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内藤礼の作品に民藝の心を感じるホテル。富山・砺波平野で民藝の心を感じる旅へ。

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November 12, 2024 | Art, Design, Travel | casabrutus.com

富山県にある民藝をテーマにしたアートホテル〈楽土庵〉に、内藤礼の作品が新しく恒久設置されました。今年春にオープンした〈杜人舎〉とあわせて、民藝の心を感じる旅へ誘います。

内藤礼《返礼》2024年。

2022年、富山県砺波市にオープンした〈楽土庵〉は3組限定のスモール・ラグジュアリーホテル。築120年の「アズマダチ」と呼ばれる、この地に特有の民家を改修している。客室は全3室。それぞれ「紙」、「絹」、「土」を素材のテーマとして使用し、世界各地の民藝の家具や器、地元の工芸作家の作品が飾られている。ロビーにも芹沢銈介や棟方志功、濱田庄司ら民藝ゆかりの作家による作品が展示されている。

〈楽土庵〉外観。大きな切妻屋根の妻面に木材で格子を組んだ意匠が特徴だ。

内藤礼の作品があるのは〈楽土庵〉の脇にある、日本芝が植えられた庭の空間。立体作品《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》、ベンチ、そして水田を臨む庭全体が《返礼》と題された。

《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》。息を吹きかけると水面にさざ波が立ち、むこうへと走っていく。

《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》はそのタイトルの通り、そっと息を吹きかけるという作品だ。水をたたえた細長い立体作品に息を吹きかけると水面がわずかに波立つ。波を目で追っていくと水田の先に山並みが見える。

日本芝が敷かれた庭も《返礼》の一部だ。
《返礼》に続く小径。
夕陽に向かって伸びる《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》。

〈楽土庵〉の中にも内藤の作品《color beginning》と《ひと》が置かれている。《color beginning》は色が生まれる瞬間をとらえたい、という思いから制作が始まった。このシリーズでは「絵を描こう」というはからいが生まれた瞬間にやめるのだという。そんな作り手のはからいを超えた在り方が民藝と共通する、とホテルを運営する「水と匠」の林口砂里はいう。

〈楽土庵〉ライブラリーに展示されている内藤礼の作品《ひと》。
〈楽土庵〉ロビー。芹沢銈介の屛風が置かれている。

〈楽土庵〉が民藝を軸としているのは、1948年に柳宗悦が砺波市に隣接する南砺市の〈城端別院善徳寺〉に滞在し、民藝思想の集大成となる著書『美の法門』を執筆した縁による。柳は東京での戦禍を避けて富山に滞在していた板画家・棟方志功に会いに南砺市にやってきた。

〈楽土庵〉の客室「紙 shi」。壁や天井にハタノワタルの和紙をあしらい、イサム・ノグチの照明《AKARI》とポール・ケアホルムのラウンジチェア《PK22》をとりあわせた。
〈楽土庵〉の客室「土 do」。壁は、作家・林友子がこの土地の土に銀箔を混ぜて仕上げている。
客室には民藝の器や現代アートが設えられる。季節によって取り合わせを変えることも。
「紙 shi」に飾られた「繍仏(しゅうぶつ)」。細い糸で仏を刺繍した、手の込んだ仏画だ。

柳はこの地の精神風土を「土徳」(どとく)と呼んでいる。「土徳」とは自然や地形を象徴する土と人間がともに作り上げた、その土地ならではの品格のようなもので、それぞれの土地にそれぞれの「土徳」があるという。〈楽土庵〉はそこでゆっくりと時間を過ごすことで、その「富山の土徳」を体感できる場だ。

〈楽土庵〉

富山県砺波市野村島645 TEL 0763 77 3315。 全3室、1泊2食付き2名利用 お一人 44,000円〜。TEL 0763 77 3999。※内藤礼《返礼》は公式サイトから予約をすれば宿泊しなくても鑑賞できる。公式サイト

〈杜人舎〉外観。「アズマダチ」の意匠が引用されている。
来客を迎える「高桑門」。中央が膨らんだ屋根を瓦が覆う。
〈杜人舎〉講堂。宿泊者でなくても使えるカフェや、宿泊者の朝食などが供される。改修にあたってはできるだけ元の雰囲気を保つようにした。

2024年4月には〈城端別院善徳寺〉の敷地内に宿泊を軸とした複合施設〈善徳寺 杜人舎〉(もりとしゃ)もオープンした。全6室の客室のほかに講堂、カフェ、ショップ、テレワークスペースを備えている。建物は柳宗悦の愛弟子、安川慶一が設計した研修道場だったもの。〈楽土庵〉同様、こちらも客室を含め、随所に民藝品が置かれている。

〈杜人舎〉の館内の民藝や工芸の品。空間に調和して静かに佇む。
〈杜人舎〉館内に飾られた民藝の品は一部、購入も可能だ。

柳宗悦研究者の松井健は「民藝は宗教だ」という。柳は「法門」という語によって、人類が普遍的に感得している宗教性を伝えたいと考えていた。柳が滞在した〈城端別院善徳寺〉は、北陸における浄土真宗信仰の中心的な寺院の一つだ。

堂々たる構えの〈城端別院善徳寺〉山門。文明年間(1470年ごろ)、蓮如上人の勧めで開基した。寺内も障壁画や釘隠しなど見どころが多い。

蓮如上人を開基とする浄土真宗では「他力」という考え方が重視される。ちっぽけな「凡夫(ぼんぶ)」である私たちは、目には見えない大いなる力=他力に身を委ねるほかない。そのことを思えば自然にありがたい、おかげさまで、という気持ちがわいてくるし、利他の心で他者に接することができる。

〈杜人舎〉トリプルの客室。切妻になった天井がのびやかだ。
5室あるツインはすべて間取りが異なる。シンプルで居心地のいい部屋だ。
客室の床の間には季節にあわせた設えがなされる。

善徳寺から車で20分ほどのところにある浄土真宗寺院〈躅飛山 光徳寺〉(ちょくひざん こうとくじ)には内外にところ狭しと民藝の品が置かれている。いくつもある部屋には棟方志功の襖絵《華厳松》を始め、世界各国の民藝が並ぶ。おもに先先代・先代の住職が収集したものだという。

〈杜人舎〉談話室。茶席として使うこともできる。
〈杜人舎〉内の民藝ショップ。漆やガラスなど、古民藝から現代作家の作品まで購入することができる。

あるとき、光徳寺を訪れた人が「なぜここはこんなに居心地がいいのですか」と尋ねた。先代の住職は「自我を離れたところで作られたものたちは、われが、われがと自己主張しないからでしょう」と答えたという。民藝運動の中心人物の一人、河井寛次郎は「仕事が仕事をする」と言った。自我を離れることで自己を解放することができるのだ。自我主張をしない姿勢はおのずと「他力」、「利他」につながる。民藝と浄土真宗がここで出合う。

〈杜人舎〉の朝食。郷土食のなれ鮨や赤蕪の漬物などの発酵保存食をふんだんに使っている。
〈杜人舎〉内のコワーキングスペース。庭を眺めながら心静かに仕事ができる。

内藤礼の作品の《返礼》という題にはいただいているものにお返しをする、という思いが込められている。「どこかから呼びかけるものがあって、私はそれを受けとっています、と応えようとして制作をする」と内藤は言う。声高になるのではなく、息を吹きかけることで山に、空に返礼をする。だからこの作品は民藝の地にあるのがふさわしい。

〈杜人舎〉

富山県南砺市城端西上405 善徳寺内 TEL 0766 95 5170。客室全6室。1泊12,000円~。公式サイト

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