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トリノの〈MUSEO CASA MOLLINO〉|川合将人のインテリアスナップ

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August 7, 2018 | Design, Architecture, Art, Travel | casabrutus.com | text_ Masato Kawai

色使いや家具の選び方が自宅のインテリアの参考になるかも? インテリアスタイリストが街で見つけた素敵な空間を紹介する連載第2回目は、イタリアデザイン界きっての奇才、カルロ・モリーノが手がけた〈ムゼオ・カーサ・モリーノ〉です。

リビングからダイニングへの眺め。ガラス製の花々が輝く〈ヴェニーニ〉のシャンデリアをはじめ、カスタムメイドしたベンチの上に飾られた大きな貝や彫像など、モリーノは、自然の造形物や人体をモチーフにしたオブジェでインテリアを飾りました。手前のリビングと奥のダイニングの間には、天井から床まで届く大きなカーテンが下がり、間仕切りとして使うことができます。日本の襖を思わせる右手のスライドドアの先には、明るく鮮やかなタイルを貼った床がエントランスまで続いています。

トリノ出身の建築家、カルロ・モリーノが1960年〜68年の間に自身のために設計したアパートで、現在は予約制の博物館として公開されています。

モリーノといえば家具のデザインで有名ですが、彼の活動はそれだけにとどまらず、レースカーのドライバーや、曲芸飛行もできる航空機のパイロットとしても活躍。さらにはスキーヤーとして、人体の動きまでも仔細に描いたスキーの教本も執筆しています。そんな、文句のつけようがないほどにクリエイティブな偉人が作り上げた自邸の内装ですから、当然、独創的です。

アンティーク加工された大きなミラーのあるダイニングルーム。ミラーにかかった独特のエフェクトが不思議な反射効果をもたらしています。またミラー下部に取り付けられたコンソールやダイニングテーブルの天板、コーナーに置かれた小振りな円形テーブル、壁に設置された収納ユニットのトップには、すべて同じ大理石を使用しています。大きな提灯型のペンダントランプは、モリーノが1965年に、チューリッヒの〈ヴォーンべダルフ〉で購入したもの。チェアは《チューリップチェア》で統一されています。

ミラーの多用や、カーテンやスライドドアによる間仕切り方法など、現代の家づくりの参考になるところも多い場所ですが、しかしなんといっても、卓越したセンスで選び抜かれた調度品の数々に目を奪われます。

〈ヴェニーニ〉の美しいムラノグラスのシャンデリア、エレガントな曲線を描くエーロ・サーリネンの《チューリップチェア》、19世紀のボートスタイルのベッドに豹柄の壁、そこかしこに飾られた自然物をモチーフにしたオブジェ…当時は先端であったクラシックモダンな名作家具や照明を、凝った内装材と合わせて自在に編集した各部屋のインテリアは、今見ても全く古さを感じさせません。

またモリーノは、女性を被写体にしたスタイリッシュなポラロイド写真の作品でも知られています。彼がその撮影に使ったのもこの場所。鮮やかなタイル張りのエントランスからはじまって、リビングにダイニング、キッチンやバスルームに至るまで、絵になる空間作りのヒントがたくさん詰まっています。

壁に面した、もう一方のリビング。中央の暖炉はモリーノ自身がデザインしたもので、遠近感を強調するために、あえてスケールを小さくしました。上に置かれた時計と、横にある19世紀のイージーチェアは、モリーノの父親の家にあったもの。ほかには、ヴィコ・マジストレッティのデザインしたセンターテーブル《カオリ》、フリンジを使った〈アルテルーチェ〉のランプ《597》、右のオズヴァルド・ボルサーニのソファ《D70》などが、当時のモリーノの感性で選ばれています。
豹柄に蝶が壁を埋め尽くす寝室は「バタフライルーム」と呼ばれています。19 世紀の船型ボートスタイルのベッドは、画家のピエロ・マルティナから与えられたもの。この寝室は古代エジプト時代の「旅」をイメージした空間で、ボートが通過する川のような深いブルーのカーペットを合わせたそうです。

〈MUSEO CASA MOLLINO〉

Via Giovanni Francesco Napione 2,Torino TEL +39 011 812 9868。入場料30ユーロ。完全予約制。予約は電話かメール(cm@carlomollino.org)にて。

川合将人

かわいまさと 雑誌、カタログ、広告などでインテリアスタイリストとして活躍。イベントの会場構成、ショップやハウスメーカーの空間を数多く手がけ、執筆活動も行っている。

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