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【レポート】『北アルプス国際芸術祭2024』開催中! 水と空気の恵みを存分に感じながら、アートを体験しよう。

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October 18, 2024 | Art, Design, Travel | casabrutus.com

北アルプスの澄んだ空気と水に守られた地で開かれている『北アルプス国際芸術祭2024』。その水と空気の恵みを存分に感じられるアートが待っています。

「北アルプス国際芸術祭」が開かれる長野県大町市。空と山に囲まれるようにして家や田が広がる。photo_Takeshi Shinto

「北アルプス国際芸術祭」は北川フラムをディレクターに2017年から3年に一度、開催されている芸術祭。3回目になる今年は国内外から37組のアーティストが参加、パフォーマンスを含め、38点の作品が並ぶ。

開催地は長野県の北西部に位置する大町市。JR信濃大町駅付近の「市街地エリア」、〈七倉ダム〉などがある「ダムエリア」、北アルプスからの豊富な水が流れる「源流エリア」、木崎湖など3つの湖がある「仁科三湖エリア」、糸魚川静岡構造線の上にある「東山エリア」とそれぞれ個性的なエリアに分かれている。

ヨウ・ウェンフー(游文富)《竹の波》。風のように柔らかくうねる竹が建物を覆う。 photo_Takeshi Shinto
ヨウ・ウェンフー(游文富)《竹の波》。台湾からも竹の職人が訪れて制作にあたった。  photo_Yu Wen-Fu

東山エリアにある「八坂」という集落は質のいい竹で知られており、職人も多い。台湾で活動するヨウ・ウェンフー(游文富)は〈八坂公民館〉のまわりを竹で編んだ巨大な“波”で覆ってしまった。水田の向こうに、ゆるやかにうねる竹の構造物が広がる。

「風は目には見えないけれど肌で感じることはできるし、風には形があると思う。この作品は竹で風を見えるようにしています」(ヨウ・ウェンフー)

9月末、稲の刈り入れのシーズンには金色に実った稲の向こうに、同じく金色に輝く竹を見ることができた。今は収穫も終わって、稲の姿はない。

「会期が終われば私の作品もなくなってしまうけれど、この美しい景色は永遠に記憶に残ると思う。私にとっては形が存在することより記憶に長く残ることが大切なのです」(ヨウ・ウェンフー)

佐々木類《記憶の眠り》。江戸時代中期、1698年に建てられた〈旧中村家住宅〉に設置されている。 photo_Takeshi Shinto
佐々木類《記憶の眠り》。ガラスに封じ込められた泡は熱せられた植物の内部にあった空気だ。 photo_Takeshi Shinto

同じく東山エリアの「美麻」という集落は地名からわかるように麻の栽培で栄えた場所だ。国の重要文化財でもある〈旧中村家住宅〉にはその歴史を彷彿とさせる佐々木類のインスタレーションが設置されている。草のシルエットが浮かび上がるガラスのスクリーンはかつての麻畑に生えている植物をガラスに封じ込め、熱したもの。茎や根は灰になり、植物の内部にあった空気は泡となる。

「ここに麻畑があって人々の暮らしを支えていた。その記憶をとどめるタイムカプセルのような作品です」と佐々木はいう。

ガラスは〈黒部第四ダム〉の建設事務所で使われていたもの。工事現場で働いていた人々の大半はこの地を去ってしまった。

「大町では人もものも動いていて、歴史的なものも意外に残っていないんです。その中で残っているものをすくいあげている」(佐々木)

ソ・ミンジョン《黒い跡》。倒木のような木は台風などで倒れたものを使用している。 photo_Takeshi Shinto

韓国出身のソ・ミンジョンは巨大な箱状の発泡スチロールに焼けた木が倒れてきたようなインスタレーションを作った。発泡スチロールの白と木の黒が対照的だ。

「人工的なマテリアルの象徴として、舞台で雪のかわりに使われることもある発泡スチロールを設置しました。でも氷山のような自然物にも見えて、その両面性が面白いと思います」(ソ・ミンジョン)

表面が焦げた木は気候変動により多発している山火事を連想させる。生々しくもあり、詩的でもある作品だ。

ルデル・モー《Folding》。古くから日本の土壁に使われてきた工法を応用している。 photo_Takeshi Shinto

〈旧相川トンネル〉は明治22年ごろ、大町市と八坂村をつなぐために人力で掘られたトンネルだ。トンネルの先には北アルプスの景色を楽しむ展望台などが設えられていたが、1987年に廃道となった。そのトンネルの中に置かれているのは南アフリカ出身のルデル・モーの作品だ。付近の土と八坂の竹でできたオブジェは、魚か動物のように見える。

「2つの場所をつなぐトンネルという場所は、目覚めと眠りの間にある場ともいえます。そこに土と竹という、容易に形を変えることができる素材で作った彫刻を置きました」(ルデル・モー)

会期終了後は土に還ることになる。一時の夢のような、生と死の循環の中にある作品だ。

ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレット《ささやきは嵐の目のなかに》。風景を新しい視点で見るためのアート。 photo_Takeshi Hirabayashi

仁科三湖エリア、〈仁科神社〉の北にある森を歩いていくと、大きな水滴のようなインスタレーションが現れる。ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレットの《ささやきは嵐の目のなかに》という作品だ。リサイクルされた眼鏡のレンズを連ねて作られている。水滴のように見える作品は湖や雪解け水など、さまざまに姿を変えるこの地の水からインスピレーションを得ている。

「作品の中に立って見上げると森が、見下ろすと湖が見える。レンズの両側に立つとお互いの姿が昆虫の複眼みたいに見えるのも面白いと思う。レンズの効果で空中に小さな絵がたくさん現れたようにも見える」(ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレット)

ムルヤナ《居酒屋MOGUS》の「フードモンスター」。
ムルヤナ《居酒屋MOGUS》。毛糸で編んだ“食材”が「フードモンスター」の材料だ。

芸術祭の拠点の一つとなるJR信濃大町駅近くには、ちょっと変わった居酒屋(?)ができた。インドネシアの作家、ムルヤナの《居酒屋MOGUS》だ。中に入ると毛糸で編んだ野菜や魚が並んでいる。来場者はお皿にその“食材”を盛って、自分の好きな「フードモンスター」を作ることができる。作者はパンデミックで会食ができなくなったときにこの作品を作り出した。会場も実際にもとスナックとして使われていた場所だ。みんなで飲んで、食べて、おしゃべりした、誰にでもある記憶とつながっている。

磯辺行久《北北西に進路をとれ》。磯辺はこれまでも地形や気候を形にするダイナミックな作品を各地で制作している。 photo_Takeshi Hirabayashi

〈七倉ダム〉は岩石や土砂を積み上げて作る「ロックフィルダム」という形式のダムだ。そこには磯辺行久が《北北西に進路をとれ》という作品を設置している。偏西風など、北北西方向からの影響を可視化する作品だ。

芸術祭のメインビジュアルを担当したビジュアルディレクターの皆川明は「やはり住んでいる人全員が感じているであろう水の豊かさ」が「北アルプス国際芸術祭」の一番の魅力だという。

「芸術祭のコンセプトである木・土、そして空の雲はそれぞれ水を蓄えています。また私たちの体の中に蓄えられている水も生命にとって絶対に必要なものですよね。体に対する精神という意味では、芸術が水の役割を果たしているととらえています。またこの芸術祭は広いエリアで開催されていて、移動する間に自然や環境がある。『北アルプス国際芸術祭』に限ったことではありませんが、アートとアートの間に豊かな自然があるから、作品の余韻をじっくり味わうことができると思います」(皆川)

体の内や外を循環する水が生命を維持してくれるように、アートが精神を満たしてくれる。北アルプスではその水や森と人とが長い時間をかけてつながってきた。流れる水音を聞きながらアートを体感できる芸術祭だ。

エカテリーナ・ムロムツェワ《山のくちぶえ》 大町市内の空き家で、床下を流れる水路からインスピレーションを得た水彩画を展示。 photo_Takeshi Hirabayashi
エカテリーナ・ムロムツェワ《山のくちぶえ》 エカテリーナ・ムロムツェワが〈佐々屋幾(ささやき)神社〉で展示している作品。日本の伝説や民話から着想した童話を影絵芝居の映像で表現した。 photo_Takeshi Hirabayashi
蠣崎誓《種の民話―たねのみんわー》大町の人に聞いた食にまつわるエピソードを、草木染めで染めた植物の種や実などを敷き詰めた絵画で表現。会期終了後はまた土に還っていく。 photo_Takeshi Hirabayashi
蠣崎誓《種の民話―たねのみんわー》部分。 小さな種や実をぎっしりと敷き詰める、細かい作業から生まれている。 photo_Takeshi Hirabayashi
イアン・ケア《相阿弥プロジェクト モノクロームー大町》 国宝〈仁科神明宮〉奥の森に高さ20メートルの巨大な絵画を展示。水墨画のような抽象的な絵画は鑑賞者の立つ位置によって姿を変え、風景を変容させる。 photo_Takeshi Hirabayashi
コタケマン《やまのえまつり》 屋外で一緒に大きな絵を描く祭り「やまのえまつり」で制作した絵画。雨が降ると消えてしまうのでまた描き直す。「山の神にやり直しを命じられている。コントロールするより、されるような感じ」(コタケマン)。photo_Takeshi Hirabayashi
千田泰広《アフタリアル2》光の束が高速で動いているように見えるが、実際には私たちの網膜や脳に残る残像だ。自分の中にある光景を見るアート。
マリア・フェルナンダ・カルドーゾ《Library of Wooden Hearts》もと高校の図書室に杉の若木の芯を積み上げたインスタレーション。作者は芯に心臓の形を見出した。
宮山香里《空の根っこ― Le Radici Del Cielo―》〈須沼神明社〉の神楽殿で揺れる絹の薄布に、流れる雲か松のように見えるパターンが木版でプリントされている。薄布の向こうに森の景色が見え、常に移り変わる自然の様相を感じとれる。

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北アルプス国際芸術祭 2024

長野県大町市内各所。~2024年11月4日。会期中水曜定休。9時30分〜16時30分。


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