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西沢立衛が映画で読み解く、建築家としてのアイリーン・グレイ。

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October 22, 2017 | Architecture, Culture | a wall newspaper | photo_Yuri Manabe text_Sawako Akune editor_Wakako Miyake

ル・コルビュジエがその才能に嫉妬したともいわれる、同時代の女性デザイナーを描いたドラマを、西沢立衛が語る。

実は大の映画好きでもある西沢さん。建築にまつわる映画の話が次から次に出てくる。

言わずと知れた近代建築の巨匠、ル・コルビュジエが、1957年に妻のために建てた佳作〈休暇小屋〉があることで知られる南仏の海辺の町、カップ・マルタン。これに先駆けることおよそ30年、コルビュジエをこの町に導くきっかけとなったのが、アイリーン・グレイによる小さな住宅〈E.1027〉だ。コルビュジエより10歳ほど年上の彼女は、インテリアデザイナーとして早くから頭角を現し、26年に恋人であるジャーナリスト、ジャン・バドヴィッチとともにこの地に家をつくる。コルビュジエは、バドヴィッチの誘いで、早くにここを訪れているのだ。近く公開の映画『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』は、この〈E.1027〉を巡る話が展開する、建築好きならば見逃すことのできない作品だ。

「僕自身は、この〈E.1027〉を訪れたことはないので、あくまで想像ですが、オリジナリティーがありますね」と話すのは、建築家・西沢立衛さん。

「僕は実は、さほどアイリーン・グレイについて詳しくはないのですが、もともとインテリアや家具のデザイナーとしてスタートして、初めての建築作品としてこれを建てたと知ると、驚かざるをえません。インテリアが建築になったというのでしょうか。誰かの真似ではない、彼女ならではの空間をつくっているように思います」

グレイによる名作チェア!

SANAAの事務所に置かれていたグレイの《ビバンダム・チェア》。
野心にあふれ、どこか気難しさのある建築家として描かれたル・コルビュジエ。(c)Julian Lennon 2014. All rights reserved. (c)2014 EG Film Productions / Saga Film

〈E.1027〉を見たコルビュジエは、グレイの才能に嫉妬したとも言われる。38年〈E.1027〉に長く逗留した彼は、この家に大胆にも壁画を描いてしまうのだ。この行為がもととなり、〈E.1027〉をコルビュジエの作品と勘違いする向きもあったとも言われるが、「グレイとコルビュジエの建築の違いは一目瞭然。それはなかったんじゃないかな」と西沢さんは話す。

「才能の面で言うとコルビュジエはやはり段違いですが、野蛮なコルビュジエ作品に対し、グレイの作品はとても洗練されていて都会的というか、エレガントですね」

映画では実際に〈E.1027〉でロケを行っていて、この秀作の様子を垣間見ることができる。チェア《ビバンダム》や、ベッドで食事や読書ができるよう、テーブルの高さが調節できる《アジャスタブル・テーブル》など、グレイを有名にした家具の数々もここから生まれているというから、画面のなかにそれらを探すのも楽しい。

「モダニズム建築は、理論通りにつくると、大抵の場合、個性がなくなってしまうもの。そこできちんと個性を発揮できた彼女の才能に着目するいい機会ですね」

『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』

10月14日よりBunkamuraル・シネマほかで全国順次公開中。監督:メアリー・マクガキアン。出演:オーラ・ブラディほか。

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