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〈ベネッセアートサイト直島〉で三分一博志が改修した家屋〈またべえ〉にて新作展示が公開。

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June 29, 2024 | Art, Travel | casabrutus.com

家プロジェクトのある直島・本村地区で18年ぶりの新作。ヤン・へギュとアピチャポン・ウィーラセタクンが昼と夜それぞれ、同じ空間にインスタレーションを展開する。また〈ベネッセハウス ミュージアム〉でも新しい展示が公開中だ。

「Ring of Fire- ヤンの太陽&ウィーラセタクンの月」

直島の本村地区に位置する〈またべえ〉の母屋と苔庭。築100年以上の民家で、この地区の特徴である「南北に抜ける続きの間、縁側、庭」へと戻し、接客の空間として2016年に三分一博志が改修。隣に増築した離れがある。photo_Nobutada Omoto

今回、新展示が公開された直島・本村地区は空き家などを改修し、時間や記憶とともに空間そのものをアーティストが作品にする家プロジェックトが複数公開されている。ジェームズ・タレルの〈南寺〉や杉本博司の〈護王寺社〉などがあるが、今回登場した《Ring of Fire- ヤンの太陽&ウィーラセタクンの月》は、2006年の大竹伸朗による《はいしゃ》以来、このエリアでの18年ぶりの新作となる。

アーティスト2名による異例のコラボレーションは光や音、振動で五感を刺激する。その上、〈またべえ〉の日本家屋の美しさは格別だ。

ヤン・ヘギュの《Sonic Eruption Upside Down – Slender》(2024年)。赤と銀の鈴で構成され、火山を逆さまにしたような形の作品。地殻変動のデータと連動した振動と回転で、無数の鈴の音が静かに響く。photo_Takumi Kondo

ソウルとベルリンを拠点に活動するヤン・へギュとタイ出身、映画監督でアーティストのアピチャッポン・ウィーラセタクンが初めて協働制作に取り組んだインスタレーション《Ring of Fire- ヤンの太陽&ウィーラセタクンの月》。

昼はヤン・ヘギュのインスタレーションで、環太平洋火山帯の地殻変動をリアルタイムデータと連動させ、光や振動、音、回転などを通じて、大地の中の見えない動きを伝える。いつどのような動きがあるのか、毎回異なる、生きた作品だ。

アピチャッポン・ウィーラセタクンの作品は約30分の映像作品。当初は〈またべえ〉の離れで計画されていたが、難航していたところにヘギュが母屋で展示したらどうかと提案し、2人のコラボレーションが実現したという。photo_Takumi Kondo

一方、アピチャッポンは1900年から2024年まで、過去124年間の火山帯の地殻変動のアーカイブに注目。作家による長年の旅と探索の断片がコラージュ、点描や光の線に分解されて現れては消えて空間を漂う、

「クリスチャン・ボルタンスキーの《心臓音のアーカイブ》を豊島で体験した際に、自然と涙を流していました。その感動から、生と死に繋がる鼓動を地球規模に広げたらどうなるか、がアイディアの元になっています。へギュはリアルタイムの動きを、私は歴史的な記録を作品にしています」(アピチャッポン・ウィーラセタクン)

ヤン・へギュの大型の彫刻作品が室内に。映像や音、振動などによる作品が展開される。〈またべえ〉の外観。photo_Nobutada Omoto

「私も豊島のボルタンスキー作品《ささやきの森》に最も感銘を受けました。制作の引き金になった強烈な体験が2人とも同じアーティストであったことに驚かされます。美しく壮大な自然現象に対し、異なるアプローチが重なり合うことで、多様に気付き合うことができるのではないでしょうか」(ヤン・ヘギュ)

「シンガポール美術館協働企画 ベネッセ賞アーティスト作品展示」

アマンダ・ヘン《Always by my side》(2023年)。作家と母親との関係における葛藤、その関係を結び直す試みの記録写真シリーズ。1996年、2014年に撮影され、ベネッセ賞受賞を機に2023年新たに撮影を行い、3部作に。時代と共に変容した親子関係、その距離感や母親への思いが映し出される。photo Takumi Kondo

〈ベネッセハウス ミュージアム〉では、シンガポール・ビエンナーレでのベネッセ賞受賞アーティストの作品を展示する。4名の現代アーティストが空間に合わせて再構成した作品や直島の人々との協力により制作した新作は見応え十分だ。

ズル・マハムード《静粛なる抵抗宣言》(2024年)。文化が融合するシンガポールについて言及したサウンド・インスタレーション。声明文はモールス信号に、40ヘルツに落とし込まれ、振動として音として体験する。photo_Takumi Kondo (c) Courtesy by artist

ベネッセ賞は1995年に「福武書店」が社名変更したことを機に、企業理念「ベネッセ=よく生きる」の考察につながる作品制作が期待されるアーティストを顕彰、支援を意図して開始したもの。2016年からは2022年までの2回にわたり、シンガポール・ビエンナーレの参加アーティストに授与し、その受賞者の作品を紹介する展示だ。

ヤン・ヘギュ《上下反転ソル・ルウィット-1/10縮小のスチール構造》(2021年)。コンセプチュアル・アートのパイオニアであるソル・ルウィットの立方体を組み合わせた作品《Steel Structure》(1975/1976年)を1/10サイズのベネシャンブラインドに置き換えて逆さに吊るしたもの。瀬戸内の光や風によって変化する。photo_Takumi Kondo (c) Courtesy of the artist and Kukje

また〈ベネッセハウス ミュージアム〉のペインティングルームでは、主要コレクションであるジャン=ミッシェル・バスキアやサイ・トゥオンブリーなどの作品の展示替えが行われているので、そちらもお見逃しなく。

直島は2025年春には、安藤忠雄の設計による新たな〈直島新美術館〉開館を控え、同時に『瀬戸内芸術祭2025』も予定されている。ビッグニュースに向けて、盛り上がりを見せる直島に訪れる理由はたくさんあるのだ。

ヤン・ヘギュ

1971年、韓国生まれ。ドイツ・フランクフルト、シュデーデル美術大学教授。ソウルとベルリンを拠点に、髪を使ったコラージュからパフォーマンス、彫刻、大規模なインスタレーションまで、幅広いメディアに渡り、活動。2022年、第14回ベネッセ賞を受賞。

アピチャッポン・ウィーラセクタン

1970年、タイ生まれ。映画監督およびアーティスト。映画『ブンミおじさんの森』(2010年)でタイ人初となるカンヌ映画祭パルムドール最高諸王を受賞。『Memoria メモリア』(2021年)で同審査員賞を受賞。

《Ring of Fire-ヤンの太陽&ウィーラセクタンの月》

〈またべえ〉香川県香川郡直島町本村844。月〜木曜休。11時〜日没の90分前。夜は開館カレンダーを参照。鑑賞料金 昼700円、夜オンライン購入1,800円、窓口購入2,000円。夜は予約優先。

『シンガポール美術館協働企画 ベネッセ賞受賞アーティスト作品展示』

〈ベネッセハウス ミュージアム〉香川県香川郡直島町琴弾地。〜2025年1月5日。8時〜21時。無休。鑑賞料金1,300円(15歳以下、ベネッセハウス宿泊者は無料)。

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