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村野藤吾の名作を守れ! スポンサー募集中です。

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August 26, 2016 | Architecture | casabrutus.com | text_Katsura Hiratsuka editor_Yuka Uchida

福岡県・北九州市にある〈八幡市民会館〉。村野藤吾が手がけた作品性の高いモダニズム建築だが、耐震面やバリアフリー改修の課題から取り壊しの危機にある。そこで今年6月、地元まちづくり団体が立ち上がり、建築家らの協力で現代美術館に再生するプランを発表。単に建築の保存を叫ぶのではなく、活用の計画案を提案する前向きなこの取り組み。そのポイントを提案者のひとり、建築家の宮本佳明さんに聞いた。

〈八幡市民会館〉ホール内観。1958年築、鉄鋼業の街として栄えた八幡の戦後復興のシンボルだったが、2016年3月に惜しまれつつ閉館。
Q 提案では、音楽ホールから美術館へと用途が変わっています。なぜ使いみちを変えるのですか?

ひとつは耐震補強の合理化です。ホールの空間を維持する場合、ホール外側から耐震補強しないとなりません。しかも元の建物が、構造的にはかなり変わっている。耐震補強に費用がかかり、外観やホワイエの意匠も損なわれかねません。美術館ならば、ホールの空間を維持する場合に比べて半分以下のコストで耐震補強できます。
〈北九州現代美術センター〉改修プラン。2019年の完成を目指している。
Q 文化遺産を残すにはお金がかかるというこれまでの認識を覆す、合理的なプランですね。設計のポイントを教えてください。

ホール内に展示室を散りばめて、それらを支える構造体を耐震要素として機能させるアイデアです。袋にものを詰めると、しっかりするでしょ? そんなイメージです。
展示室をホール内に入れ子状に配置することで、従来のホワイトキューブミュージアムとは異なる空間が生まれる。
Q 美術館以外の使い方でも同様の方法で補強できそうですが、それでも美術館として再生すべき理由とは?

美術館にすると、集客効果が期待できるからです。現代アートで観光客を呼び込み、まちおこしにつなげた事例は国内外にたくさんあります。かつて鉄鋼業で栄えた八幡を再生する起爆剤として有効なはずです。今回の提案を主導した「八幡市民会館リボーン委員会」の中では鉄鋼業の博物館にするアイデアも出ていたのですが、うまくスポンサーが付かなかったそうです。でも美術館なら出資してもよいと言ってくれる企業が出てきて、実現に動き出しつつあるのです。
〈八幡市民会館〉の内部。階段の構造も美しい。
Q 改修費をスポンサーからの資金でまかなうプランなのですか?

バリアフリーと耐震補強の費用は行政、美術館への改修にかかる約5億円は民間で分担する計画です。スポンサーは集まりつつありますが、まだ足りていません。ぜひご協力お願いします!


Q では、この建物の魅力とは? 協力を募るためにも、詳しく教えてください。

〈八幡市民会館〉は1958年築。戦後、民主主義が定着する中で生まれた“市民会館”という施設の先行事例です。村野藤吾というのは不思議な設計をする建築家で、特にこの建物は分析すると、相当変わったことをしています。印象的なのはホールの量塊感ですが、このマッシブなボリューム、実はガラスのスリットの上に浮かぶように建っています。
〈八幡市民会館〉外観。ホールのボリュームが緩やかなコノイド曲線を描く。
Q 重いものを、あえて浮かべる。先ほど「構造的に変わっている」とおっしゃっていたのは、これなのですね。

なおかつこのボリューム、真正面から見ると両端の壁がわずかに外側に広がっています。さらに横から見ると、壁が非常にゆるやかな曲面を描きながら、中心に向かって外側に倒れています。つまりコノイド曲面です。模型をつくり、図面を描いたからわかるレベルの、かすかな曲面です。コンピュータのない時代の設計技術、施工技術で実現させるのは、恐ろしく難しかったはずです。
館内には村野らしい造形美が散りばめられている。
Q 言われないと気づかないわずかな曲面、造形美への執念を感じます。改修プランが実現したら、どのような美術館になるのでしょうか。

美術館の運営は元々近くにあった、世界中のアーティストと豊かなネットワークを持つ〈現代美術センターCCA北九州〉が担います。ここには中村信夫さん、三宅暁子さんという力のあるキュレーターがいて、レム・コールハースやオラファー・エリアソンらを早い時期から招いていました。彼らは常設の建築ギャラリーを設け、さらにはこの施設を拠点とし、北九州市で建築ビエンナーレもしくは建築トリエンナーレを開催することも構想しています。
2019年完成を目指して提案する、〈北九州現代美術センター〉の断面模型。
Q 建築をテーマとする国際展は日本にはないので、ぜひ実現させてほしいです。ところでなぜ宮本さんが、改修プランの作成に関わることになったのでしょうか。

それもきっかけは〈現代美術センターCCA北九州〉です。2009年頃に福岡県飯塚市にある麻生家所有のお屋敷を改修する計画があり、僕を含む数人の建築家に声がかかりました。そこからCCAとの関わりがはじまって、2010年の秋頃にCCAから、存続の危ぶまれる〈八幡市民会館〉を美術館として活用するための改修プランを立ててほしいと相談を受け、2011年の初頭にかけて改修のための素案をつくりました。


Q なんと5年以上前から。ずいぶん長く関わっていらっしゃいますね。

以来、周辺エリアが再開発されて市立病院ができる、隣接する村野藤吾設計の〈八幡市立図書館〉の解体撤去が決まるなど、さまざまな動きがありましたが、再生プランの計画が組織的に動き出したきっかけは2年ほど前になされた、2016年3月いっぱいで〈八幡市民会館〉の使用を終了する方針の決定でした。
館内には既存のステージも部分的に残す。市民たちが開催してきたカラオケ大会もここで継続して開催できる。
Q この3月で既に使用終了に。いよいよ後がなくなっていますね……。

抜き差しならない状況を受けて、地元の有力企業などが組織するまちづくり団体「八幡夢みらい協議会」が2014年に〈八幡市民会館〉を保存活用するための組織「八幡市民会館リボーン委員会」を立ち上げました。僕は昨年から彼らと連携し、再生プランのハード面を担っています。建築家の曽我部昌史さん、古森弘一さん、専門委員として構造家の金田充弘さん、九州大学に所属する建築家の末廣香織さん、建築批評家の五十嵐太郎さん、建築史家の笠原一人さん、倉方俊輔さんの協力を得て、以前に僕がつくった案をブラッシュアップさせる形で改修プランをつくり、発表したというわけです。


Q 〈八幡市民会館〉がこの3月で使用終了し、既にホールとして使われていないということは、再生プランを実現させないと、今後は一般客が〈八幡市民会館〉の中に入る機会もないまま解体されてしまう可能性もあるということでしょうか。

はい。隣の〈八幡市立図書館〉はすでに解体がはじまったそうです。われわれの再生プランがうまくいかなければ、〈八幡市民会館〉も取り壊しになります。少しずつ資金を集めて、実現させるしかありません。ご興味のある方、共感される方、ご連絡をお待ちしています。

北九州現代美術センター(仮称)整備構想

地元まちづくり団体を母体とする「八幡市民会館リボーン委員会」が提案し、改修プランを宮本さんら建築関係者が作成。八幡市民会館リボーン委員会を窓口にスポンサー大募集中です! 八幡夢みらい協議会事務局 TEL 093 661 2501
0826yahatasiminkaikan09_340

宮本 佳明

みやもとかつひろ 1961年生まれ。建築家。大阪市立大学教授。阪神・淡路大震災で全壊判定を受けた長屋を補強した〈「ゼンカイ」ハウス〉など、制度や固定観念を覆す改修に実績あり。出身地で拠点のある兵庫県宝塚市には村野藤吾の名建築が多く、愛着を持つ。

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