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RCRアーキテクツの3人をプリツカー賞に導いた決断とは?

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May 18, 2017 | Architecture | a wall newspaper | photo_Hisao Suzuki text_Tomoko Sakamoto editor_Yuka Uchida

スペインの3人の建築家がプリツカー賞を同時受賞! 彼らの故郷オロットへのこだわりが世界に共感されています。

今年のプリツカー賞を受賞したスペイン、カタルーニャのRCRアーキテクツの3人。バルセロナから北へ110km、緑豊かな休火山地帯ガロッチャに位置する人口3万4000人の小さな町オロットを拠点に、世界にその名を知られるようになったという稀有な経歴を持つ建築家たちである。

バルセロナおよびバイェスの建築大学で出会った彼らが卒業した1987年は、数年後にオリンピックを控えた空前の建設ブーム。ところが彼らは多くの同級生のように好景気のバルセロナで就職せず、仕事のあてもないオロットに戻ってゼロから建築をつくる道を選んだ。ところが若き日の彼らがとったこの「故郷に帰る」という、一見建築的判断とは思えない選択は、結果的に彼らをこの賞へと導く、最初の重要な一歩となる。
〈サン・アントニ—ジョアン・オリバー図書館複合施設〉(2007)
故郷から、世界へ。それでも変わらない建築のつくり方。
彼らはその風景や文化を理解し肌身で感じられる土地、ガロッチャで建築を模索しはじめた。そしてそこに地元の職人や工法によって最も自然な形で立ち現れ、故郷の人々の生活に馴染む建築を、3人の徹底的な対話、つまり「共有された創造性」によって追求し、今もつくり続けている。

家族や友人の住宅に始まった仕事は、オロットの公共空間から近郊の町へ、その後バルセロナ、フランス、ベルギー、ドバイへとより多様化、国際化、巨大化していくが、彼らの姿勢は変わらない。未知の土地へ赴いても、自らの故郷を見るのと同じまなざしでその場所を理解し、そこに建ちうる建築が見えるまで、ひたすら対話を重ねる。その中には「宇宙」「沈黙」「美」といった言葉が並ぶが、そのような思想こそ、彼らが個人の知性と才能ではなく対話によって磨き続けているものであり、建築の根源的な存在理由を他者と理解し合える作品をつくるための重要な手段なのだろう。3人のその「複数形」的な仕事は、BUNKA財団の設立、オロットに世界中の若者を集めて行うワークショップ『Lab·A』へと広がっていく。
〈ペティ・コムテ幼稚園〉(2014)
建築家の仕事は、夢を見て、それを共有すること。
オロットの古い鋳造所を改修してつくった彼らの本拠地〈バルベリ〉は、緑と静寂、闇を内包した豊かな複合施設である。そしてここではいわゆる「会議室」の機能を持つ居室に「夢のパビリオン」という名がつけられていることにも注目したい。プロジェクトについて語り合うこと、それは彼らにとって「共に夢を見る」という想像・創造的行為にほかならない。

昨年アレハンドロ・アラヴェナがこの賞を受賞した際、多くの人々が彼の社会的な建築活動の意義を十分に認識しつつも「彼にこの賞は早すぎるのでは」と思ったかもしれない。けれどこの賞が毎年「存命の」建築家に与えられる意味について考えてみると、それはおそらく建築家の「これまでの功績」に対して与えられる賞ではなく、世界を変えうる優れた思想と強い意志を持った建築家の「これからの仕事」に対して贈られる、いわば魔法の杖なのではないかと想像できる。RCRの3人が、このプリツカー賞という杖を使って声を大にして夢見る権利を手に入れ、建築とそれが建つ大地と人々の間に、具体的で新しい持続的な関係を築いていくことを、そしてこのような彼らの姿勢がより多くの人々に共有され世界を変えていくことを、楽しみにしていきたい。
〈スーラージュ美術館〉(2014)

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