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迫力&緻密! 日本建築模型の魅力に触れる「たてもの」展。

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January 14, 2021 | Architecture, Culture | casabrutus.com

東京・上野の〈東京国立博物館 表慶館〉で、『日本のたてもの ー自然素材を活かす伝統の技と知恵』展が開催中。塔や寺社仏閣、書院・茶室、城郭や民家など、さまざまな日本建築の模型がずらりと並ぶさまは圧巻だ。

展示風景写真(「一乗寺三重塔 1/10模型」「法隆寺五重塔 1/10模型」「石山寺多宝塔 1/10模型」)

この展覧会では古代から近世にかけて建造された、さまざまな様式の日本建築の縮小模型を展示しながら、日本の建築史をたどり、建築技法の特徴を見せている。2フロアに19件の模型展示(参考写真を除く)と聞くと「物足りない」と思うかもしれないが、さにあらず。模型とはいえ一つひとつが見上げるほど大きく、近寄ればディテールの精巧さにびっくり。本物そっくりの大迫力で迫ってくる。

檜皮(ひわだ)葺きや杮(こけら)葺き、瓦葺き屋根の反り具合や、柱や梁の構成、軒を支える組物のディテール、空間のプロポーションを構成する木割り、部材の質感など、模型はすべてをできる限り忠実に縮小再現して見せている。文化庁の事業として製作された模型のほとんどが建造物を縦に真っ二つに切り分けた状態に作られており、内部空間の構成までつぶさに観察することができる。

展示風景写真(「長寿寺本堂1/10模型」)

そもそも建築模型とは、1. 建築前の計画段階で構造や細部を検証するため、2. 建築を学ぶ教材として、3. 実際に見ることができないものを見せるため、4. 記録として残すため、という4つの目的のいずれかのために作られてきた。それは近代に限ったことではなく、奈良時代にはすでに元興寺極楽坊五重小塔(国宝)が、1の目的で製作されていたというから驚きだ(今回は展示されていない)。

唐招提寺金堂1/10模型 1963年 東京国立博物館蔵

昭和35年からは、文化庁が文化財建造物模写・模造事業を開始し、重要な指定建造物の模型が計画的に制作されるようになった。国を挙げての事業として毎年ほぼ一基ずつ作られ、現在その数は39基にのぼる。実際の建物の解体・修理の際に、調査の一環として作られた例も少なくない。

模型の製作にあたっては、縮尺は10分の1とすることが決められた。これは寸を尺に、尺を丈に換算するのに便利だからというのが理由だ。今回展示されている模型でも、松本城は1/20で作られているが、それ以外は1/10模型が多い。模型の製作者は歴代活躍した大工棟梁が多く、しかも若いうちに模型製作を任されている。その大工が、のちに本物の建造物の修理事業に携わってもいる。模型を作ることは、すなわち職人の技術や知識を育てる教育的役割もあったのだ。

模型は、その巨大さから保管スペースの問題がつきまとう。ずっと常設展示しておくわけにもいかない。現在では〈東京国立博物館〉、〈国立歴史民俗博物館〉、〈金沢工業大学〉などを中心に分散収蔵(一部貸与)され、また実際の建造物の所在地の施設に収蔵されることも多くなった。倉庫に眠ったままの模型も少なくないことを考えると、今回19件も揃ったことは、まれな機会といえるだろう。日本建築史をたどりながら、模型を精巧なオブジェとしても堪能できる展覧会だ。

折しも、2020年12月には「伝統建築工匠の技」のユネスコ無形文化遺産登録が決定したばかり。日本の伝統建築が茅葺き、屋根板製作、宮大工、建具師、左官、畳製作、茅採取など、今や存亡の危機にある数多くの技能と職人に支えられていることにも目を向けたい。

特別展『日本のたてもの ー自然素材を活かす伝統の技と知恵』

〈東京国立博物館 表慶館〉 東京都台東区上野公園13-9TEL 03 5777 8600(ハローダイヤル)。~2021年2月21日。9時30分~17時(※緊急事態宣言をふまえ、当面の間、金・土曜の夜間開館を中止)。月曜休。一般1,500円ほか。オンラインによる事前予約制。

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