April 8, 2025 | Design | KASHIYUKA’s Shop of Japanese Arts and Crafts
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは東京の台東区。優しい光が差し込む工房で、繊細な竹を編んで作る伝統工芸「江戸簾」と出会いました。

東京の下町、台東区千束にある工房〈田中製簾所〉。ガラス戸の内側に掛かっているのは竹で編まれた簾です。室内からは通りの風景がうっすらと透けて見え、自然光も入り込む。繊細で柔らかな佇まいにしばし見とれてしまいます。
「華やかな京簾に対して、装飾に凝らずシンプルで粋な雰囲気をよしとするのが江戸簾です」と教えてくれたのは、東京の伝統工芸品「江戸簾」の職人、田中耕太朗さん。竹ひごなどの材料作りから編みまでを一人で手がけています。

古くは宮中の日よけや仕切りに使われた簾は、江戸時代には武家屋敷に、やがて庶民の住まいにも用いられるようになりました。特に家が密集していた江戸の町では、よそからの視線を遮る目隠しとして簾が重宝されたそうです。


この日、見学したのは編みの工程。「桁」という編み台の上に竹ひごを1本ずつ置き「投げ玉」という重しを付けた糸で編んでいく。パチン、パチンと投げ玉が桁に当たる音が気持ちよく響きます。
「キチキチに詰めて編むと印象が硬くなってしまうし、緩すぎてもいけない。編むものによって投げ玉の重さや形を変え、糸にかかるテンションを調整します」

屋外用や室内用、オーダーメイドの簾や小物製作のほか、簾の修理も手がける田中さん。工房には100年以上昔の簾もありました。傷んだ部分だけ直すのではなく、極細のひごを1本ずつに解体し、手入れと補修をしながら元の順番通り編み直す。道具も糸もオリジナルに近いものを探し、果てしない時間をかけて復元するそうです。

「そこまでしなくてもいいのかもしれません。でも惰性で仕事をすれば工房に飾った先々代の写真が “お前、それでいいのか?” と語りかけてくる。それに、古いものを解体することで、昔の貴重な技術やものの成り立ちを学べるし、今のものづくりに応用できる知恵を発見できたりもするんです」


その言葉通り、2階のショールームに設えてあったのは、簾を使った屏風や格子状の簀戸! 繊細な簾の透け感が本当に美しく、室内に落ちる柔らかな影が、風や空気の動きまでも伝えます。
「簾も屏風も空間の主役ではありません。でも、簾を介すことで光がぐんと素敵に見えるんです」
今回の買い付けは、モダンで涼やかな簾屏風。リビングとダイニングの間仕切りなど、現代の家にも自然に取り入れられそうです。

簾屏風 四曲 作/田中製簾所
左/簾のランチョンマット。6,500円。右/江戸簾を秋田杉の枠で仕立てた屏風。一人で持ち運べるほど軽い。W44×H120cm×4曲。受注生産160,000円~。●たなかせいれんじょ/東京都台東区千束1-18-6 TEL 03 3873 4653。簾のリフォームも相談可能。かしゆか
音楽ユニットPerfumeのメンバー。最新デジタルシングル「ネビュラロマンス」配信中。かしゆか商店のリアルショップが3月12日より開店し、連載のムックも発売。Instagram: @kashiyuka.prfm_p000003