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金沢に〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉オープン!

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August 4, 2019 | Architecture, Travel | casabrutus.com

時代ごとに上質なモダニズム建築を生み出してきた谷口吉郎・吉生の父子。父、吉郎の出身地である金沢にふたりの名を冠した建築館がオープンしました。

〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉、寺町通りから見た外観。 photo_Toshiharu Kitajima

金沢市内の九谷焼の窯元に生まれ、高等学校卒業まで金沢で過ごした谷口吉郎。〈東宮御所〉や〈東京国立博物館東洋館〉などを手がけ、日本建築界の重鎮として活躍した。また第二次世界大戦の被害を受けなかったにもかかわらず戦後、開発などによって失われていく金沢の街並みを憂慮、歴史的建造物の保存活用を提言して金沢名誉市民の第一号となっている。

〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉の反対側に犀川が流れる。 photo_Toshiharu Kitajima

〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉は犀川のすぐ近くにあった彼の住まいの跡地に建設されたもの。吉郎が没する前、将来、文化振興に役立てて欲しいと金沢市に寄付することを願っていた。設計は子の谷口吉生。建築や都市をテーマにした特別展によって、訪れた人が建築文化やまちづくりについて考えるきっかけにすることを目指している。

2階の〈迎賓館赤坂離宮別館 游心亭〉を再現した常設展示。谷口吉郎の和風建築の最高傑作だ。 photo_Toshiharu Kitajima

建築の展覧会では、実物を展示することはできない。そこで、ここでは常設展として吉郎が設計した〈迎賓館赤坂離宮別館 游心亭〉の「広間」と「茶室」を原寸大で再現した。

「父の建築と私の建築は違う。父の建築の額縁のようになればいいと思い、できるだけシンプルに設計した」と吉生は言う。

広間は広縁、外部の水庭へと通じており、木々の先に金沢の空が広がる。赤坂離宮では日本庭園が見えるが、ここでは吉郎が生まれた地の景観が借景となっている。この〈游心亭〉の再現には細心の注意が払われた。

「広間の広縁のクスノキ板は偶然にも〈游心亭〉の施工を担当した水沢工務店に全く同じものが残っていたので、それを使いました。茶室の床の間のヤニマツなども実物と比べて、可能な限り近いものを探しています」

「茶室」は小間4畳半の畳席の周りに椅子席が配されたもの。小間が能舞台のようにも見える構成だ。 photo_Toshiharu Kitajima

極細の茶室の障子の桟など、吉郎独自のディテールも完全に再現した。

「父の建築の場合、部分と全体のプロポーションが大切なんです。畳の縁も特別に細い。こういったことは図面だけではわからないので、〈迎賓館赤坂離宮〉にお邪魔して実測させてもらいました」

再現された〈游心亭〉では、残念ながら方位だけはオリジナルのものと合わせることができなかった。これが心の中ではずっとわだかまりになっているという。それ以外はプロポーションも素材の扱いもオリジナルと同じだ。

開館記念特別展「清らかな意匠」の様子。 photo_Keiko Kusano

地下1階は企画展示室になっており、現在は開館記念特別展「清らかな意匠」が開かれている。展覧会のタイトルは〈東宮御所〉(現・赤坂御所)など、吉郎が完成させた端正な気品にあふれる建築からとった。〈慶應義塾幼稚舎〉、〈藤村記念堂〉、〈東京工業大学70周年記念講堂〉など彼の初期から晩年までの作品の資料が並ぶ。貴重な建築の保存を訴え、吉郎が初代館長を務めた〈博物館明治村〉の資料のほか、「雪あかり日記」などの著作物や原稿など、文筆家としても知られた彼の横顔が見られる。

「清らかな意匠」展展示風景。写真や模型、テキストで吉郎がそれぞれの建築に込めた思いを辿ることができる。 photo_Keiko Kusano

吉生は父の建築について、こう語る。

「建築で成功した父と競争するのを避けたかったので、大学では機械工学を勉強したんです。が、ある機会があってアメリカに留学して建築を学びました。本質的には私の建築は父の建築とは違うのですが、父が亡くなったあと、頼まれて父が作ったものの改修工事などをやっているうちに、父の建築もできるようになった。〈豊田市美術館〉では本館は私の建築ですが、茶室が欲しいとの要望でしたので、父の写しとして作りました。もうすぐ完成する〈ホテルオークラ東京〉でも日本建築は父の写し、現代建築は私のオリジナルというように分けています」

和風モダニズムを完成させた父・谷口吉郎と、ミニマルで現代的な息子・谷口吉生の作風は確かに対照的だ。しかし吉郎の〈游心亭〉に見られる細い桟や縁は、この建物のファサードに並ぶ細い柱に通じるものがある。手すりなどのディテールの隅々にまで気を配った繊細な空間も共通するものだ。また、ともにヒューマンスケールに基づくのびやかさ、居心地のよさがある。この博物館で改めて、ふたりの建築の違いと共通点に気づかされる。

谷口吉生設計の〈鈴木大拙館〉。 photo_Shinichi Ito

金沢には〈石川県繊維会館〉(現・金沢市西町教育研修館)と〈石川県美術館〉(現・石川県立伝統産業工芸館)の2つの吉郎作品が残っている。吉生は〈鈴木大拙館〉を手がけた。また、めずらしい2人の共作として〈金沢市立玉川図書館〉がある。

〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉を堪能したあとは、これらの建築を巡って実際の空間を体験したい。また東京の〈迎賓館赤坂離宮別館 游心亭〉も一般参観が可能となった。こちらは50年以上の時を経て味わいを増している。〈金沢建築館〉のものと比べてみるのも一興だ。

開館記念特別展「清らかな意匠」― 金沢が育んだ建築家・谷口吉郎の世界 ―

〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉石川県金沢市寺町5-1-18。~2020年1月19日。9時30分〜17時。月曜休(ただし月曜が休日の場合はその直後の平日が休み)、12月29日〜1月3日休。一般300円。

谷口吉郎

たにぐち よしろう 1904年、金沢市生まれ。東京工業大学で教鞭を執り、博物館明治村初代館長、金沢市名誉市民第一号など。主な作品に〈ホテルオークラ〉〈東京国立近代美術館本館〉〈慶應大学新萬來舎〉〈金沢市立玉川図書館〉(谷口吉生と共同設計)などがある。主な著作に『雪あかり日記』『せせらぎ日記』など。1979年没。

谷口吉生

たにぐち よしお 1937年、吉郎の長男として東京に生まれ、戦時中を金沢で過ごす。米ハーヴァード大学建築学科卒業、東京大学丹下研究室に在籍。主な作品に〈葛西臨海水族園〉〈丸亀市猪熊弦一郎現代美術館〉〈東京国立博物館法隆寺宝物館〉〈京都国立博物館平成知新館〉〈ニューヨーク近代美術館改築〉など。高松宮記念世界文化賞など受賞多数。

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