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【熱海|ホテルニューアカオ】甲斐みのりと絶景クラシックホテル

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January 23, 2025 | Travel, Architecture | LIFESTYLE HOTEL

1973年に創業し、一時の閉館を経て、2023年、ついに再開した〈ホテルニューアカオ〉。市街地近くにありながら、自然に抱かれ穏やかな波に洗われる老舗ホテルの歴史と建築の楽しみ方を文筆家の甲斐みのりさんがご案内します。

昭和遺産の建築美。断崖絶壁を巧みに利用し海上に建つホテル。

静岡|熱海〈ホテル ニューアカオ〉 1973年開業。設計:稲葉長司設計事務所。土産物店、赤尾百貨店、赤尾旅館や赤尾ホテルも開いた創業者が、景勝地・錦ヶ浦にリゾートホテルを作ろうと一念発起。霞が関ビルディングを手がけたチームに設計を依頼し、数万本のピアノ線を基礎岩盤に固定する工法を用いて建設が行われた。
シャンデリアが輝く15階の多目的ホール「サロン・ド・錦鱗」。柱にはブルーオニキスを贅沢に使用。遮るものなく窓の外に海が広がり、左手は熱海市街地、右手は網代方面の眺望。熱海海上花火大会時には観賞席が設けられ、すぐ目の前に花火が上がる。ダンスホールとして使用されることも。

主には第二次世界大戦前の創業で、今も現役で営業を続ける西洋式の老舗ホテル。それらはクラシックホテルと称され、旅・歴史・建築好きに特別な愛好家がいるほどだ。かくいう私もその一人。もとは避暑や海外からの賓客のもてなし、温泉・ゴルフ・スキーなどのリゾートを目的に作られており、贅を尽くした建物でゆったりと寛げる。遊興の選択肢があまりない時代だからこそ、その多くが景勝地と隣り合わせに築かれ、風光明媚な景色を眺めながら過ごす時間が重宝された。

海と一体化したようなインフィニティデザインの露天風呂「スパリウムニシキ」。
フロントやロビーがある17階のシャンデリア。
1~2階の階段のタイル。
〈Restaurant & Sweets 花の妖精〉は別館ホライゾン・ウイングの一角。相模灘と錦ヶ浦の断崖を望む絶景カフェで、季節限定のパフェやノンアルコールカクテルを。

私もクラシックホテルで過ごすとき、スマホやテレビなど文明の利器からできるだけ離れ、ひたすらに美しい自然を眺めたり、建築そのものを鑑賞したり、周囲を散歩しながらその土地の風土や歴史を紐解く。すると、目の前の風景が輝きを増して目に映り、より深く鮮明に記憶に刻まれる。

スタンダードの和室。客室はすべてオーシャンビュー。
送迎バスの通り道「観魚洞隧道(かんぎょどうずいどう)」は明治43年開通。

戦後の誕生でも、創業から40〜50年経つホテルもまた、個人的にはクラシックホテルの仲間ととらえ、旅の目的として楽しんでいる。1973年、日本有数の温泉地・熱海の錦ヶ浦の海食崖を巧みに利用して建てられた〈ホテルニューアカオ〉もそのひとつ。およそ30万年前まで活動していた多賀火山の噴火口の名残である岩盤と一体化する特異な環境や、海上にそそり立つダイナミックな建物に惹かれ、たびたび足を運んできた。2021年に一度閉館したけれど、既存のものをそのまま生かす形で補修を行い、2023年7月に再開を果たす。ところどころに宮殿風のデザインが施された昭和の趣が失われないか気がかりでいたけれど、今回ひと足早く訪れることができて心配は杞憂に。

ローマ宮殿をイメージして作られたという「メインダイニング錦」。壁一面のガラス窓からは錦ヶ浦の絶景が。ランチは宿泊客以外も利用可能。
「メインダイニング錦」の上には屋上庭園。断崖絶壁と一体化する建物の様子がよくわかる。海中で火山噴火が起こった跡の水冷破砕溶岩を眼下に観察できる。

海上に浮かぶようなホール「サロン・ド・錦鱗」はそのまま。多賀火山の噴出物が窓の向こうに間近に迫る「メインダイニング錦」ではランチ営業が新たに始まる。“昭和98年”の再スタート後も、断崖絶壁に建つ昭和風情の大型ホテルと絶景の眺めは、熱海のシンボルとして愛されることだろう。

フロントに続く階段。

〈ホテル ニューアカオ〉

静岡県熱海市熱海1993-65 TEL 0557 83 6161。全350室。1室2名利用2食付き15,950円~。

かいみのり

文筆家。旅、散歩、手土産、クラシックホテル、暮らしや雑貨などを主な題材に執筆。『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『一泊二日 観光ホテル旅案内』(京阪神エルマガジン社)など著書多数。


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