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Channel: カーサ ブルータス Casa BRUTUS |
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トム・サックスさん、結構なお点前で。

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April 10, 2016 | Design, Architecture, Art, Culture | a wall newspaper | text_Mika Yoshida & David G. Imber editor_Yuka Uchida photo_Genevieve Hanson, Mario Sorrenti, Naho Kubota(bodega & portrait)     text_Mika Yoshida & David G. Imber editor_Yuka Uchida

NYのノグチ・ミュージアムが、トム・サックスのお茶室になりました。

この茶道具の持ち主は?
茶碗にはNASAのロゴ、茶筅をよくよく見るとマキタの電動エンジン付き、しかもミルク泡立て器の先端が! このキテレツな茶道具を作ったのは、NYのあの人気アーティスト。しかもなんとノグチ・ミュージアムでお茶会って!?
アーティスト、トム・サックスがなんと茶の湯を極めてみせた。それも彼独自のスタイルで! 茶碗や釜、柄杓といった茶道具から掛け物、花入れなど茶道で使うあらゆる品を自作し、茶会を開く。しかも場所は、あのイサム・ノグチ美術館。トムが工業用素材でつくったファンキーな茶室や池がノグチ彫刻と仲良く寄り添う、前代未聞のイベントだ。
ボクの茶室にいらっしゃい。
トム・サックス 1966年ニューヨーク生まれ。ロンドンで建築を学びLAのフランク・ゲーリー事務所で家具制作に携わる。90年ごろ、NYでスタジオ設立。世界的人気を誇る立体造形アーティスト。
茶道具もすべてトム作。このウッドも実は凝っていて、安い合板を独自のアングルで切り出し木目を見せている。
この『トム・サックス茶室』はノグチ美術館・開館30周年を記念した展覧会。同館の庭園そして1階フロアが、そっくりそのままトムの茶の湯ワールドへと変身した。同館でノグチ以外の単独アーティスト作品が展示されるのは、これが初の試みだ。なぜ茶の湯? なぜトムがノグチ美術館で?
宇宙プログラムから茶の湯へと、スピンオフ。
戦国時代の兜を頭に載せ、炭を作るための木を茶室の裏で切っているトム。この「木」は彼の作品で多用される、路上で拾ったバリケード廃材だ。
10年前にNYで茶道を学んでいたトムが、本格的に茶の湯へ取り組むきっかけとなったのは、2012年に発表し現在も進行中のプロジェクト『スペース・プログラム』展だ。仮想の宇宙旅行がテーマのこの立体作品展で、「長く退屈な宇宙旅行の間、何をするのが体と心に良いんだろう? 飲酒? ゲーム?」と考えた末行きついた答えが「エクササイズと茶会」。そのとき作った茶道具から発展したのが、今回の展覧会である。
巧みなプライウッド使いは師匠フランク・ゲーリー仕込み。
トムといえば、ハローキティやマクドナルド、ラグジュアリーブランドのロゴといった大衆消費文化をモチーフにした作品を思い浮かべる人が多いはず。この茶の湯シリーズも、アメリカの日用品やポップカルチャーと、茶の湯との出会いに仰天させられる。が、ウイットに富んだ楽しい空間に仕上がっているのは、彼の日本文化への深いリスペクトがあってこそ。
湧水をわざわざ汲みに行くのが伝統のおもてなし。NYでは消火栓からダイナミックに! 
綿密に作り込んだディテールがとにかく愉快だ。NYの道端で見かけるバリケード廃材で建てた、四畳半の茶室。にじり口から入ると、花入れや床の間に飾られた掛け軸、描かれているのは千利休の姿……いや、モハメド・アリ!? アリをこよなく敬愛するトムいわく「このプロジェクトを進める上で、彼こそ心の師だった」とか。
リスペクトあふれる楽しい「見立て」。
つくばいもこの通り。
裏に回ると緻密につくり込んだ水屋の細部もチェックできる。露地には立派な枝ぶりの松の木が。ん? よく見ると松葉は綿棒、枝はヘアブラシの形にすべてブロンズで鋳造してある。おや、なんでPEZキャンディーがここに? あ、干菓子ですか! 戦国時代の兜も近くで見ると掃除のハタキで作ってあったりと、トムの「見立て」に次々引き込まれる。菊の花? と顔を近づけると、実はヨーダの頭。「ヨーダは東洋の叡智の象徴だからね。少なくともアメリカの大衆文化では」とトム。
この手炉はじめ器はすべてトムの手びねり。「今や定番の《AKARI》も1950年代の発表当時は照明に紙? と衝撃的だった。トムとノグチには通底するものがある」とはキュレーターのデイカン・ハート。
彼にとって創作の原点はディアスポラ、つまり祖国を離れて暮らす国民や民族のこと。この茶室も、異文化に全身で飛び込んで、自分の中で消化しながらまったく新しいものを生み出すアプローチの結晶だ。大人も子供もワクワクさせてくれるトムの茶の湯ワンダーランド、必見です。
春のニューヨークは トム・サックス祭です!!
ブルックリンでも個展。トムのキオスクも出張します。
かつてNY文化の象徴だった大型ラジカセ、通称ブームボックスの“回顧展”も開くトム。彼のスタジオに併設する会員制キオスク(写真上)も会場に出張予定。キオスクが発行してくれるトムの署名入りスイスの偽パスポートは、買い物をする際の会員手帳。自分の顔写真・個人情報入りの精巧な品だ。会場で新規発行するかは未定。

BROOKLYN MUSEUM『Tom Sachs : Boombox Retrospective,1999-2016』

4月21日〜8月14日。18台の自作ラジカセによる巨大サウンドシステムを体験。公式サイト

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