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『六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家』インタビュー: イタリアの巨匠は“ロッジア”になにを思う?

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September 23, 2024 | Design, Architecture | casabrutus.com

1980年代に世界のデザインに大きな影響を与えた伝説的なデザイン集団〈メンフィス〉。建築家のミケーレ・デ・ルッキは若くして、その前身である〈アルキミア〉から参加した人物だ。アルミニウム製アームライト〈トロメオ〉、メンフィスらしいユニークなフォルムをもつ椅子〈ファーストチェア〉など、家具や照明のデザインにも名作が多い。そのデ・ルッキがプライベートワークとして制作した家型彫刻の展示が〈21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3〉で始まった。

会場には6つの家型の彫刻が並ぶ。六本木の地名はかつて存在した6軒の武家屋敷に由来するという一説に作品との偶然の一致を見い出し、本展を『六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家』と名づけた。

2018年、イタリアの建築デザイン誌『ドムス』のゲスト編集長に就任したミケーレ・デ・ルッキは三宅一生にインタビューを行うため日本を訪れた。三宅とデ・ルッキは〈21_21 DESIGN SIGHT〉で互いの実験的なプロジェクトについて語らい、いつか展覧会をしようと盛り上がったという。そのプロジェクトとは異なるものの、今回デ・ルッキは〈21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3〉を舞台に未発表の木材とブロンズによる6つの家型彫刻「ロッジア」を発表する。「ロッジア」とはイタリアの建築様式で屋根をもつ半屋外空間をいう。

「本展における非常に重要なテーマがロッジアです。内部の生活と外部の環境が交差する空間であり、初めて人と自然が交わる部分。6点の作品でロッジアの象徴的な形を表現しました。これと同質の空間は日本や他のヨーロッパ諸国にも見られます。ルネサンスの建築家はこうした空間を通じて調和を表現しようとしましたし、日本では侘び寂びや日本の自然観を表現しようとしました」

デ・ルッキは6つの家を眺め、「イタリアでは日本的と言われ、日本ではヨーロッパ的と言われるのです」と笑う。切妻屋根はたしかに日本的だが、建築の普遍的な要素を凝縮した模型に見える。

「人間と自然の関係する場所として、ロッジアはこれからますます重要な建築の概念になると考えています。私自身も自宅にロッジアを設け、そこで多くの植物を育てています。なかでも季節の変わり目にロッジアで過ごす時間はとても素晴らしい。建築とはまず人を守るために存在しますが、ロッジアは自然と身近に接することができる場所なのです」

《ロッジア 384》(2015年)。ウォールナット材(38×26×35cm)。

そして本展でデ・ルッキが熱い眼差しを向けるのがマテリアルだ。6つの家は半分を木材、半分をブロンズで制作している。ここにも彼の思索が見られる。

「まず木材は人類が初めて手にし、何かを生み出したマテリアルです。つまりマテリアルの祖先です。一方でブロンズは人類が初めて発見した金属。2つのコンビネーションが非常に重要でした。後に他の素材が発見されていくわけですが、この2つの素材は私たちの文明を築く上で非常に重要な存在だったのです」

さらにデ・ルッキは台座も含めて作品であり、表現であるという。アセチル化処理(木材を安定させ、耐水性、耐朽性等を高める酸化処理)を施したオーク材の台座も、デ・ルッキがデザインを手がけたものだ。

「『ロッジア』のみならず、展示そのものをインスタレーションとして捉えていただきたい。今回はオフィス家具メーカー〈ユニフォー〉の協力で台座を制作しました。この台座は人の手でアナログに切り出されています。木材を切り出した台座をその後は放置し、やがてそこに伸縮が起こって亀裂が入りました。自然のままに放置し変化する台座もまた、インスタレーションを構成する要素です。変化をしていく一時的な存在に美があるのだという概念を打ち出したのは千利休です。この考えは非常に日本的であるともいえるでしょう」

(左から)《ブロンズ・ロッジア2》(2024年)ed.3/3、ブロンズ、21×33.5×32cm。《ロッジア 387》(2015年)。ウォールナット材、43×25×37.5cm.

建築空間の考察とマテリアルとの対話、本展でデ・ルッキが見せたいものはなにか。

「私たちが学ぶべき最も重要なことは、人間が自然にかなうことはないという事実です。自然は人類よりもはるかに強大な力をもっている。一方で我々人間が他の動物に優る能力をもっているとすれば、それは伝える能力を有しているということです。私たちは言葉やシンボルを使い、互いにコミュニケーションを図ります。私が信頼する人類学者のユヴァル・ノア・ハラリは、人類が他の生物にくらべて高い柔軟性を備えていると指摘しています。私たちは自然のなかでどのような振る舞いをすべきかを考えることができますし、それを果たす大きな責任をもっているのです」

《ブロンズ・ロッジア1》(2024年)ed.3/3、ブロンズ、23×35×32.5cm。

本展はデ・ルッキが個人的に制作してきたオブジェクトである。なぜ多忙にもかかわらず、彼はプライベートワークを続けるのだろう。

「私はプライベートな仕事と誰かのためのクライアントワークを並行して進めています。自分のための仕事は非常にアーティスティックでありますが、クライアントワークの過程においてもアーティスティックな部分を見つけて提供していくことが重要です。両者は相関関係にある。私は建築家として仕事をするうえで、自分がすでに知っているものを誰かに渡していくのではなく、自分でさらに新しい何かを発見し、それを提供したいと強く願っているのです」

ミケーレ・デ・ルッキ 1951年イタリア・フェラーラ生まれ。住宅、オフィス、文化施設などの建築プロジェクトに携わる一方、家具や照明など多くのプロダクトのデザインでも知られる。現在、日本での六甲山サイレンスリゾートをはじめ、世界各地でプロジェクトに取り組む。2018年には新たな移住空間のコンセプト「アース・ステーションズ」を発表した。

六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家

〈21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3〉東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン。2024年9月20日〜10月14日。10時〜19時。火曜休。入場無料。※六本木アートナイト特別開館時間:9月27日、28日は10時〜22時。

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