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【インタビュー】『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』展は韓国・ソウルのザハ・ハディド設計のDDPにて最終章へ。

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October 18, 2024 | Design, Art, Fashion, Travel | casabrutus.com

2019年に開催された東京都現代美術館「ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく」展。各地で巡回してきた同展は、新たな要素を加えてアップデートされ、〈ミナ ペルホネン〉初の韓国での展覧会として開催。今回の展覧会で新しく生まれた《Two Horses and Travelers》や、韓国のアーティストとのコラボレーションに込められた想いとは?

さまざまな色や形が集まり、新しいテキスタイルのように見える柔らかなクッションウォール。アーチを潜ると「景」の展示室の天井から垂らされたタペストリーが、トンネルを通り抜ける風に色を感じさせる。「普段、服は生地の裏まであまり見ることはありませんが、布を間近に見てもらい裏側がどうなっているか、軽さや表情などを感じてもらえたら」(皆川明)photo_Hyeonki Yoon
「森」の展示室。2024年のシーズンのテキスタイルを含め303体のデザインが林立。DDPのデザインにも通ずる有機的な曲線が空間に奥行きを感じさせる。photo_Hyeonki Yoon
「実」の展示室には、2000年に発表され作り続けられてきたテキスタイル《tambourine》から生まれたアイテムが並ぶほか、皆川が最初に描いたスケッチや職人との試行錯誤の軌跡も展示されている。photo_Hyeonki Yoon
皆川が描いた《tambourine》のスケッチ。よく見るとひとつひとつの玉が不揃いで、フリーハンドから生まれたデザインであることが分かる。
ザハ・ハディドが設計し、2014年にオープンした東大門デザインプラザ(DDP)。

2019年11月に開催された東京都現代美術館「ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく」展は、その後、兵庫県立美術館、福岡市美術館 、青森県立美術館、そして、台湾の高雄市立美術館と巡回。文字通り“つづいて”きたこの展覧会がこの秋初めて、韓国に表現の場を移し「minä perhonen design journey: the circle of memory」として開催。ザハ・ハディドが設計を手掛けたDDP(東大門デザインプラザ)を舞台に2025年春まで開催される。

「ザハ・ハディドの建築には近未来的なイメージもありますが、DDPにはどちらかといえば有機的で海辺に落ちている石のような温もりを感じたんです。ソウルという都市の中に石がポンと置いてあるような。この建築を訪れるのも楽しみの一つになってくれるといいなと思って展覧会場に選びました」(皆川明)

田根剛が手がけた2019年の『つづく展』の展示構成の際のコンセプトを基軸に、阿部真理子が展示デザインを担当。天井が高く壁面も傾斜しているDDPの特徴を活かしながらゾーニングや導線を再構築し、新たな作品をインストールした。開幕には田根も駆けつけ、〈ミナ ペルホネン〉の作品とザハ・ハディドの建築とが響き合う展示に浸った。

また、韓国における認知度が日本よりも低いことが、流行という短いサイクルにとらわれず創作を続ける〈ミナ ペルホネン〉にとって、再び原点に立ち返ることのできる契機にもなったと皆川はいう。

「私たちのことを知らない韓国の皆さんが、まっさらな気持ちでどんなファーストインプレッションを感じ、どんなふうにメッセージを受け取ってくれるか、とても楽しみなんです」

「芽」の展示室では、皆川明や田中景子ら〈ミナ ペルホネン〉のデザイナーによるテキスタイルのスケッチを展示。この30年に生み出された点数は1,000を超え、カラーや布のバリエーションを含めると、約4,950種にのぼるという。描かれた年代もサイズも異なるスケッチたちがランダムに並び、白い空間をキャンバスにしたコラージュ作品のように見える。photo_Hyeonki Yoon
中央上・斜めに走るクレヨンの線が太さも隣り合わせの色も自由に大胆に描かれた《crayonniste》。中央下・制作した切り絵のはぎれから生まれた《surplus》。初期のスケッチには、修正跡やディテールへの指示を書いた鉛筆の跡も残っている。photo_Hyeonki Yoon
「種」の展示室。1枚のテキスタイルからさまざまなアイテムが作られ、はぎれも別のアイテムとして生まれ変わっていく。photo_Hyeonki Yoon
今回の展覧会で新しく生まれた《Two Horses and Travelers》。深い霧が立ち込める草原の中で、まだお互いを知らない馬に乗った旅人たちが霧の中で出会う小さなドラマを幻想的に描いている。photo_Hyeonki Yoon

展示室は「風」「実」「森」「種」「土」といった自然や植物にまつわる名前をもち、有機的に繋がり合いながら構成されている。2019年の時からこのコンセプトは変わることなく続き、それ以降に新しく生まれたデザインもシームレスに仲間に加わっている。新しいものと懐かしいものが溶け合うようにしたのには、一貫した皆川の想いがある。

「ミナ ペルホネンがこの30年間で志してきたのは、流行のように移ろい消えていくものではなく、個人の記憶の中で循環していけるようなデザイン。ひとりひとりの日々の暮らしに根差した服は、持ち主の思い出とともに大切に育てられていきます。そんなパーソナルなデザインはワンシーズンで終わることはありません。だから、この展覧会では、ここから先が新しいもの、といったように時間の継ぎ目を見せることなく、新しいものも古いものもミックスして展示しているんです」(皆川)

「種」の展示室では、〈ミナ ペルホネン〉のジャンルにとらわれないクリエイティビティを紹介。世界的なサステナビリティのトレンドに先駆けて、〈ミナ ペルホネン〉は創業以来、素材を余すことなく使い、余ったはぎれを無駄にすることなく、バッグやアクセサリーを制作。

これらは、物質的な無駄を減らすことのみならず、「アイデアや発想力を働かせる」=「はたらくこと」を捨てないということにも繋がっていくと皆川はいう。たとえば、北欧への社員旅行で大雨が降った際にゴミ袋をポンチョのようにしてレインコート代わりにした経験から新しい服のアイデアが生まれたり、はたまた、ピーター・アイビーと皆川が共作した《欠片が濾過する光の境界》では、欠けてしまったグラスを薄いガーゼで柔らかく包み込んだタペストリーを制作したり。

作品からこぼれたはずの「かけら」が、小さなデザインの種となり、循環して再び生まれ変わる。そんなふうにして世界中のブランドやクリエイターとのコラボレーションを重ねながら、〈ミナ ペルホネン〉のクリエイティブの幅は年輪のように広がっている。

スチールで作られた〈巣〉のラウンジチェアと〈鳥〉のモビール。「無駄のないデザイン」を追求しているデザイナーのムン・スンジは、1枚の金属板からこれらの作品を生み出した。photo_Hyeonki Yoon
建築家のイム・テヒは、韓紙を重ねて作る伝統的な技法を用い、家具を制作。天然素材でできた韓紙に描かれることで、《life puzzle》の動物たちの、息づかいや生命力まで感じられるよう。ちなみにイム・テヒは、前橋にオープン予定の〈ミナ ペルホネン〉のショップの内装も手がけている。photo_Hyeonki Yoon
チェ・ドゥクジュは、韓国の伝統的な麻布であるハンサンモシを天然藍染し、〈ミナ ペルホネン〉の代表的な刺繍柄《tambourine》を再構成し繋ぎ合わせてチョガッポを制作。繊細な手仕事で施されたパッチワークには《tambourine》と同じく人の手の跡や温度まで感じることができる。photo_Hyeonki Yoon
まるで湖畔で休んでいる一対の鳥を連想させる家具デザイナーのイ・サンフンの作品。ガラス、木、ファブリックなどさまざまな素材が調和し、有機的な曲線美と温かみのある美しさを表現。photo_Hyeonki Yoon

今回の展覧会では、〈ミナ ペルホネン〉が撒いたデザインの種を韓国のアーティストがそれぞれのアプローチで作品にする展示室「水」が新たな要素として加わった。表面的なコラボレーションに留まらず、根底にある想いまで深く重なり合っていることに驚かされる。

たとえばムン・スンジの「巣」と「鳥」の作品では、1枚の金属板から1脚の椅子と18羽のモビールを生んだ。冷たい印象の金属と〈ミナ ペルホネン〉の温かみのあるファブリックは一見対照的でありながら、「持続可能なデザインの哲学」を互いに共有していることが感じられる。

また、韓国にはチョガッポと呼ばれる、はぎれを一針一針丁寧に縫い合わせたパッチワークの伝統的な布があるが、〈ミナ ペルホネン〉も同様に、はぎれをつなぎ合わせたパッチワークの作品をたびたび生んできた。《tambourine》を再構成しパッチワークを施したチェ・ドゥクジュによるチョガッポは、韓国の伝統にも、〈ミナ ペルホネン〉のデザイン哲学の中にも、はぎれを繋ぐことに込められた特別な願いが通底していることを教えてくれる。

「デザインという普遍的な言語を通して、国や文化の壁を越えて友情を深めることができたように思います」(皆川)

キャンバスに向かい《Two Horses and Travelers》の下地の色を重ねていく。
深い霧が立ち込める草原の中で、馬に乗る人の姿が見える。
この出会いの先に「つづく」ストーリーは、観るものに委ねられている。

韓国での初の展覧会を開幕するにあたり、新しく描かれた作品《Two Horses and Travelers》も披露。本来はメディア向けにライブペインティングの形で公開される予定だったが、その前に完成してしまったという。

「最初は、鳥がたくさんいるような絵を描こうと思っていたんです。そのための下地を塗っていたら、意外とこの下地の感じがいいなと。塗り重ねていくうちに、何かストーリーが欲しいなと思い、2頭の馬とそれに乗る旅人の姿が霧の中から自然と浮かび上がってきました。夢中に描いていたら、ライブペインティングの予定をすっかり忘れてしまっていました(笑)」(皆川)

遠くから眺めた時には霧のように見えた幻想的な風景に目を凝らすと、そこに2頭の馬が見えてくる。遠くからは見えないけれど、近づくにつれて次第に見えてくる旅人たちの出会いの瞬間を、ぜひ韓国・ソウルの会場で間近で見て欲しい。

「土」の展示室では、服と愛用者の間で育てられた思い出や記憶の集積をまるで地層を見るように展示されている。今回、韓国の愛用者の服も仲間入り。photo_Hyeonki Yoon
「空」の展示では、あえて1995年から2025年までのタイムラインが記され〈ミナ ペルホネン〉がデザインしてきたテキスタイルが積み木のブロックのように並んでいる。「年によって作品数の多寡がだいぶ異なりますよね。必ずしもたくさん作ればいいというわけではなく、じっくりと醸成させることも大切なんだなと近年思うようになりました」(皆川)photo_Hyeonki Yoon

デザインの森を彷徨い歩き、湖畔を通り抜けると「土」の展示室に辿り着く。この場所には、この展覧会で一番伝えたかった想いが込められている、と皆川はいう。

「デザインというのは記憶のスイッチのようなものなのかもしれません。物質としてデザインを手に入れた人の記憶は、服を通して熟成されていく。ある日このデザインを見たときに、『そういえばあの時、この服を着ていたな』といったように、その思い出は何度でも再生されます」(皆川)

単なる服の展示という物質的なものではない、時空を超えた記憶の再生。愛用者から借りたお気に入りの服が、どんな想い出とともに着用されたのか、デザインとエピソードが重なることで、人と服の豊かな関係性が浮かび上がってくる。

2019年からつづいてきた展覧会は、韓国・ソウルをもってひと区切りとなるが、2025年の創業30年という節目に新しい展覧会も予定されているという。〈ミナ ペルホネン〉が創作している物語は、100年つづく。

minä perhonen design journey: the circle of memory

〜2025年2月6日。ザハ・ハディド設計の東大門デザインプラザ(DDP)の展示1館(B2F)にて開催。会期中無休(一部定休あり)。大人20,000won、青少年15,000won、子供10,000won、特別10,000won、36ヶ月未満無料。281 Eulji-ro, Jung District, Seoul, South Korea minaperhonen.seoul@gmail.com


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