April 11, 2018 | Architecture, Design, Travel | a wall newspaper | text_Chieko Tomita
スペース・コペンハーゲンが、ヤコブセンの名作ホテルを次世代につなげる空間へと変貌させました。
デンマークの建築家アルネ・ヤコブセンが、建物から家具、カトラリーに至るまでを手がけた〈SASロイヤルホテル〉は、クラシックな建物が並ぶコペンハーゲンの中心で、高さ76.5m、地上22階建てという、圧倒的な存在感を放つ高層建築だ。4年の歳月をかけて1960年に完成したデニッシュ・モダニズムのアイコンであり、《スワン》や《エッグ》という名作椅子が、このホテルのためにデザインされたことでも知られる。北欧デザイン好きはいうまでもなく、各国要人、ミュージシャン、映画俳優、建築家など、コペンハーゲンでの滞在に、このホテルを指定する著名人も多い。
時代は流れ2015年、ヤコブセンのデザインはロビーと606号室を残すのみとなった。彼の偉業を、そしてあのときのような驚きを現代にもう一度、との思いでロビー、客室、ミーティングルーム、カフェのフルリノベーションの計画が立てられた。最重視したのは、ヤコブセンのビジョンを残すこと。それを実現したのは、レストラン〈NOMA〉のインテリアで一躍有名となり、世界中に美しい空間を生み出すデザイン集団〈スペース・コペンハーゲン〉だ。
代表のシーネ・ビンスリウ・ヘンリクセンとピーター・ブンゴー・ルッツォーは、ヤコブセンが学んだデンマーク王立美大建築学科の後輩であり、国際的なホテルやレストランの内装や家具デザインも手がけている。彼らが考えたのは、ヤコブセンのマスターピースをミュージアムのように残すのではなく、新旧の家具やファブリック、素材をミックスし、新世代トラベラーにアピールし、未来に向かうホテルにすることだった。そして2018年春、〈ラディソン・コレクション・ロイヤルホテル〉として待望のオープン。そのデザイン理念を2人に聞いた。
Q SASホテルについてどんなイメージを抱いていましたか?
建築学科の学生の頃、よく見学に来ましたが、タイムレスな美しさに魅力を感じていました。
Q このホテルの最大の魅力は?
市内中心部ではレアな高層建築だということ。鏡を多用したのは、窓からの風景が天候や時間帯によって変化する様子が、窓辺に寄らなくても見えるからです。
Q リニューアルのデザインを依頼されたときに感じたことは?
プレッシャーもありましたが、ホテルのアーカイブを調べるうち、ディテールにこだわったヤコブセンのデザインアプローチに私たちとの共通性を見いだし、チャレンジへの意欲が湧きました。
Q 今回の改装で目指したのは?
オープンで親しみやすい空気感です。例えば、ロビーはエッグや温かみのある色合いの家具で、アクセスしやすくしました。
Q ヤコブセンのデザインに、どのような手を加えたのですか?
オリジナルを残したのは、大理石のフロアと壁。螺旋階段、客室の窓など。ロビー、カフェには、新たにデザインした《ローファー・ラウンジチェア》、そして客室に《アモーレ・ミラー》を使いました。階段の手すりは、アーカイブを参考にレザーを張り、階段の頭上に円形照明を設置しました。
Q デザイナーとしてのヤコブセンについて、どう思われますか?
分業化が進んだ現代では、ヤコブセンのようにトータルで手がけるのは難しいですが、物作りのプロセスや「グリーン&オーガニックフォルム」にこだわる点などに共感を覚えます。