誠が、2つの異なる個性豊かなサウナ建築を提案。
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「サウナと茶室って似てますよね?」と、サウナ好きの建築家、谷尻誠は言う。小空間に入り込み、道理にかなった所作を通して精神を統一する。なるほどそう言われれば、似ているかも。
「かつて、武士や将軍は茶室に入る時に刀を置き、身分を忘れて茶を楽しんだ。サウナも全く同じです。年齢も職業も関係なく、みんな真っ裸で汗をかく。空間への向き合い方は一緒だと思います」
かくして谷尻は、茶室のようなサウナ、〈サ室〉を作ろうと思い立つ。場所は神奈川県相模原で自身が営むキャンプ施設〈DAICHI silent river〉。日本画のような山々と穏やかな川に囲まれたその風景は、都心から1時間ということがウソのような秘境である。
「サウナで汗をかいた後はそのまま川にザブン。最高です」
谷尻がサウナに目覚めたのは3年前。“ととのえ親方” の異名を持つプロサウナーの松尾大に楽しさを伝授され、あっという間にのめり込んだ。キャンプへ行く時は常にテントサウナを持参し、今でも週3、4回はサウナに入っているという。そんな経験とサウナ愛を存分に生かしたのが〈サ室〉というわけだ。
■神奈川|相模原〈サ室〉
桃源郷を眺めつつ汗をかく。茶室のようなサウナ。
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室内の広さは2畳。千利休が作ったと言われる国宝の茶室「待庵」と同様だ。壁は杉皮張りで、屋根は銅板葺き。伝統的な茶室への敬意でもあるし、サウナの新しい形の提案でもある。
「従来のログハウス的なものではなく、もっと自由なサウナ建築を考えなくちゃと思ったんです」
景色を楽しめるように壁の2面をガラス張りとし、炎が見えるオリジナルのサウナストーブもデザイン。いったん室内に入れば、めらめら揺れる炎、懐かしい煙の香り、薪がパチパチ爆ぜる音……と五感で豊かな時間を味わえる。
「サウナや水風呂後の外気浴もたまらないんですよ。夜なら満天の星の下でゴロンと寝転んで過ごすこともできる。大自然と一体化するような感覚に包まれます」
ところで、〈サ室〉の原点となった茶室は元来、移築も可能な建築である。「待庵」しかり、豊臣秀吉が利休に作らせた「黄金の茶室」しかり。解体して建て直しできるよう設計されていたものも多いのだ──そんな歴史をひもときながら、次は谷尻が作った移設可能なサウナ建築を訪ねてみた。
■山梨|北杜〈石のサウナ〉
石を積むだけで完成!? 移設可能なアートサウナ。
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向かったのは山梨県北杜市にある清春芸術村。昨年よりアートディレクターの吉井仁実が始めた芸術祭『HOKUTO ART PROGRAM ed.1』の会場だ。谷尻が建てたのは〈石のサウナ〉。もともと “建築家が作るテント” というテーマのプロジェクトだったのだが、そのお題を「テント=移設可能な建築」と自己流に解釈。出来上がったのはご覧の通りのアートなサウナ。土木工事に使う “蛇籠” の中に石がごろごろ詰まっている。
「石を積んでいるだけなので簡単にバラせます。実は芸術祭が終わったら、自分たちのキャンプ場に移そうと目論んでいたんですよね。今回は敷地のある地元で採れた石を使用していますが、籠だけ移設すれば、設置する土地土地の石を入れて、その土地の色合いを持ったオリジナルのサウナ建築ができるんですよ」
建てる場所によって、二つとないオリジナルなサウナとなるこの〈石のサウナ〉。当初は期間限定の予定だったが、改装を施し、会期終了後も継続的な建築物として残ることと相なった。
「建物が残るのは、建築家としてもサウナーとしても非常にうれしいこと。サウナって知恵の塊だと思うんです。火と水と木という、昔から身近にあったものだけで、こんなに豊かに遊べるんですから」
最近は旅先や郊外の町で小さな建物に出会うたび、もれなくサウナに見えてしまうのだとか。
「もっといろんなサウナを作りたいですね。洞穴のようなサウナとか、地面に穴を掘って入るサウナとか。今は、キャンプ場の木の上に “ツリーサウナ” も計画中です」
■谷尻さん流、サウナの入り方。
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