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吉田実香のNY通信|開かれたオークションハウス、新生サザビーズとは。

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July 25, 2019 | Art, Architecture | casabrutus.com

この夏、足を運びたいのがNYのサザビーズ。創立1744年、伝統ある英国オークションハウスが重松象平+OMA NYの設計により、巨大かつ洗練されたアート体験空間へと進化した。

新生サザビーズの開放感あふれるエントランス。

知っているようで、日本ではなじみ薄いのがオークションハウスだ。コレクターなど所有者から出品された「お宝」をオークションにかける会社で、クリスティーズとサザビーズが二大巨頭。パドルを握りしめ、丁々発止で競り合うスリリングな競売会場をイメージしがちだが、超高額な美術品を購入する為だけの場所ではない。ヨーロッパやアメリカでは、一般市民がアートやジュエリー、ワインやウォッチなど好きなものを探しに足を運ぶ。ヴィンテージ・ショップをうまく使いこなす欧米人にとって、オークションハウスもその延長線上なのか、ごく自然に親しむ様子が見受けられる。

でも、入札する予定が無くても作品を見ることはできる? 入場料ってやっぱり高い? ギャラリーもある? そんな疑問も湧くだろう。出品作品を観る機会を、あらゆる人に無料で提供するのもオークションハウスの伝統だ。このたび大規模な増改築を完了したサザビーズの本社屋は、これまで「知る人ぞ知る」存在とも言えた同社ギャラリーに、かつてなく開かれたアート体験空間という定義を真正面からもたらした。

2階分のフロアを抜いて巨大ギャラリーに。高さ6メートルある3部屋の1つ。建物に元々あった柱の美しさを、オリジナルの質感と共に引き出した。

設計はOMA NY率いる重松象平。このサザビーズは重松にとってアメリカで過去最大のギャラリープロジェクトだ。建物の全11階のうち4フロアを占めるギャラリーは大小合わせて、実に40室。さらにプライベートセールス用ギャラリーが9室。美術館並みというか、ちょっとした美術館を凌ぐ展示面積そして作品点数が、この建物に収められている。バリエーションは部屋のサイズにとどまらない。足を進めるにつれ床や壁の素材、形やスケール感など20種類もの空間が次々と現れて、重松呼ぶところの「多様性を通じた柔軟性」を体感することができる。

ギャラリー面積が従来の6,200平米強から約8,400平米に拡大したばかりでなく、建物のヒエラルキーも根底から変えられた。以前は最上階である10階が大ギャラリーで、この「プレミアム・フロア」をトップに据え、あとは7階や2~4階にバラバラと中・小規模のギャラリーが配してあった。新生サザビーズでは、1~5階つまり低層階にギャラリーを集約させてある。そのおかげで、サザビーズを訪れる人は建物に足を踏み入れたとたんに、質・量ともに圧倒的な美術品の間をただちに「回遊」し始めるのである。

パネルや扉などはステイン(着色)を施したクルミ材。ロンドンのサザビーズ社屋で用いられたウッドへの敬意を込めて。

オープンに開かれた気風は、エントランスからすでに始まっている。ガラスの扉から中に入ると、レセプションデスクの後方にギャラリーが。その壁に大きく掲げられた、世界的な名画が目に飛び込んでくる。天文学的な価値を備えたアートと、NYの活気に満ちたストリートとがここでは大胆に直結しているのだ。

エントランスからまっすぐ奥へと進んだ先に、このギャラリーが。

新たな社屋での初イブニング・セールは大成功を収めた。印象派ではクロード・モネの油絵《積みわら》が1億1,070万ドル(約121億1,500万円)で落札。印象派の作品として過去最高額を記録する。また現代アートでも、フランシス・ベーコンの《叫ぶ教皇の頭部のための習作》が、予想落札価格2,000万~3,000万ドル(約22億~33億円)をはるかに上回る5038万ドル(約55億円)で落札された。

こうした世界の至宝も、プレビューの時期に間近で観ることができる。保護用ガラスやケース、防護柵もない。美術品にはそれぞれ予想落札価格が添えてある。ちなみにサザビーズでは春・秋の大きなオークションのほか、年間を通じて小規模のオークションが催されている。取り扱うのは印象派や現代アート、写真やアンティークにアフリカンアート、ジュエリー、家具などそのカテゴリーは実に50を超えるという。

まるで外界とつながり合うかのよう。美術品はプレビュー用に展示されるため、しばしば入れ替わる。道行く人も、アートやその気配を垣間見ることができるのだ。

一年365日、誰でも訪れることのできるサザビーズNY。40ものギャラリーを巡りながら、たっぷり半日アート三昧できそうだ。さらにはカフェ〈サンタンブルース〉でランチやコーヒーを味わったり、サザビーズのワインショップでワインを選ぶという楽しみも。近々、ワインバーもオープン予定。アッパーイーストのダイナミックな最新・文化震源地、まずは一度体験されたい。

〈Sotheby's New York〉

1334 York Ave., New York TEL (1)212 606 7000。10時(日13時)~17時。無休。入館無料。

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