July 28, 2024 | Culture, Architecture | a wall newspaper
建築をサブカルチャーで学べる異色の入門書『アニメオタクの一級建築士が建築の面白さを徹底解剖する本。』が彩図社から刊行。その楽しみ方を著者に聞きました。
●『呪術廻戦』|建築史に残る大論争が凝縮した建築。
呪術高専 by『呪術廻戦』戦後に「日本的な建築」とは何かが議論された「伝統論争」では、丹下健三が優美で弥生的、白井晟一が野性味あふれる縄文的として対比された。呪術高専は繊細な木架構や入母屋が印象的だが、高専の最下層には荒々しい薨星宮本殿があり、縄文と弥生の2大論争が同居している。
「アニメは必ず3回観ます。1回目は普通に楽しむ。2回目は隠れた伏線をチェック。3回目は背景の建築だけを観るんです」という一級建築士の千葉光さん。アニメ好きが高じて、サブカル建築を本格的かつわかりやすく学べる解説本を上梓した。読者が行ける公共建築とつながるものを、同じく建築家の吉川尚哉さんによるイラストで図解。詳細は一読いただきたいが、実は載せきれなかった建築も多数あるという。
●『魔法少女まどか☆マギカ』|まどか邸は近代建築のお手本です。
鹿目まどか邸 by『魔法少女まどか☆マギカ』近代建築の巨匠ル・コルビュジエが掲げた「近代建築の五原則」では、①自由な平面②自由な立面③独立骨組みによる水平連続窓④ピロティ⑤屋上庭園が提唱された。その要素がしっかり取り入れられているのがまどか邸。実際にアニメを見るとシンプルな四角い建物、開放的な窓、構造が邪魔にならない間取りなど、「モダンな建築」のイメージそのものだ。
「『葬送のフリーレン』もすごいんです。全体的に西洋の農村っぽいのですが、場所によって気候や文化が微妙に異なっているのが細かく建物に現れています。ゲームではFF7のミッドガルも。円形の建物の中心に監視員がいて周囲に空間が広がる、パノプティコンと同じ構成の都市です」(千葉)
「映画『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』も。高層ツインタワービルによって富士山の景観を邪魔された画家が犯罪を犯す、という話で、富士山とビル、画家が一つの軸線上に重なっている。丹下健三がピースセンターで掲げた配置計画と通じます」(吉川)
●『任天堂スーパーマリオシリーズ』|「帝冠様式」で見る屋根の世界。
クッパ城 by『任天堂スーパーマリオシリーズ』クッパ城は昔ながらの組積造のお城。しかしエントランスにはクッパの顔の彫刻、トゲの意匠、甲羅を模した屋根。何の変哲もないお城にクッパの象徴がちょこんと載っている。これに似ているのが20世紀前半に生まれた「帝冠様式」の建築だ。
「フランクに建築を知ってもらって、この世をおもしろがる方法を一つ増やしてもらえたら」と二人。アニメの見方が変わる一冊だ。
『アニメオタクの一級建築士が建築の面白さを徹底解剖する本。』
著:NoMaDoS、イラスト:吉川尚哉。全208ページ。13種のサブカル作品に登場する建築をわかりやすく徹底解説。1,980円。彩図社刊。
千葉 光
ちばひかる 東北大学大学院都市・建築学専攻修士課程修了後、久米設計を経て、一級建築士事務所NoMaDoSを共同設立、取締役に就任。本書の執筆、企画を担当。推し建築は『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』に登場する「マサルさんの家」。
吉川尚哉
よしかわなおや 東北大学大学院都市・建築学専攻修了後、NoMaDoSを経て現在は「建築ダウナーズ」のメンバーとして展覧会の会場デザインや什器製作などを行う。本書ではイラスト、執筆を担当。推し建築は『チャーリーとチョコレート工場』の「チャーリーの家」。