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安藤忠雄の大規模個展へ。建築を迫力の映像インスタレーションで見せる!

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April 5, 2025 | Architecture, Design | casabrutus.com

ANDOが拠点とする大阪で待望の個展『安藤忠雄展|青春』開催! 半世紀以上に及ぶ彼のこれまでを振り返り、これからを見せてくれる展覧会です。

〈水の教会〉のインスタレーション。床には実際に水が張られている。

「グラングリーン大阪」の開発で大きく姿を変えたJR大阪駅前。その一角にある文化施設〈VS.〉で安藤忠雄の大規模な個展が開かれている。初期作品から現在、構想中のプロジェクトまで、安藤の過去と未来を紹介する展覧会だ。〈VS.〉も安藤がデザイン監修を手がけており、安藤の空間で彼の仕事を体感できる。

〈住吉の長屋〉模型。中央にある中庭は屋根のない、坪庭のような空間。
「挑戦の軌跡」と題された展示室。〈六甲の集合住宅〉〈マンハッタンのペントハウスIII〉などの代表作が並ぶ。

展覧会は安藤の “ホーム” 、大阪の事務所の模型と所員たちと撮った写真から始まる。次に登場するのは、彼が旅先で描いたスケッチや〈住吉の長屋〉を始めとするプロジェクトの模型などだ。今回の展示では随所にモニターが置かれ、建築の映像や建設中の記録映像、スケッチをする安藤の手などが映し出される。建築家なら誰でもスケッチは描くけれど、安藤のスケッチの美しさは格別だ。ハッチング(平行な線で面を埋める手法)がなめらかなコンクリートの肌をすべっていく光の様子を思わせる。

〈水の教会〉のインスタレーション。雪に覆われた冬の景色に静けさが漂う。

2017年、〈国立新美術館〉での個展『安藤忠雄展―挑戦―』では〈光の教会〉の原寸大再現が話題となったが、今回は北海道にある〈水の教会〉が同じく原寸大で会場内に現れる。水盤とその先に立つ十字架を通して北海道の森が見えるインスタレーションだ。壁3面に現地で撮影された風景が投影され、春夏秋冬と移り変わっていく。折々の鳥の声も聞こえてくる。安藤はこのほかにも建物の外部と内部空間とがダイレクトにつながるような建築を提案、実現させてきた。〈水の教会〉の展示でも北海道の光と風が通り過ぎていくような感覚を覚える。

直島でのプロジェクトを紹介するインスタレーション。海に浮かんでいるような模型の背後に映像と音楽が流れる。

「安藤忠雄の現在」と名付けられた展示室には、直島や「こども本の森」、大阪でのプロジェクトなどが並ぶ。「37年目の直島」では1989年、安藤の監修で生まれた〈直島国際キャンプ場〉以来の直島でのプロジェクトから〈ベネッセハウスミュージアム〉〈地中美術館〉〈李禹煥美術館〉などの安藤建築を紹介する。5月31日に開館する〈直島新美術館〉の資料も必見だ。かつての直島は近隣の人が海水浴に訪れるところだったけれど今ではアートの島、安藤建築の聖地として世界中から多くの人がやってくる。地元の人と世界の人をつなぐ場に生まれ変わった、その軌跡をたどることができる。

「こども図書館船 ほんのもり号」模型。本とともに心の旅に出る船。

「こども本の森」は安藤が私費を投じて建設し、自治体に寄贈するという施設。これまでに大阪の中之島や神戸、熊本などで実現している。安藤の事務所にも吹抜になった壁の一面にぎっしりと本が詰まっているが、各地の「こども本の森」でも棚いっぱいに置かれたたくさんの本が出迎える。ここでは子どもたちが自分で面白そうな本を見つけて好きな場所で読んでいる。本を読むことがいろいろな意味で子どもを力強く育てることにつながるという安藤の思いから作られた場所だ。春からは瀬戸内海で「こども図書館船 ほんのもり号」が就航する。小さな図書館のような船が瀬戸内海の島々を巡るのだ。島の中には図書館や書店のないところも多い。本を積んで海を渡る船が子どもたちの世界を広げる。

長さ10メートルに及ぶ「中之島プロジェクトII」のドローイングと模型。このプロジェクトでの「挑戦」のいくつかは後に形を変えて実現している。
ベネツィアの歴史的建造物を安藤がリノベーションして美術館とした〈プンタ・デラ・ドガーナ〉。17世紀のレンガの建物にコンクリートの箱を挿入した。

「大阪から」と題されたスペースには1988年に発表された「中之島プロジェクトII」のドローイングや模型が並ぶ。このプロジェクトは1918年に建てられた〈中之島公会堂〉に巨大な卵を挿入する「アーバン・エッグ」や、地上を公園にして地下に図書館や美術館を建設する「地層空間」を提案するものだ。あまりに大胆なこのプランはいまだ実現していないが、古い建物に新しい空間を挿入するというアイデアは19世紀に建てられたパリの商品取引所〈ブルス・ドゥ・コメルス〉にコンクリートによる円形空間を設えるという形で現実化された。直島の〈地中美術館〉は地下に美術館を作る構想の発展とみることができるだろう。〈VS.〉がある「グラングリーン大阪」も「大阪に緑を」と願う安藤が長年、実現に尽力してきた場だ。安藤の大阪への愛は形を変えて世界中に、そこに訪れる人のための空間を生み出している。

壁3面に映像が投影されるインスタレーション「安藤忠雄の建築」、〈ブルス・ドゥ・コメルス〉。

展示の最後を飾る「安藤忠雄の建築」は天井高15メートルの大空間に安藤建築の映像が投影される迫力のインスタレーション。登場するのは十字のスリットから光が入る〈光の教会〉、季節によってラベンダーや雪などと移り変わる丘から大仏が頭を出す〈真駒内滝野霊園頭大仏〉、丸い天窓から円形の展示空間に光が降り注ぐ〈ブルス・ドゥ・コメルス〉の3つの作品だ。次々に現れるドローイングの線などとともに、あたかも鑑賞者がその場にいるかのような体験をさせてくれる。空中から撮影したものなど実際には見ることの難しい視点から安藤建築を体験できるのもうれしい。

〈VS.〉外観と安藤。青りんごには安藤が「永遠の青春へ」と書き込んだ。

〈VS.〉西側のアプローチには安藤のアイコンである青りんごのオブジェが置かれている。みずみずしい青りんごは展覧会のタイトル「青春」の象徴でもある。アメリカの詩人、サムエル・ウルマンは「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ち方を言う」という詩を書いた。半世紀以上にわたって多くの作品を送り出してきた安藤だけれど「人間も建築も、いつまでも青いまま、挑戦心に溢れていたい」と彼はいう。この個展は安藤の過去だけでなく未来を見せる展覧会だ。こんな建築家と同時代に生きることができる、その幸運をかみしめたい。

〈VS.〉

大阪市北区大深町6-86 グラングリーン大阪 うめきた公園ノースパーク。10時~18時(金・土・祝前日~20時/※入場は閉館の30分前まで)。月曜休(祝日は開館)。一般1800円ほか。

安藤忠雄

あんどう ただお 1941年生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。コンクリートを基調とした緊張感ある造形と、自然と調和した豊かな空間性に満ちた建築をつくっている。代表作に〈淡路夢舞台〉〈フォートワース現代美術館〉〈上海保利大劇場〉など。1995年プリツカー賞、2021年フランス、レジオン・ドヌール勲章(コマンドゥール)ほか受賞多数。1997年から東京大学教授、現在、名誉教授。『仕事をつくる 私の履歴書【改訂新版】』 (日本経済新聞出版、2022年)、『安藤忠雄 都市と自然』(ADAエディタトーキョー 、2011年)など著書多数。

関連記事【ENTER NEW SPACES】動画連載|『安藤忠雄展|青春』でコンクリート建築が生まれた理由を語る。


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