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ブラジリアンモダニズムの巨匠。セルジオ・ロドリゲスとリカルド・ファザネロを知っていますか?

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April 5, 2025 | Design | casabrutus.com

日本とブラジルが外交関係を結んでから130年。その節目の年に、東京・青山の〈駐日ブラジル大使館〉で近年注目を集める「ブラジリアン・モダニズム」をテーマとする展覧会『Sergio Rodrigues & Ricardo Fasanello展-異彩なブラジリアンモダニズムを探る-』が開催されています。

リカルド・ファザネロがデザインした《エスフェラ アームチェア》。ファザネロはブラジルでいち早く、ポリエステル樹脂やグラスファイバーなどの新素材を使用したデザイナー。

いま、世界のデザインギャラリーが紹介に力を入れるブラジルのミッドセンチュリー家具。日本同様、ヨーロッパから伝わったモダニズムが、ブラジル特有の文化、技術、素材と結びつくことで独自の発展を遂げた。オスカー・ニーマイヤー、リナ・ボ・バルディの仕事はよく知られるが、ジョゼ・ザニーネ・カルダス、ホアキン・テンレイロらも日本で紹介されはじめている。そして今回の展覧会が取り上げるのは、セルジオ・ロドリゲスとリカルド・ファザネロ。ともにブラジルのミッドセンチュリーデザインを語る上で欠かせぬ存在だ。

建築家でありデザイナーのセルジオ・ロドリゲスは、生涯を通じて1000を超えるデザインを遺した人物だ。温かみある有機的なフォルムとブラジル固有の自然素材を活用したことで知られ、土着的なモダニズムデザインをかたちにした。一方でリカルド・ファザネロは独学でデザインを学び、自ら製作も行ったアーティストでありデザイナー。革新的な素材で彫刻的なフォルムをかたちにし、ブラジルにおけるモダニズムの新たな可能性を切り開いた。

ここで紹介するのはすべてファザネロの家具。大きなロール状のフォーム三点を革製のストラップと金属フレームでつなぎ合わせたラウンジチェア《ファルドス》。1968年にデザインし、この椅子で初めて国際的な評価を得る。身体すべてを預けるような独特の座り心地。
左は1970年代初頭に手がけた《エスパコ チェア》。金属製の一本脚とカーボンスチール製のベースにレザー張りのスリムなフォーム層からなる座面と背もたれがのる。右は60年代、80年代という二つの時代にわたってデザインを発展させた《アネル》シリーズ。素材や仕上げもアップデートし、視覚的にも機能的にも進化を遂げた。展示では両モデルが並び、変化を楽しめる。
1970年代に、やはりスペースエイジのムードを反映したラウンジチェア《エスフェラ アームチェア》。球形のグラスファイバー製ベースに、布やレザー張りの座面と背もたれを組み合わせた。ファザネロは新素材に、レザー、鉄、スチールを組み合わせて独自の表現を追求。
1973年にデザインされた《アルコス テーブル》。アーチ状の曲線を描く彫刻的なベースがガラスの天板を支える。モジュール式で、使用する環境や目的に応じてベースの数や配置を自由に調整することができる。

本展を企画したギャラリー〈CASA DE〉の是久拓郎は「セルジオ・ロドリゲスとリカルド・ファザネロはこれまで日本であまり紹介されてこなかったデザイナーで、そのデザインを伝えたいとの思いがありました。そしてまったく異なる二人が、ブラジリアン・モダニズムのカテゴリーでともに語られることに面白さを感じます。そんなブラジリアン・モダニズムとはなんなのだろうかと、展示を通して考えていただくきっかけになれば」と話す。

セルジオ・ロドリゲスが1957年に発表した《モーリー》。木製のフレームにレザーベルトを通し、それが座面を支える。レザーベルトは簡単に調整が可能で、座面の形状を簡単に変化させることができる。シンプルな機能主義に留まらず、自然素材や有機的な形態に根ざしたヴァナキュラーなデザインを、ロドリゲスは志した。

ニューヨーク近代美術館のコレクションにもなっているロドリゲスの《モーリーアームチェア》は、ブラジルの銘木・ジャカランダにボリュームのあるクッションを組み合わせている。このように木材を巧みに使うロドリゲスに対し、ファザネロはいち早くグラスファイバーやポリエステル樹脂といった新素材を扱いながら彫刻的なデザインをかたちにした。

14歳で帆船を設計したという早熟なファザネロは生涯を通じてレーシングカーを愛し、自らもデザインしたという背景が新素材への関心に繋がっている。そんな二人の共通点を「デザインの自由さ、そして楽しみながら発想をかたちにしている姿勢。そして温かみのある曲線」だと是久は解釈する。

ここで紹介するのはすべてロドリゲスの家具。これはロドリゲスがキャリア60周年を迎えた2014年に、自身の過去のフリーハンドスケッチに触発されてデザインした《ベンジャミンアームチェア》。遺作でもある。側面を強く傾斜させ、座面と背もたれを固定するための独自のロッドシステムを採用している。ロドリゲスが「私の仕事の集大成」と語ったように、その生涯を通して構造と機能美を追い求めたデザイン思想が詰め込まれた一脚。
1958年、ブラジル・ブラジリアにあるオスカー・ニーマイヤー設計のプラナルト宮殿の待合室用に試作された《ベト アームチェア》。華奢なラインや幾何学の形状はモダニズムのオマージュととれる。奥はヘッドサポート用の大きなロールクッションを特徴とする《トニコソファ》。ロドリゲスにおけるミッドセンチュリーデザインの象徴ともいえる椅子で、生産性を高める製造工程を取り入れつつ、快適な座り心地を追求した。
ロドリゲスの椅子でもっともよく知られる《モーリソファ》の2シーター。ハンモックのような設計で究極の座り心地を実現している。
ロドリゲスのスケッチなども展示され、その筆致も魅力的。当時の交友がうかがえる写真も多く展示する。

「政治的な背景から、ブラジルのデザインは長く保守的な考えが根付いていたといいます。それを変えたいとの思いがモダニズムと結びついたのではないでしょうか。ヨーロッパからブラジルへ移り住んだリナ・ボ・バルディのように、ブラジルはさまざまなルーツをもつ人々が暮らす国です。なかでも日本をルーツにもつ人が二番目に多いといい、僕たちとも近しい存在といえるでしょう。そういった文化を背景に、いろいろな文化やデザインを取り入れながら発展したのがブラジルのモダニズムだと思います。これまでに企画した展示同様に、今回もほとんどの椅子に座っていただけます。座って触れて、その良さを知っていただきたいですね」

ブラジリアンモダニズムの父とも言える建築家オスカー・ニーマイヤーはル・コルビュジエの影響を大きく受けた人物だ。彼らが切り拓いたモダニズムはそうした意味でも、日本とよく似ている。その家具に触れながら、先人たちが切り拓いてきた現代という時代を堪能してほしい。

『Sergio Rodrigues & Ricardo Fasanello展- 異彩なブラジリアンモダニズムを探る -』

〈駐日ブラジル大使館〉にて2025年4月18日まで開催。●東京都港区北青山2丁目11−12。11時〜17時。入場無料。


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