April 13, 2016 | Art, Architecture, Travel | casabrutus.com | photo_Kunihiro Fukumori
text_Naoko Aono
editor_Keiko Kusano
春会期が開催中の「瀬戸内国際芸術祭2016」。穏やかな海に陽光がきらめく島々は初日から大賑わいです。豊島(てしま)と直島から、注目の新作をピックアップしました。
大竹伸朗《針工場》
骨組みだけになった工場の建物の中、木の船のようなものが逆さまに浮かんでいる。入り口にはパイプ状のものや板状のものなど、さまざまな形の鉄が暴力的に組み合わされている。豊島で大竹伸朗が完成させた新作《針工場》はこれまでの《女根/めこん》(女木島)や家プロジェクト《はいしゃ》“舌上夢/ボッコン覗”、《直島銭湯 『I♥湯』》(直島)とはまた違った印象だ。でもその場の空気をびりびりと震わせる、独特のパワーはこの作品にも強烈に感じられる。
この建物は約50年前、島での雇用促進のために町長らに依頼され、豊島出身の技術工が設立したメリヤス針の工場だったもの。しかし海外との競争が激しくなり28年前に閉鎖され、その後はずっと空いたままになっていた。
大竹伸朗《針工場》入口部分。
アーティストの大竹伸朗が、拠点にしている宇和島の造船所に打ち捨てられた漁船の廃材で作品を作るようになったのは約30年前のこと。今回、豊島の針工場で作品制作を、という話になって敷地を訪れた彼の頭に浮かんだのは、その造船所にあった船型だった。最近の漁船はFRP製なのだが、それを作るための木型だ。この木型は作られたものの、船が製造されることはなく、そのまま20年以上放置されてきた。それを船で豊島まで運び、港から針工場まで地元の子供たちと一緒に運搬した。入り口にある鉄のオブジェは近くの鉄工所で見つけたものだ。
「僕の作品にはコラージュが多い。“貼る”意識が強いんだと思います。これも針工場に船型を貼っている。一つのものに一つだけ貼る、大きい一発コラージュなんです」(大竹)
この作品は、できれば夜も見て欲しい、と大竹は言う。船型の上や下に照明が仕込まれていて、夜になると船型が光の中に浮かんでいるように見えるのだ。ここがのんびりした瀬戸内とは思えない、近未来的な光景が広がるだろう(注:夜間の展示予定は今のところ未定)。
古い民家を改造した《豊島八百万ラボ》。
豊島にはもう一つ、アーティストのスプツニ子!による恒久設置作品《豊島八百万ラボ》が誕生した。縁結びの神社のように「絵馬掛け」もある建物は古い民家を改造したもの。こけら落としとして、スプツニ子!の新作《運命の赤い糸をつむぐ蚕 - たまきの恋》が展示されている。ある女の子が先輩に恋をする。告白したい、でもできない。それなら遺伝子工学で絶対に振られない、運命の赤い糸を作ってくれる蚕を作っちゃえ! という、ややイタい女の子の物語だ。
スプツニ子!《運命の赤い糸をつむぐ蚕 - たまきの恋》は、5分ほどの映像とインスタレーションで構成されている。
映像には実際に農業生物資源研究所とのコラボレーションによって、人間が恋に落ちる成分オキシトシンと赤く光る珊瑚の遺伝子を導入して作られた蚕の“赤い糸”が登場する。荒唐無稽な設定にちゃんと科学的な裏付けがあるのが面白い。
ヒロイン、たまきのフルネームは豊田玉姫(とよだ たまき)。古事記に登場する豊玉姫(とよたまひめ)からヒントを得ている。豊玉姫は豊島の由来とも言われており、愛する山幸彦との子供を鮫の姿で産んだともいう。ヒトと鮫の間を行き来する豊玉姫は、ヒトのオキシトシンと珊瑚の遺伝子のハイブリッドである蚕にも通じる。
作品にちなんだ絵馬(640円)を購入して、祈願することもできる。
《豊島八百万ラボ》には、絵馬掛けも設置されている。
建物の改修は成瀬・猪熊建築設計事務所が担当している。元の家の一部をカットして全体を二つに分け、小さいほうをチケットブースに、大きいほうをインスタレーション・スペースにした。インスタレーションがあるスペースは上に鉄骨の柱を渡してその下にあった木の柱を取り払い、広々とした空間にしている。それ以外のところはほとんど変えていないので、ちょっと薄暗い日本の木造住宅の懐かしい雰囲気が味わえる。
スプツニ子!《運命の赤い糸をつむぐ蚕 - たまきの恋》インスタレーションの一部。
藤本壮介建築設計事務所《直島パヴィリオン》photo_Jin Fukuda
雲に座れたらいいなあ。子供のころのそんな夢から生まれたのが直島・宮浦港近くの藤本壮介《直島パヴィリオン》だ。ステンレス・メッシュでできたこのオブジェには、中に入ることもできる。中から白いメッシュ越しに見える外の景色は南国瀬戸内の強い光も和らげられて、昼間見る夢のような景色だ。夜、ライトアップされた姿も美しい。
直島の本村地区では『直島建築 NAOSHIMA BLUEPRINT』が開かれている。会場で目を引くのは青図(藍焼き)と呼ばれる、青い線や面で焼き付けられた直島の地図を等高線に沿って切り抜き、それを積み重ねた立体的な地図だ。その立体地図に直島で建築家が手がけた建物、約20がプロットされている。
石井和紘が設計した直島小学校。
今でこそ〈ベネッセハウス ミュージアム〉など安藤建築のイメージが強い直島だが、1970〜80年代には直島は「石井和紘の島」として知られていた。建築家、石井和紘が設計した直島小学校や直島町役場は当時、島の人たちの大きな誇りだったのだ。
展覧会会場には当時の新聞記事なども展示され、町長以下、島の人々が石井建築を大切に思う気持ちが伝わってくる。〈地中美術館〉の展示では図面に淡々と数字が並ぶウォルター・デ・マリアのファクシミリなども面白い。『瀬戸内国際芸術祭』の春会期と夏会期にはこれらの建築を実際にめぐるツアーも予定されている(詳細は要問い合わせ)。直島に息づく建築のDNAが体感できる。
その他、パチンコ屋を西沢大良が改修したギャラリー〈宮浦ギャラリー六区〉では飯山由貴、丹羽良徳、片山真理がそれぞれ春・夏・秋会期に展示を行う。とくに全国の霊能者に依頼、直島の歴代町長をあの世から呼び出すという丹羽良徳のドキュメンタリー(夏会期)は楽しみだ。アートのニュージェネレーションが新しい発想を見せてくれる。
瀬戸内国際芸術祭 2016
直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島(春)、本島(秋)、高見島(秋)、粟島(秋)、伊吹島(秋)、高松港・宇野港周辺。TEL 087 813 2244。春/〜4月17日 夏/7月18日〜9月4日。秋/10月8日〜11月6日。開館時間は施設・季節により異なる。3シーズン共通パスポート5,000円。公式サイト