October 5, 2024 | Art, Architecture, Design | casabrutus.com
北陸を舞台にした『GO FOR KOGEI』は、工芸を軸に場所と人、技とが出会う芸術祭。富山市と金沢市の2か所で開催されているイベントの見どころをご紹介します。
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『GO FOR KOGEI』は、北陸を舞台に2020年から年に一度、開催されている芸術祭。毎回、開催場所を少しずつ変えて行われている。今年は昨年からの継続となる富山市の岩瀬に、金沢市の東山を加えた2つのエリアが会場になっている。どちらも歴史的建造物が軒を連ねる、建物自体に匠の技を感じさせる街だ。
●富山市岩瀬エリア
富山市の岩瀬は富山港に注ぐ神通川の河口に近いエリア。かつては北前船による交易で栄えた。造り酒屋の〈桝田酒造店〉が中心となって、歴史的な街並みの活用に力を入れている。
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その〈桝田酒造店〉の蔵を改修した、通常非公開のバー〈Aka Bar〉で観客を迎えるのは五月女晴佳の艶やかな赤いオブジェだ。漆を素材にした官能的なオブジェは唇をテーマにしている。「口は食欲やコミュニケーションなど、人の欲望に関連する器官です」と五月女はいう。もともと彼女は化粧が好きで、少しずつ塗り重ねて磨く漆芸の制作過程がメイクとも親和性があると感じていた。
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人間が生存していく上で欲望は欠かせないものだが、行き過ぎると狂気的なものになってしまう、とも五月女はいう。彼女にとって血液の色であり、「生」を表す色でもある赤に私たちも目を惹きつけられる。
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〈Aka Bar〉から歩いて数分の〈桝田酒造店 満寿泉〉の中には舘鼻則孝の作品がある。江戸の文化を現代の文脈で読み直した作品で知られる彼は2階の床に、神棚から雷が響き渡るようなグラフィックを展開した。神棚に祀られている、酒造りに欠かせない水を司る神は龍や雷とも関係している。神のエネルギーが満ちているようにも感じられる空間だ。
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現在、アメリカを拠点に活動している岩村遠は人体をテーマにした、やきものによる作品を展示している。デフォルメや省略によって変形された人体は古代の土偶や呪具のようでもあり、アニメやマンガのキャラクターのようでもある。日本とアメリカでやきものを学び、世界各地で滞在制作を経験した彼は「自分なりに各地の文化を咀嚼し、取捨選択してきた」という。その結果残ったものが彼の中で醸成されて、独特のフォルムとなって出現している。
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もと精米所だったことから〈セイマイジョ〉と名づけられたスペースでは石渡結の作品が展示されている。今年、金沢美術工芸大学を卒業したばかりの若手だ。彼女は自ら素材である糸を撚り、染めるための土を探すところから手がけている。見る者を圧倒するどっしりとした形は自身の身体をモチーフにしたもの。土と糸に全身で向き合い、生まれた作品だ。
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●東山エリア
金沢市を代表する観光地「ひがし茶屋街」のある東山エリアでは、観光客でにぎわう通りの裏手にある隠れ家のようなギャラリーなどが舞台だ。そのうちの一つ〈KAI〉では輪島で漆による器づくりを手がける赤木明登と、普段は器の絵付けを行っている大谷桃子によるインスタレーションが展開されている。
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建物の中には赤木が収集している輪島塗のお椀の木地や、碗を納める箱などが積み上げられている。積み上げた箱の背後に大谷が蓮の絵を描いた。見上げると積み上げた箱の上に置かれた花入れから蓮の花が咲いているように見える。
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赤木が従事する輪島塗は分業によって生産されており、木地を挽く(器の形に木を削り出す)、表面を平滑にする、布を巻き、下地を塗るといった工程によって異なる職人が担当している。今年1月の地震により赤木、そして彼とともに他の工程を担当する職人も被災した。とくに「荒型屋」と呼ばれる、木をお椀の形に挽く職人は一人しかおらず、この地震で廃業を考えているという。荒型屋がいなくなったら輪島塗が途絶えてしまう。赤木は危機感をもってこのインスタレーションを制作している。
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この〈KAI〉の改修設計を手がけた建築家、三浦史朗は〈KAI離〉と名づけたスペースで展示を行っている。〈KAI離〉は通常非公開、特別に招待したゲストに食事やお茶をふるまう場だ。建物は築60年ほどの2階建ての木造アパートだが、三浦の改修によって大きな変容を遂げている。
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〈KAI離〉で三浦は大工や木工、紙、竹、アルミといった素材の職人たちと協働する「宴KAIプロジェクト」の作品を展示している。『GO FOR KOGEI』ではその集大成として、組み立て式の茶室や仕口・継手による照明などをインスタレーションした空間を公開した。また、《淋汗草事》という宴席も特別開催。これは室町時代に流行した、風呂に入って茶を飲み、酒宴を行う「淋汗茶湯」から着想したもの。食事や入浴もできる設えとなっており、もてなしの妙を想像できる。
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総合監修・キュレーターを務める秋元雄史は今回、岩瀬エリアではアートピース的な作品を、東山エリアでは手にとって使える道具としての工芸にスポットをあてたという。工芸の持つ幅の広さを実感できる芸術祭だ。