March 11, 2019 | Art, Architecture, Travel | casabrutus.com
世界中からその作品と人柄を愛され、イタリア生まれながらブラジルで活躍した建築家、リナ・ボ・バルディ。彼女がその生涯に渡って描き続けたオリジナル・ドローイング約100点を集めた貴重な展覧会がバルセロナの〈ジョアン・ミロ美術館〉にて開催中だ。
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リナ・ボ・バルディの研究者として世界的に知られ、自身も建築家、デザイナーなどとして幅広く活躍するゼウラー・ロシャ・リマがキュレーターを務めるこの展示では、リナ・ボ・バルディが自身の最も個人的な思いを表現したメディアとして、ドローイング「のみ」を扱うという大胆な構成を仕掛けている。この展示が、画家ジョアン・ミロの美術館で行われるという事実も、おそらく彼女の建築群を一旦脇においておくことで、彼女を一人の画家、表現者として見せたいという意図から来るのだろう。
とはいえ、もちろんリナ・ボ・バルディは建築家としてその名を広く知られているのであって、人々は彼女の建築の素晴らしさゆえに彼女のドローイングに興味を持つのではあるが、実はその経歴的な順番から言えば、彼女は建築家である前にグラフィック・デザインやイラストレーションを描くことを学び、ブラジルに渡る前に『ドムス』などをはじめとするいくつかの雑誌に携わる編集者兼イラストレーターとして活躍していた。
つまり、一般的に建築家たちが「図面的な手段」の一端として絵を描くのとは異なり、彼女にとっては、メディアのために絵を描くというキャリアが、建築家となる前にすでに確立されていたのだ。
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展示の中で最も心を打つ一言として印象に残るのは「彼女が建築家になる決心をしたのは、そこに何も建設されず、すべてが破壊されてゆくのを目の当たりにしたからだった」という一節。それは第二次世界大戦のただ中、彼女の生まれ育った街ローマでの惨事を指している。そのとき、デザインについての幅広い知識を持つ編集者であり、魅力的な絵を描くイラストレーターでもあった一人の若い女性が、自分の中にある強い意志と想像力を、町や社会のために「建築をつくる」という、別の次元にシフトさせようという大志を抱いたこと、そしてその時点から彼女にとって絵を描くという行為が、強烈なリアリティを持った具体的な仕事になっていったことを、この展示から窺い知ることができる。
彼女はその多様なキャリアゆえに、ひとつのプロジェクトに対して、建築家というひとつの職能を超えて全面的に関わることができた。彼女の建築の代表作である〈サンパウロ美術館MASP〉や〈SESCポンペイア文化センター〉において、彼女はその建物のデザインだけでなく、当時そこで行われた展示の企画から空間デザイン、各種ロゴやポスターなどグラフィック・デザインに至るまでのあらゆる仕事を行っている。その多才さ、全能さにはただ目を見張るばかりだが、それ以上に驚かされるのは、彼女のドローイングの中にそれらの包括的な視点が愛情を込めて緻密に表現されているという事実である。彼女はそこで行われるあらゆるスケールの「出来事」を想像しようとし、それらの仕事に人生をかけて携わった。
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彼女の描くドローイングの中には、建築の中に、その空間を楽しむ人々(匿名の誰かというよりは、彼女自身か、彼女の友人らしき個性的な人物もたくさん描かれている)、差し込む光、ディテール、道具やモノたち、そして彼女の建築に欠かすことのできない存在であったさまざまな植物など、彼女の好奇心を掻き立てるすべての事象が多くのテキストと共に記されている。それはまるで彼女が見たもの、考えたこと、作りたいものをすべてそのなかに詰め込もうとしているかのようでもあり、チャーミングかつスタイリッシュな彼女が一生懸命に、一枚の白い紙に向かって形や色や文字(無論そこにはイタリア語、ポルトガル語、英語など複数の言語使い分けられている)を刻みつけている様子が、ありありと浮かんでくるようなのだ。
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気がつくと、彼女の建築の秘密をなんとかして垣間見ようとこの展示室を訪れた人達は、その多彩な絵を通して彼女のつくる建築以上に、リナ・ボ・バルディという一人の女性の魅力のとりこになってしまう、そんな展示になっている。
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