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【ミラノデザインウィーク】エルメス:アートのような満足感がある家具

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May 27, 2017 | Design, Architecture, Fashion | casabrutus.com | photo_Sohei Oya (Nacása & Partners) text_Takahiro Tsuchida

地中海のイメージで構成した空間に、遊び心のある新作が並んだ〈エルメス〉ホームコレクション。日常とアートが融合する世界観を体感させた。

新作家具の発表会でありながら、すばらしいインスタレーションを観た後のような満足感。ミラノデザインウィークの〈エルメス〉ホームコレクションの展示は、そんな印象を残すものだった。今年の展示は、アーティスティック・ディレクターのひとりである建築家、シャルロット・マコー・ペレルマンによる屋内パビリオンが舞台となった。モチーフは地中海沿岸の厩舎で、壁はレンガを白くペイントし、床にはイタリア中部ウンブリア地方で作られる伝統的なレンガを敷いた。地中海の自然光を思わせる眩しい照明が、展示されたアイテムをコントラスト豊かに浮かび上がらせる。
外部とのコラボレーションで、今年、特に注目を集めたのが建築家のアルヴァロ・シザによるミニマルなスツール《カルミ》。一見、あまりに華奢で体重を支えられるか心配になるが、見えない部分にカーボンファイバーを使用しており、驚くほどの軽さと耐久性を実現している。日本の工房と竹工芸でコラボレーションすることで高い精度が実現した。隙のないシルエットは、照明によってできる影もまた美しい。
シザとともに初のコラボレーションを果たしたのは、ロンドンを拠点に活躍するバーバー・オズガビー。漆のようにも、レザーのようにも見えるマットな質感のテーブル《アエス》は、ブロンズの鋳造でできている。昔から受け継がれる素材や技術を使い、モダンなフォルムを作り出した点はシザの椅子と共通する。ただしかなりの重量があるのは対照的で、それゆえの揺るぎない存在感がある。
〈エルメス〉の社内でデザインされるアイテムも、昨年からアーティスティック・ディレクターを務めるアレクシィ・ファブリとシャルロット・マコー・ペレルマンの指揮のもと、いっそう明確に世界観を打ち出している。トロリー《ディリジャンス》のように、メープル、レザー、柳、真鍮を組み合わせたアイテムは、その象徴だろう。すみずみまで生かされた職人技と、優雅で洗練された姿に、〈エルメス〉らしさが極まった。また暖炉のそばで薪を置くための《ログバスケット》は、新シリーズ《リアン・ドゥ・エルメス》からのアイテム。このシリーズは、〈エルメス〉が乗馬用の鞍を作る前から手がけていた馬車用のハーネスをモチーフにしている。
高度な職人技、卓越した上質さ、豊かな伝統など、〈エルメス〉はさまざまな言葉で形容される。今年、ミラノデザインウィークに際して発表されたホームコレクションでは、もうひとつの〈エルメス〉らしさが印象的だった。それは知的な洒脱さであり、一種の遊び心。自らのメゾンの歴史や、異文化の中で発展してきた要素に、ひねりを加えるセンスが絶妙だ。この感性は、本物を追求し続ける作り手ならではのもので、他の誰かが真似できることではないだろう。

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