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ローテクの「コンテナ住宅」が今なぜ注目されるのか|吉田実香のNY通信

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February 10, 2021 | Architecture, Design | casabrutus.com

アップサイクル建築のパイオニア、〈LOT-EK(ローテク)〉。彼らの貨物コンテナ住宅は現在、一般でも購入できるという。そもそもコンテナに住む魅力とは? 代表のアダ・トーラに話を聞いた。

NY州北部ハドソンに完成した《c-ホーム・ハドソン》。40フィートのコンテナ6個を組み合わせた。

〈LOT-EK〉といえば、コンテナ建築。〈LOT-EK〉が輸送コンテナで建築を作り始めた1990年代初頭、その斬新な発想と美意識は見る者に衝撃を与えた。アップサイクル、リ・パーパスという言葉が広く普及するのは、その何十年も後のことだ。工業用資材を再利用した住宅や商業施設は今でこそ世界各地で見られるが、思わぬものから美を生み出すことにかけて〈LOT-EK〉はその元祖と呼べるだろう。

近年は美術館でのインスタレーションや、商業施設のデザインなど大規模プロジェクトで知られる彼らだが、その原点のコンテナハウスはプレハブ住宅として一般向け販売も行っている。その名を《c-ホーム》。プレハブとはプレファブリケーション、つまり必要なパーツが全てあらかじめ用意され、施主は現場で組立てるだけといういわばキットである。輸送コンテナは20フィートx 8フィート(面積14.2平方メートル)と、40フィートx 8フィート(29.7平方メートル)。この2種類をモジュールとして組み合わせ、郊外・都市部を問わず住まいや別荘を作ることができるのだ。

《c-ホーム・ハドソン》は斜めの窓が特徴だ。

都市から郊外や地方へ移住する人々や企業が後を絶たない、このご時世。ニューヨーク大学スターン・ビジネススクールの統計によれば、マンハッタンでは昨年の春から夏にかけて人口の15~20%が流出したという。また郊外に家を構える人の間でも、自宅の敷地内に仕事場を作りたい、部屋を増やしたいというニーズは高まるばかり。アメリカはそもそも、キャンピングカーや農業用サイロなどを改装しては個性的な居住空間として楽しむお国柄だ。「2日で建つ」と言われるコンテナ住宅は憧れの一つなのである。

しかし、なぜ《c-ホーム》? コンテナ住宅といえば耐久性やコスト面、サステナビリティで優れていると思われがちだが、必ずしもそうとは限らない。購入者は中古コンテナよりも新品を求めがちなので、その場合サステイナブルではない。箱ではなく建築物の扱いになるため建築基準法に準じる必要もある。そのままでは自然光が入らない。そうした問題を〈LOT-EK〉は長年の経験と知識でクリアする。

建築用コンテナではなく、中古の輸送コンテナをあえて利用するのが彼らの流儀だ。家づくりはまずコンテナ選びから始まる。傷み具合はどうか、有害な薬品を運んだ形跡がないか確認する。とりわけ念入りにチェックするのが床のアピトン合板だ。というのも〈LOT-EK〉はコンテナの床をほぼそのまま生かす。表面は軽く研磨して、汚れや傷みを取り除き、なめらかにした後、マットフィニッシュを塗る。子どもを裸足で走り回らせても大丈夫で掃除もしやすく、見た目もエレガントな床の完成だ。

リビングを戸外へと拡張させる、ウッドデッキ。

スチールでできた波状の壁や天井も覆うことなく、ペイントを表面に施す程度にとどめ、むき出しのまま見せる。床や天井の裏には断熱材を入れ、防寒を図る。斜めに切り取られたガラス窓は《c-ホーム》の特徴のひとつ。採光・換気といった機能に加え、〈LOT-EK〉らしいデザイン性も備わるのだ。〈LOT-EK〉のアダ・トーラに話を聞いた。

─コンテナ住宅をプレハブとして一般向けに販売し始めた、そもそもの理由は?

輸送コンテナを使ったプレハブ住宅は、私たちが長年目指していたものでした。理由は2つ。1つは〈LOT-EK〉へのコンテナ住宅の問い合わせが非常に多かったこと。もう1つはコンテナそのものが住宅向きの特性をあまりに備えているからです。規模やモジュール性、耐久性。トラックや船舶、列車と多くの輸送手段でどこへでも移動可能です。そして使われていない、もしくは廃棄されたコンテナが世界各地に大量に放置されているという事実。これが何より大きいですね。

─コンテナ建築のプロジェクトを、これまで各地で手がけてきましたね。

2000年に設計した《モデル・デュエリング・ユニット》(MDU)は、ミネアポリスのウォーカー・アート・センターとNYのホイットニー美術館で展示されました。2007年には《コンテナ・ハウス・キット》(CHK)を発表しています。その後プーマのポップアップ《プーマ・シティ》や、21個のコンテナを使ったブルックリンの住宅《キャロル・ハウス》が完成します。この時に用いたのが、キャンティレバーや構造的なカットでした。《c-ホーム》では、斜めに切り取られた窓が個性を鮮やかに際立たせる、シンプルに積み重ねた構造を目指しています。

─パンデミックにより職住融合、地方移住など「居場所」のあり方は激変しました。

コロナは戸外への新たなニーズを生み出しました。家で大人はリモートワークをこなしながら、子ども達は学習や活動をしないといけない。都市の賃貸住宅では難しく、かといって郊外に一軒家を買うとすれば予算も時間もかかります。求められるのはすばやく入居でき、コストも抑えられてサステイナブルな家です。

─《c-ホーム》に惹かれる人が多いわけです。

中古コンテナのアップサイクル建築だし、プレハブで組み立てられる。その上、屋外や自然と一体化する開放感もありますからね。

施主のヴィクトリア&デイブ夫妻。〈LOT-EK〉の作品集を見たことがきっかけでこの《c-ホーム》を依頼した。

─〈LOT-EK〉にとってプレハブ式コンテナ住宅とは?

かつてジャン・プルーヴェやイームズも、プレハブや可動式の住居を通じて組み立てやすいモジュール式の住まいに挑んだものです。そのニーズは今も変わりません。大量生産できる移動可能な材料によって、便利でローコストな解決法が見いだせるだけでなく、見た目も美しい! コンテナは、現代の世界経済・文化を体現するオブジェであり素材です。私たちはこれまで培ってきたコンテナの知識をフルに活用し、建設の簡素化と効率向上、サステナビリティ、そして素晴らしい居住体験をもたらしたいと願っています。

《c-Home》

コンテナハウス《c-Home》は全米各地に輸送可能で、日本含む海外での対応も進行中。問い合わせは公式サイトから。

LOT-EK

1993年、イタリア出身のアダ・トーラ(右から2番目)とジュゼッペ・リグナーノ(左端)によりニューヨークのミートパッキング地区に設立された建築デザイン事務所。2020年には、ドミノ・パークでアーティストJRとのコラボレーション作品も。作品集『LOT-EK Objects + Operations』(The Monacelli Press)。写真は2人の他、中心メンバーのヴァージニー・ストルツ(左から2番目)とレザ・ジア(右端)。https://lot-ek.com/

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