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スタジオ・ムンバイが手がけた尾道の〈LOG〉へ。

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February 21, 2019 | Travel, Architecture

海を望む山の中腹に、街の拠点となる多目的施設を作る。2014年から始まったプロジェクトが昨年12月に完成。計画を指揮したビジョイ・ジェインを尾道に訪ねた。

ビジョイ・ジェイン 1965年インド・ムンバイ生まれ。90年ワシントン大学で修士号取得。LAとロンドンで実務経験を積み95年インドでスタジオ・ムンバイ・アーキテクツ設立。

どこか懐かしい集合住宅の趣を残す建物。スタジオ・ムンバイ・アーキテクツの代表ビジョイ・ジェインが、ピロティに佇み、感慨深そうに中庭を眺めている。ここは尾道水道を一望する名刹、千光寺へと至る参道の中腹に建つ多目的施設〈LOG〉。かつて豪商の茶園(別荘)として開発された広大な敷地とそこに残る築56年の鉄筋コンクリート造3階建て集合住宅を、人々が行き交うサロンのような場に生まれ変わらせる。それがビジョイに与えられた命題だった。

「施主であるディスカバーリンクせとうちが求めたのは、文化発信地としての公共性と、宿泊施設としてのプライベート感という相反する2つの要素。戦禍を免れた尾道の街には戦前の建物が残り、歴史や時間が上書きされながらも着実に積層されている気配を感じます。物理的に様変わりしたとしても、澄んだ空気感は変わらない。そんな土地のポテンシャルをいかに、この空間に取り込んでいくか? それが大きな課題でした」

尾道の自然と文化、歴史に触れる。 〈LOG〉とは「Lantern Onomichi Garden」の意味。千光寺へと続く坂道の途中に位置し、近くには志賀直哉が『暗夜行路』の草案を練ったとされる長屋もある。ライブラリーやピロティなどからは、尾道水道を望むことも。尾道駅前より続く道から、石畳の階段を100段ほど上がるため、車でのアクセスはできない。

母国インドにおいて、優れた伝統技術を持つさまざまな職人とともに、敷地の造成から設計、施工までを一貫して手作業で行うという独自のスタイルを築くスタジオ・ムンバイ。それは尾道でも変わらず、新しい素材を模索し、スケッチを描き、モックアップを作り、スタディを重ねていった。しかし、言葉の問題をはじめ、作業に困難はなかったのだろうか?

「確かに、アイデアやコンセプトを共有するのは難しいですね。とにかく大切なのは対話。何をしたいのか? どう完成させるのか? 皆でディスカッションしながら組み立てていく。それは日本でもインドでも欧米でも同じです」

一方、「今回は、職人、アーティスト、ワークショップに参加して施工を手助けしてくれた一般の方の3者で作り上げた」と話すのは、スタジオ・ムンバイの日本ブランチとしてプロジェクトをサポートした建築家の六車誠二。ビジョイが指揮者となり、関係者らがその意図をくみながら、一つ一つ形にしていったことがうかがえる。

地元食材を使った季節感あふれる朝食に舌鼓。 ダイニングで供される料理は、料理家・細川亜衣が監修。写真は季節のフルーツサラダ、野菜と果物2種類のマフィン、〈三良坂フロマージュ〉のチーズなどからなる朝食。野菜を中心とした夕食も2月よりスタート(朝・夕食ともに宿泊者限定)。オリジナルの真鍮バターナイフやい草のカゴはショップで購入できる。

そうして出来上がったのが、1〜2階に一般の利用が可能なカフェ・バー、ショップ、ギャラリーを、3階に全6室の客室とライブラリーを備えた〈LOG〉。可変性を持たせたピロティが至る所で内と外をつなぐ開放的な建物で、南側に広がる庭や、中心に位置する中庭には、正門が開放されている時間内であれば誰でも自由に出入りできる。

また、和紙を使った内装を担当した和紙職人ハタノワタルや、ダイニング、ライブラリーなどの彩色を手がけたカラーアーティストのムイルネ・ケイト・ディニーン、ラグを制作した真木テキスタイルスタジオ、料理監修に携わった料理家の細川亜衣など、魅力的なクリエイターとの協働も見どころだ。

「昨年末、〈LOG〉はひとまず完成を見ましたが、まだ進化の必要があります。植栽にランドスケープに家具に……。中庭で各種イベントを開いて、文化発信地としての役割も担わないとね」

〈LOG〉の時計は今動き始めたばかり。多くの人々が行き交い、時を刻むことで、ここにどんな積層が生まれるのだろうか。

ギャラリーに展示予定のスケッチと模型。

LOG

ライブラリーを含む3階は宿泊客のみ利用可。ダイニングも当面は宿泊客のみの利用となる。 広島県尾道市東土堂町11-12 TEL 0848 24 6669。各施設により営業時間は異なる。客室はデラックスダブルルーム(1室40,000円〜、最大2名)とスタンダード2ベッドルーム(1室35,000円〜、最大4名)の2タイプ。

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