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沖縄の世界自然遺産が舞台の『やんばるアートフェスティバル』が今年も開催中!【沖縄シティガイド】

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January 31, 2025 | Art, Design, Travel | casabrutus.com

沖縄北部の自然とアートが共鳴する芸術祭が、今年もついに開催されました。『やんばるアートフェスティバル2024-2025』は、やんばるの本来の姿に迫る「山原本然(やんばるほんぜん)」をコンセプトに、クリエイターたちが地域をアートで彩っています!

メイン会場の〈大宜味村立旧塩屋小学校〉。

沖縄本島北部の豊かな自然を舞台に2017年からスタートした『やんばるアートフェスティバル』。8回目を迎えた今年は「山原本然(やんばるほんぜん)」をコンセプトに、やんばるの自然や文化をありのままにアートと融合させている。期間中は現代アートの展示だけでなく、地元のクリエイターを集めたクラフトマーケットや、参加アーティストによるワークショップ、トークショーといった参加型イベントも随時開催予定。メイン会場の〈大宜味村立旧塩屋小学校〉を中心に注目の作品をチェックしよう!

●KYOTARO HAYASHI x Ryu《カタチをあたえる。》

写真がプリントされたシフォンの布が揺れる様子は、やんばるの風の柔らかさがあってかスローモーションに見える。
音楽を担当したRyu。バンド Ryu Matsuyama ではピアノ・ボーカルを務める。

KYOTARO HAYASHI × Ryuは、やんばるに来るたびに感じていた風を、シフォンの布と写真で具現化したインスタレーションを展示。

「地元の人の言う『やんばるは風で季節がわかる』という言葉が印象的で、やんばるの風があったこそ成せる作品ができました」とRyuは話す。

会場にはRyuが制作した楽曲『ten』の美しいピアノサウンドが流れ、会場である〈大宜味村立旧塩屋小学校〉の持つ懐かしさや温かみすら感じさせる。

●浅田政志《わたしのブナガヤ》

ブナガヤを観察するためのアラミ小屋「ヤングヮー」を再現。ここに手持ちのスマートフォンなどを置くことで、ブナガヤになった自分を撮影することができる。
ブナガヤのぬいぐるみと浅田政志。ブナガヤは「きじむなー」として沖縄全土でも知られている。

写真家・浅田政志は大宜味・喜如嘉(きじょか)に伝わる妖精「ブナガヤ」の伝説をテーマに、自分がブナガヤになって写真を撮影する《わたしのブナガヤ》を展開。写真を撮影するという行為そのものをインスタレーションに昇華した。

●冨安由真《おとずれるもの》

〈旧塩屋小学校〉の視聴覚室を使った音と光のインスタレーション。奥に見える放送室でもさまざまな超常現象的演出が発生する。
展示を行った旧塩屋小学校の放送室に座る冨安由真。

普段は心霊現象、信仰、超常現象などをモチーフに作品を制作する冨安由真。今回は塩屋湾のウンガミの祭りをテーマに、視聴覚室と生徒会室を使ったインスタレーションを行った。祭りの儀礼で行われる「御願バーリー」(塩屋湾で行われる舟の競漕)のかけごえを録音した音響と照明の演出を組み合わせた三次元的な体験ができる。

●OGDC(Okinawa Graphic Designer’s Class)《時代の空気を楽しむデザイン》

1975年から2025年までのポスターや写真がずらりと並ぶ畳の空間。
沖縄グラフィックデザイナーズクラブのレジェンドたちが集結。

沖縄グラフィックデザイナーズクラブ(OGDC)は、1983年に発足した沖縄在住のグラフィックデザイナーたちによる会。初代会長の岸本一夫は、あのオリオンビールや、日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)のロゴの制作者。今回の《時代の空気を楽しむデザイン》展示は小学校にちなんで「クラブ」ではなく、沖縄グラフィックデザイナーズ「クラス」と題し、沖縄のデザイナーたちが作ってきた広告ポスターや雑誌などのデザインを振り返る。会場では実際に沖縄で放映されていた、懐かしのオリオンビールのテレビCMの映像も見ることができる。

●ヘニング・ヴァーゲンブレト《マズーカの日曜日》

ヘニング・ヴァーゲンブレトによるインスタレーション作品《マズーカの日曜日》。工場が止まり、会社も学校も休日の日曜日の街を、細部まで近づいて観察できる。
12年振りに来日したというヴァーゲンブレト。オープニングでは小さなアコーディオンでの生演奏も披露し、アートフェス参加への喜びを伝えた。

ドイツ・ベルリン在住のアーティスト、ヘニング・ヴァーゲンブレト。普段は本や新聞、ポスター、郵便切手など平面的な作品の制作が多く、立体作品を作る機会は少ないと言うが、やんばるではトラベリングシアター(旅する劇場)としてインスタレーション作品《マズーカの日曜日》を出展。静止した日曜日の街へ、来訪者を迎え入れる。

●柏原由佳《Seeing in the Dark》

メインの教室では3ヶ月のアトリエ生活を通じて制作した2枚の大きな絵画作品と、滞在中の日課になっていた散歩で集めた貝殻を集めたインスタレーションを展開。特にお気に入りの貝殻を集めた「宝箱」も展示する。
ドイツでの17年間は内に籠っていた生活で、“内側へ掘る”ような作品が多かったのに対し、日本に来てからは作品がひらけてきた感覚があると語る柏原由佳。

日本最南端の美術館と言われる〈南城美術館〉にアーティスト・イン・レジデンスで滞在、制作を行った柏原由佳は、2部屋に渡って《Seeing in the Dark》を展開。227cm x 364cmの大作を含め、沖縄各地の自然と触れ合って制作した絵画作品を複数点展示する。別室では沖縄での生活で受けたインスピレーションをもとに生まれた感覚やイメージを描いた抽象作品も展示。「自分の中に沈殿しているものを引っ張りあげようと挑んだ」と柏原。

●中澤ふくみ《人と道具の相互形成》

沖縄の民具と人の関係を探り、道具の造形や人の動きを描き取る。
「人間の身体と道具」の関係性を探る中澤ふくみ。背後にあるのは、ループアニメーションに使用した和紙の絵を全て重ねて糊付けし、1枚に「封じ込めた」もの。

「人間の身体と道具」の関係性を探るアーティスト・中澤ふくみは沖縄の民具に着目。沖縄の人々が使う日用の道具や、道具を作るための道具、それらの関係性を作品に集結させた。

「沖縄の民具は、人との距離がとても近く、それぞれの家庭で作っていたりするので作り方が違うことがあります。なので資料して残っているものは少なく、想像で埋め合わせながら作品を制作しました」(中澤)

映像作品を含め全てが新作。和紙に墨で書いた絵を使ってループアニメーションを制作したのち、描いた和紙を糊で貼り合わせて一枚の紙に「封じ込める」。時間を可視化させ、物質的に後戻り出来ないこと、アニメーションの価値と原画の価値について思考を巡らせた。 

●仲程長治《山原本然》

中央にある発泡スチロールの繭は、元々やんばるの海岸に打ち上げられたもの。それが「すでる」(沖縄の方言で“生まれ変わる”)ことで、再生して、循環して、また命になるという。
2017年から『やんばるアートフェスティバル』の総合ディレクターを務める仲程長治。

『やんばるアートフェスティバル』の総合ディレクターを務める仲程長治の展示タイトルは、本芸術祭のコンセプトにもなっている『山原本然』。変わらないこと、変わってはいけないことを題材に、やんばるの自然のありのままを写した写真たちを、言葉とともに構成した。それぞれの写真は、水滴や虫に食われた様子など、自然の摂理を表現する立体的な演出が施されている。

「本然」とは、生まれつき、自然のまま、天性、などを表す言葉(会場に置かれた辞書から抜粋)。今年で8回目を迎えた『やんばるアートフェスティバル』を振り返り、やんばるがやんばるのままであり続けることを願って「山原本然」と言うコンセプトを定めた。

沖縄県内外のアーティストが沖縄に集結。

〈大宜味村立旧塩屋小学校〉ロドリゲス=伊豆見・彩《声にすること》。ニューヨークに拠点を構えるロドリゲス=伊豆見・彩は、母が沖縄の生まれ。中央の机に置かれた本『Okinawa's Tragedy: Echoes from the Last Battle』は、1987年、ウィリアム・T・ランドールにより書かれた“沖縄の悲劇:第二次世界大戦最後の戦いのスケッチ”に基づく短編集。本の挿絵は父のホセ・ロドリゲスが担当し、自身の木版作品と、ペイントを会場に施した。中心の椅子に座ると、机の中からかすかにウチナーグチでの本の朗読が聞こえてくる。
〈大宜味村立旧塩屋小学校〉うしお《海の向こう》。指紋と線画を用いたタペストリーとアクリルによるインスタレーション。世界のウチナーンチュ(沖縄人)から集めた指紋をスタンプとして使用したアクリルとタペストリーの作品は、波と波がぶつかり合って消える様子に見えたり、かえって指紋に見えたりする抽象表現だ。
〈大宜味村立旧塩屋小学校〉片桐功敦《たましいの通り道・やいまの壺パナリ》。沖縄のパナリ焼(土器)に西表に自生する植物を生けて撮影した写真作品と空間構成を行う。パナリ焼は、一般的な生活道具だが、最も一般的な使い方は骨壷だったという。洗骨文化のある沖縄にとって、低い温度で焼き上げるパナリ焼きは、呼吸するように水の通りが良いために、使われたのではないかと考察した。

今回から新たな試みとして「YAFキュラトリアルコミッティ」を形成した『やんばるアートフェスティバル』。4名のキュレーターによって沖縄県内はもちろん、国内だけでなく欧米やアジア圏からも注目のアーティストを召集し、地域や世代を超えた多様なアーティストが集まった。

《YAF CRAFT MARKET》

亞人と、O’ Tru no Trusによる空間構成。例年の植物を主体とした演出からがらりと雰囲気が変わり、やんばる地域らしい清々しさを感じる。

メイン会場の〈大宜味村立旧塩屋小学校〉で行われる、毎年人気の《YAF(やんばるアートフェスティバル) CRAFT MARKET》は、今年も見所が沢山だ。〈PORTRIVER MARKET(ポートリバー マーケット)〉の麦島美樹と麦島哲弥のキュレーションにより総勢22作家が参加し、やちむん、硝子、木工、藍染、漆芸、アクセサリーなど、多彩な分野の作品が一同に集結した。練り歩けるような会場は、藍染作家の亞人(あじん)と、漂流物を仕立てるアーティストO’ Tru no Trus(オートゥルノトゥルス) が空間構成を施した。一部作品はオンライン販売からの購入も可能だ。

沖縄出身の作家・nikadoriの一輪挿し。
今帰仁村に工房を構える、FUCLAYのやちむん。
石垣島とやちむんの里で修行を積んだ仲田雅也のやちむん。
今帰仁村出身の琉球藍染作家・亞人の作品。

やんばるの各地に点在する会場も見逃せない。

〈大宜味村喜如嘉保育所〉で展示する麥生田兵吾の《Edge Complex》。何かと何かが混ざり合う場所=「境界」をテーマに、フィールドワークを重ねて見つけた“忘れられたようなお墓”の写真作品を展示。
写真家・麥生田兵吾。フィールドワークの中で“3”にまつわる出会いが不思議と多かったらしく、背後のヤギの写真は、滅多に生まれることのない山羊の”三つ子”だそうだ。

『やんばるアートフェスティバル2024-2025』の会場は〈大宜味村立旧塩屋小学校〉だけでない。すぐそばの〈大宜味村喜如嘉保育所〉では、写真家・麥生田兵吾や〈チームやめよう〉が作品を展示する他、周辺の宿泊施設など計11会場に作品が点在。沖縄北部地域をぐるりと周遊しながら『やんばるアートフェスティバル2024-2025』を見て回ってみては。

『やんばるアートフェスティバル2024-2025』

2025年1月18日〜2月24日。 会場:大宜味村立旧塩屋小学校(大宜味ユーティリティーセンター) / 大宜味村喜如嘉保育所 /やんばる酒造 / オクマプライベートビーチ&リゾート / 辺土名商店街 /オリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ / カヌチャリゾート / 名護市民会館前アグー像 /BEB5沖縄瀬良垣 by 星野リゾート / ホテル アンテルーム 那覇 / 沖縄美ら海水族館(美ら海プラザ) 時間:11時〜17時(大宜味村立旧塩屋小学校)。 休み:火曜・水曜休(2/11(火祝)は開館)。 入場料:一般500円(高校生以下無料/沖縄県内在住者300円)。


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