January 25, 2025 | Architecture, Art | a wall newspaper
川村によるコンセプトと重松による建築、そしてオラファーによるアートワーク。ビッグネームたちが集い、京都で静かにその扉を開いた会員制サロン 〈ものがたり〉。その一部を特別に公開です。
料亭やお茶屋が軒を連ねる京都の一角。町家の格子戸が並ぶ風景には、人々が伝統としきたりを守りながら日々の営みを続けている空気が漂う。川村元気がディレクションを務めた会員制サロン〈ものがたり〉は、喧騒を離れた京都のとある場で建築中だ。
「是枝裕和監督とNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』を作ったのをきっかけに、京都にご縁をいただきました。幸運にも古い町家をディレクションすることになり、自分が国内外からの大切な友人やつくり手たちを招くことのできる場にしたいなと」
改修設計を託したのは重松象平。OMAパートナーとして数々の大型プロジェクトを手がける人物に白羽の矢を立てたのは意外な気もするが「ありきたりでない空間を見せてくれそうで」と川村。重松には、この場でどんなことが起き、街や世界とどんな関わりを結ぶかを描いた “脚本“ でプロジェクトの概要を伝えたという。
重松が振り返る。「初めての経験でしたが、建築の依頼書の与条件が“序破急”のあるシナリオだったんです。そこで、能、映画や小説のように一貫するテーマやストーリーを持ちつつ、それぞれにシーンが変わっていくような空間をイメージしました」
結果的に立ち現れたのは、スキップフロアの各空間が、エントランスを入ってすぐの“坪庭”から続く吹き抜けを介して連続する一軒だ。
「京都の町家は奥へと細長いものが多いので、坪庭はそこに光を持ち込む役目を果たします。さらに坪庭はその建物で起きる会食や舞踏といったさまざまなアクティビティの焦点や背景にもなる。一方で、今回のこの坪庭は建物の中心にあり、建物内の動線もすべての空間も吹き抜けに接している点は、西洋の”中庭”的な要素も持ち合わせているとも言えます。日本家屋には、もともと完全に壁で区切られた部屋は見られません。ここでもその空間的特性は踏襲しつつ、プライベートサロンでもあることもふまえて、壁はつくらず、スキップフロアにして、坪庭を介して視線をずらすことで、つながっている感覚を残しながら、プライバシーも担保することを意識しました」
さらに吹き抜けには、川村が敬愛するアーティスト、オラファー・エリアソンが光と鏡によるコミッションワークを設置した。映写機のような機械から放たれた光が、吹き抜け内でバウンスして“坪庭”に落ち、変化を続ける幻影のような光が踊る。
「しんしんと降る雪、寄せては返す波、チラチラと揺れる焚き火……。アルゴリズムで解析できないような自然の動きを眺めているのがとても好きなんです。そのこととと、家の中にいながらにして、時間や季節の移ろいを持ち込んでくれる坪庭についての共感とを重松さんにお話ししました。そこから重松さんがオラファーと話を詰め、この作品へと結実させてくれました。」
「この光は神か、おばけか、あるいは精霊か。そのどれでもあるし、どれでもない。大好きな京都という町のもてなしの場にふさわしい光を作れたと思います」とオラファー。
川村によるコンセプトと重松による建築、そしてオラファーによるアートワーク。三者が互いに光を当て、磨き合うような、美しい建築。この場でトップクリエイターたちが出会い、新しい“物語”を紡いでいく光景が見えるようだ。
〈ものがたり〉
住所非公開。少人数の完全紹介制で、会員のみ利用可。会員は3名までゲストを同伴できる。入会金1,100,000円。年会費無料。会員は貸し切りも可能。施設内での写真撮影・公開は禁止。問合せ:info@gionmonogatari.com
オラファー・エリアソン
アーティスト。1967年生まれ。97年以来世界のアートシーンを牽引する一人。2023年、第34回高松宮殿下記念世界文化賞・彫刻部門受賞。今回は “坪庭” をつくった。
川村元気
かわむらげんき 映画プロデューサー・映画監督・小説家。1979年生まれ。今回のプロジェクトにあたり、まず脚本を書いたという。
重松象平
しげまつしょうへい 建築家。1973年福岡県生まれ。OMAパートナー、ニューヨーク事務所代表。今回の建築設計を手がけた。