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驚異の想像力が生み出した《バベルの塔》を見に行こう!

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May 2, 2017 | Art, Architecture | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano

ブリューゲル1世が描いた《バベルの塔》が24年ぶりに来日! 本物は小ぶりな画面に巨大な塔とたくさんの人やものがぎっしりと描かれています。見るたびに発見がある、名画の見どころを解説します。

〈東京都美術館〉にて開催中の「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝 −ボスを超えて−」。ブリューゲルことピーテル・ブリューゲル1世は1526年か30年ごろに生まれ、1569年に没した画家。その生涯にはわからないことも多いが、アントワープやブリュッセルで活躍した。2人の息子も画家となっている。

《バベルの塔》は旧約聖書の物語。あるとき人々が天に届く塔を作ろうと考えた。それに怒った神は人々の言葉が互いに通じないようにしたため工事は中断、人々は散り散りになってしまった、という話だ。

ブリューゲル1世《バベルの塔》は印刷物でもよく見る有名な絵だ。が、実物を見ると意外に小さいのに驚く。縦横それぞれ約60センチ×75センチ程度しかないのだ。ブリューゲル最晩年の作である。
バベルの塔がどのような形だったか、旧約聖書には記述はないので画家はそれぞれ想像によって描くことになる。他の画家は四角い高層ビルのような形の塔なども描いているが、ブリューゲルの塔は丸い螺旋形。ローマのコロッセウムをヒントにしたとも言われている。ブリューゲルの絵は大きな注目を集め、後の画家にも影響を与えた。

今回出品されている《バベルの塔》には約1400人もの人が描かれているという。注目すべきはその工事風景だ。ブリューゲルは当時のネーデルラントで行われていた工事の様子を描き込んだと思われる。木で組んだ足場につけた大きな滑車で材料を持ち上げ、さらにはしごで上に持ち上げているようだ。
「塔の場所によって色が違うのは、産地の異なるレンガを使っているのでしょうか。塔の左側が白くなっているのは運び上げている漆喰がこぼれているのでしょう」と説明するのはこの絵を所蔵しているボイマンス美術館のシャーレル・エックス館長。普段は毎日のようにこの絵を見ているだけあって観察が細かい。

「《バベルの塔》は人間の傲慢さ、愚かさを表していると言われていますが、私はそうは思わないんです。高い塔の建設に挑戦する、人間の勇敢さを描いて答えのない問いを投げかけている。こうして現実とは違う架空の世界を描くことができるのがアートの素晴らしさだと思います」
会場には《バベルの塔》の拡大図や、CGで内部の様子を想像復元した映像が流れる。架空の工事風景がよりわかりやすく表現されている。そして見逃せないのが漫画家、大友克洋がバベルの塔の「内側」を描いた《INSIDE BABEL》だ。こちらももちろん旧約聖書には説明はなく、ブリューゲルがスケッチや図面を残しているわけでもないので、想像で“設計”するしかない。

大友が考えたバベルの塔の内側は空洞になっていて、右手前から左後方に向かって川が流れている。塔の登り口は塔の中央やや右にある門のような構造物だと目星をつけた。外側が螺旋構造なので、内側も螺旋になっているはず。こういった推理から大友が描いた下絵に、コラージュ・アーティストの河村康輔がブリューゲルの絵から採ったテクスチャーをマッピングして完成した。ブリューゲルの絵も相当に手間がかかっていると思われるが、《INSIDE BABEL》も負けていない。
東京都美術館ではブリューゲルが大きな影響を受けたヒエロニムス・ボスの油彩画が2点、展示されているのも話題だ。ボスの油彩画の真筆は約25点と言われており、この2点はいずれも日本初公開になる。
会場にはブリューゲルがボスの絵から引用した奇怪なモンスターが描かれた版画も並ぶ。ディーリク・バウツらボスやブリューゲルと同時代の画家の作品も興味深い。彼らは15世紀前半にファン・エイク兄弟らが確立したとされる油彩画の技法を継承し、発展させていった。
この頃は宗教画から風景画や風俗画へと主題が移り変わっていった時代。聖書のエピソードであっても背景であるはずの風景が画面いっぱいに描かれ、主役であるはずの人物が隅のほうに置かれていたりする。
「ボスの絵も宗教的な教訓が含まれているけれど、風俗画としても解釈できる。《バベルの塔》も題材は旧約聖書から採っているけれど、大きな塔とその周りの港や草原を描いた壮大な風景画であり、人の営みを描いた風俗画として見ることもできます」(展覧会を担当した東京都美術館・山村仁志学芸担当課長)

精緻に描かれている分、深読みのしがいがある《バベルの塔》やボスの作品。いろいろな角度から読解し、妄想を膨らませて楽しみたい。

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝 −ボスを超えて−

〈東京都美術館 企画展示室〉
TEL 03 5777 8600。〜7月2日。9時30分〜17時30分(金曜〜20時)。月曜休。公式サイト

【関連展示】
「Study of BABEL」展
〈東京藝術大学Arts & Science LAB.1Fエントランスギャラリー〉
TEL 03-5777-8600。 〜7月2日。9時30分〜17時30分(金曜〜20時)。月曜休。

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