October 22, 2021 | Culture, Architecture, Design | casabrutus.com
昨年創業80年を迎えた木工家具メーカーの歴史はいつもモダニズム建築の巨匠やデザイナーたちの挑戦とともにありました。
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20年ほど前から再評価と保存の気運が高まり、今では建築にそれほど詳しくない層からも注目を集める「日本のモダニズム建築」だが、その中におさめられている家具にまで注視する人は少ないだろう。しかし、あなたがよく知る老舗ホテルのバーのチェアも、市役所のベンチも、時折通う図書館のデスクも、あれもこれも実は名だたる建築家やデザイナーと木工家具メーカー〈天童木工〉との協働によって生まれたものだったんだ!――そんなふうに目を見開かせてくれるのが、2020年に創業80周年を迎えたことを記念して出版された書籍『天童木工とジャパニーズモダン』だ。
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504ページ、厚さ約3.5cmというボリュームに一瞬ひるみそうになるが、心配は無用。貴重な写真資料や当時のカタログ、雑誌記事などビジュアルが満載で、〈天童木工〉の歴史をわかりやすくたどることができる。時代ごとに〈天童木工〉と協働した建築家やデザイナーの仕事にも焦点を当て、単なる一企業の年代記を超え、「ジャパニーズモダン・デザイン」がどのように醸成されていったのかを知る貴重な資料になっている。
〈天童木工〉の歴史は1940年に山形県天童市(旧天童町)で、大工、指物、建具など木工業者たちの組合組織から始まった。戦中は木製のオトリ飛行機など軍需生産に注力し、終戦直後の進駐軍用家具の生産を経て、戦後復興で需要が高まった一般向けの家具製作に方向転換した。1947年には成形合板(プライウッド)の技術をいち早く導入し、その後の会社の方針を決定づけた。
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〈天童木工〉の歴史に多大な影響を与えたのが、工業デザイナーであり “ジャパニーズモダン” という言葉を最初に使った人物、剣持勇だ。国立工藝指導所東北支所に勤めていた戦前から、剣持は製造指導のために〈天童木工〉を訪れていた。そして〈天童木工〉は戦後に民需の家具制作へと舵を切った際に、剣持らに家具デザインと生産指導を依頼したのだ。
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1952年に米国視察へ出かけ、イームズ夫妻やフランク・ロイド・ライトらと交流し、現地で流行していた北欧家具も実際に目にしたことで、「ジャパニーズモダンとは何か」という命題を背負って帰国した剣持。誰もやったことのない未知のデザインを〈天童木工〉に次々と依頼し、難題に直面しながらジャパニーズモダン家具の道を切り拓いていったのだ。
その後50年代には坂倉準三、柳宗理、丹下健三、前川國男、60年代に渡辺力、70年代にはブルーノ・マットソンやオスカー・ニーマイヤーなどの海外勢、80年代は磯崎新、黒川紀章、喜多俊之など、各時代を代表する建築家やデザイナーから家具製作の依頼が次々と舞い込む事情は、豊富な写真資料や当時を知る関係者の証言などで詳細に語られている。その一つひとつが、プロダクト誕生の秘話や苦心譚に満ちていて面白い。
編集と執筆を手がけた山田泰巨はこう語る。
「今でこそデザイナーと協働する家具メーカーは他にもありますが、それを50〜60年代から取り組み、いち早く“デザインの力”に注目していた国内メーカーは他にありません。そして、現在もなお使い続けられ、壊れたら補修にも対応できるのは、歴史と技術の両方が備わっているからこそ。それも、少人数の工房ならともかく、官公庁や学校などからの大量注文に応じられるほどの大会社でそういう体制が取れているという点で、稀有な存在だと思うのです」
後半には川上元美、隈研吾、ナガオカケンメイら、関わりのあるデザイナーやクリエイター12名へのインタビューも収録している。
「低座椅子に代表される50~60年代のプロダクトだけでなく、90年代〜2000年代も優れたデザイナーたちと協働されていることにも目を向けたいと思いました。いま現役で活躍しているデザイナーの方たちにもインタビューすることによって、〈天童木工〉の歴史が現在進行形であることを伝えられたと思います」
創業80年を記念した「TENDO JAPANESE MODERN / 80PROJECT」の一環として、3人のデザイナーを招聘し、新作家具を制作。このプロダクトについても本書に収められている。
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ページをノド元までフラットにひらけるコデックス装で読みやすく、ところどころに木目をプリントした厚紙を挟み、小口から見える茶色の用紙と白い用紙の見え方がまるで成形合板の断面を思わせる、アートディレクター・高橋万実子による心憎い造本デザインも魅力だ。
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