July 29, 2018 | Architecture | casabrutus.com | text_Hisashi Ikai editor_Tami Okano illustration_ Kenji Oguro
家は「一生に一度の大きな買い物」と言われますが、段階的にリノベーションすれば何度でも家づくりの醍醐味が楽しめるのでは? 多くのデザイナーや建築家の取材を通して学んだ暮らしのノウハウが、どこまで自分に活かせるか。デザインジャーナリストの猪飼尚司が、最初の自邸の改装から7年たった今、人生2度目のリノベーションに挑戦します。
玄関とお風呂が一体に!?
家をつくるとき、夢をいっぱい描きすぎて、なかなか具体的なアイデアがまとまらないと頻繁に耳にします。僕はこれまでに、多くのデザイナーや建築家と交流を重ねていたこともあり、「プランを考えるのなんてカンタンなのに、そんなに悩むことってあるかな」なんて疑問に思っていました。
しかし、いざ自分ごととなると現実はそう簡単なものではありませんでした。9年前、東京都内にリノベーションを前提に築30年の1LDKマンションを購入。「玄関が狭いので、風呂と繋げたい」と何人かに相談を持ちかけるものの、機能的じゃないと一蹴され、2年ほどやきもきしていました。しかし、購入から2年が経ったある日のこと。旧知のデザイナー、柳原照弘くんと食事をしつつ家のことを愚痴っていたら、彼から「猪飼さんだったら、そのプランでいいのにね」と初めて肯定的な意見が返ってきました。
早速僕は柳原くんに「スケルトンをデザインするような感覚で」とオーダー。間も無く柳原くんは、玄関周りの壁や扉をすべて取り除き、風呂やトイレをそのままセットするという大胆なプランを提案してくれ、それが頭のなかにぼんやり描いていたイメージとぴったり一致したのです!!! 具体的なデザインを決めることよりも、感覚をいかに共有するのかが大切なのだと知りました。
暮らしながら、次の段階を考える。
玄関周りは理想どおりのかたちが見えてきたものの、ここだけで予算の3分の2を使い果たしてしまうことが判明。肝いりのエリアだけに、プランは崩したくありません。
理想とするプランと予算の問題は、必ず付いて回る問題です。お風呂をユニット式にするなど、素材や工法をシンプルにして、平均的にコストを下げるのが一般的なのでしょうが、僕はそれが納得できませんでした。
今後、何十年とかけて過ごしていく家。「手入れをする」ような感覚で、暮らしの変化に合わせ、部分的かつ段階的にリノベーションしていこうと考えた瞬間、気持ちに大きな余裕が生まれました。
マンションができた当時に設置されたシステムキッチンはかなりガタがきていましたが、まだギリギリ現役。アールがついたキッチン入り口やレンガのタイル壁は雰囲気があって好きだったので、それらをすべて残して生活を続けることにしたのです。
窓枠や巾木をなくし、リビングはシンプルに。
もともとリビングルームと寝室の2間に分かれていた居室は、壁を抜いてワンルームにしました。この部屋には、東、南、西の全方向に窓がついているので、一部屋にすることで、いろんな種類の光と風が楽しめるようになりました。
さらに、巾木は取り除き、出っ張っていた窓枠は壁のレベルに合わせて、左官で仕上げています。部屋の広さは少しだけ減るのですが、視覚的にはギャラリーや美術館のホワイトボックスのようにかなり広々と感じるから不思議。モノが映える空間なので、この状態になってからは室内に置くものをよく考えて購入するようになりました。
一方、予算の都合上、造り付け収納を諦めたのですが、柳原くんはその代わりに、梁に大きな合板を固定し、その裏側にできた隙間をストレージにするというアイデアを出してくれました。大型のボックスも入るので、季節ものやキャンブ道具などはここにすべてしまっています。
一旦リノベーションは完了したものの、「余裕ができたら、次の段階に進もう!」と考えていたのですが、具体的にいつ、どのようにということまではまったく決めていませんでした。
昨年の暮れに取材でインテリアデザイナーのIMAさん(小林恭さん+マナさん)の元を訪れたときのこと。IMAさんのお宅がとても素敵で、共感できる部分が多々ありました。ちょうど自邸のキッチンで、クックトップやオーブンなどの設備が不穏な動きをし始め、水回りにも不具合が出ていたので、思い切ってリフォームの話を切り出してみたところ意気投合。
再びどんどん夢が広がっていき、自分でも思いがけないほどあっという間に人生2度目のリフォームにトライすることが決定したのです。柳原照弘くんとはまたまったくタイプの違うデザイナーさんたちなので、さてさてどうなるか? 楽しみです!