July 10, 2018 | Design, Architecture | a wall newspaper | text_Takahiro Tsuchida
「ブラジルのサッカーのような野性味」が魅力!? 不思議な表情を持つ椅子が、庭園美術館に集合。
![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2019/07/0707brazilchair1_666.jpg)
建築家の伊東豊雄は、ある展覧会の空間構成を東京都庭園美術館から依頼された。展示されるのは、ブラジルの先住民による民族的な椅子。今年3月、講演のためにサンパウロを訪れた伊東さんは、その時に初めて展示品の椅子たちと対面して驚いた。
「椅子を保管する部屋に入ると、一斉に見つめられたみたいでオタオタしてしまいました。1点1点がすごく表情豊かで強いんです」
メイナクやクイクロなどブラジル北部の先住民は、昔から動物をモチーフに椅子を作ってきた。それらは儀式から日常生活まで様々に用いられる、コミュニティのシンボル。かなり奇抜だが、なぜか親しみやすくもある。
「動物との関係を反映しているんでしょうね。彼らは動物と触れ合いながら、畏敬の念も持っている」と伊東さん。椅子の作り方も一般的な椅子と異なり、1本の丸太からダイナミックに削り出す。
「いくつかのパーツを組み合わせる作り方では、この強さやたくましさは生まれない。日本のサッカーとは違う、ブラジルの野性的なサッカーを連想させますね」
さらに建築家の視点から見ると、より違った面白さもある。
「動物そのものの椅子、座るための抽象的な椅子、その中間の椅子という3種類があります。この変化は椅子の発生過程を示している。猫脚だった古代エジプトの椅子もオーバーラップします」と伊東さん。3種類の形態の違いは、平らな床の有無といった建築の発達の段階とも関連があるという。
「そもそも現代の建築家はこんな形を作れません。社会の目線を意識して、ものを考えざるをえませんから。しかし先住民の椅子はもっとピュアで、だから美しい」
![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2019/07/0707brazilchair10_666.jpg)
今回の展覧会は本館と新館の2部構成。本館は、空中に浮かぶ板に椅子を載せ、その魅力が展示室の装飾と同化しないように配慮した。新館は、フロアに直接置いた作品に来場者が間近で向き合う。
「僕が最初に見た時のワーッと向かってくる感じを出したかった」と伊東さん。誰にとっても発見のある、新鮮な展覧会になっている。
![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2019/07/0707brazilchair9_666.jpg)