March 5, 2019 | Architecture, Travel | casabrutus.com
イギリス南西部、デボン州のカントリーサイド。羊が草を食むのどかな農牧地と海を望む雄大な風景に囲まれ 、ピーター・ズントーが設計した〈セキュラー・リトリート〉が完成した。
妥協を拒む一徹な姿勢と独自の作風で、建築界でも別格的な存在のズントー。 待望の新作〈セキュラー・リトリート〉がイギリス南西部、デボン州のカントリーサイド、羊が草を食むのどかな農牧地と海を望む雄大な風景に囲まれた地に完成になった。
作品は哲学者アラン・ド・ボトンが創設した、泊まって体感する現代建築〈リビング・アーキテクチャー〉の一つ。これまでMVRDV、ジョン・ポーソンらによる8作品がイギリス各地に建てられてきたが、計画から10年、建設開始から4年と、例外的に長い期間をかけて完成したのがこの作品だ。
寡作のズントーだが、その作品の多くはかなりの遠隔地にあり、足を運ぶのに「巡礼」に近い覚悟を要す。今回の作品はロンドンから電車で4時間程度の最寄駅から車で30分ぐらいと比較的訪問しやすい。英仏海峡に沿った海岸に近く、緩やかに起伏する牧草地や農地が続く風景に囲まれた場所にある。建設規制が厳しいイギリスでは、こうした農牧地に新たに住宅を建てることはかなり難しい。そのため、公道から奥に入った小さな建物のある農地を買い取り、建物を建て直すという形で実現したプロジェクトになる。
この日は完成記念ということで、スイスからやってきた ズントーほか、プロジェクトに関わった人たちが竣工したばかりの物件に集まった。ズントーは詩の朗読に続き、プロジェクトに関わった人たちを労った。
「美しいランドスケープに心を奪われ、ここに建築を作りたいと思った。個人のヴィラではなく、人々が集まり何かをする場を作ろうと。それがみんなの力でこうして完成にこぎ着けた。美しい自然を愛でるために、美しい建築ができたと、嬉しく思っている」。
当初の案は大きな岩を積み重ねたような、ある意味原始的な感じがするものであったが、大き過ぎたこともあり変更したのだという。
「木に囲まれているが、北欧的な木の軽い建築でなく、ずっしり重いものを表現した。壁や柱は、地元の土や砂利と混ぜたドライコンクリートを型枠に入れて突き固めたもの。一日分の作業がシマのように見えるので、手仕事の軌跡が感じてもらえるだろう」 。
オープン式のキッチンとリビングのある共有スペースは360度の景観が望めるように四方がガラス張り。暖炉を囲みように、ズントーがデザインしたラウンジチェアやフロアランプが置かれている。床の石材はこの近くで採石されたもので、ランダムなサイズをパズルのように敷き詰めている。
ベッドルームは5つあり、5組10人まで滞在可能。海まで散策したり、料理をして、食べて飲んで語り合う。放牧されている牛や野ウサギもすぐそこまでやって来る。夜は美しい星空をぐるりと望めるし、まさに自然の中に浸ってリセットするリトリートである。
ズントー建築は、まず「土地ありき」。ノルウェーの魔女裁判犠牲者を弔う〈ステイルネセ・メモリアル〉、閉山になった錫鉱跡に建つ〈アルマナユヴァ錫鉱山〉など、土地の声に耳を傾け、歴史を掘り起こし、そして歴史の一部になる、そんな建築である。土地の精霊と相談したかのか?と感じることもあるが、この作品では、自分が建物の中にいるのに風景と一体化してしまうような感覚がある。自然の一部となりながら物語を紡ぐ場、とでも言おうか。
実際に泊まって現代建築の醍醐味を体感して欲しい、と創設された〈リビング・アーキテクチャー〉。是非、泊まってズントー建築を存分に味わって欲しいところだが、3月末のオープンから年末まで、すでに先行予約でいっぱいというのが、残念!次回の予約開始はニュースレターなどで告知になるとのこと。さすが世界のズントー、人気は半端ない。