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アート×スチームサウナ!? 栗林隆の《元気炉》が栃木県・大谷石採石場の地下空間に出現。

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June 23, 2024 | Art | a wall newspaper

薬草のスチームを浴びて体験者が元気になれる、栗林隆の作品《元気炉》プロジェクトの最新作が栃木県・大谷で稼働中です!

会場は、大谷石を切り出した採石場跡地。頭上には空と植物の緑が広がる。

栃木県の大谷石採石場跡地に出現した巨木のような作品。現代美術家・栗林隆による体験型アート《元気炉》の最新作だ。《元気炉》という名称、また“体験型”と謳われているのには明確な理由がある。じつはその奥には、薬草やハーブの蒸気が充満した空間があり、訪れた人はそこでスチームサウナのような体験をし、文字通り“元気”になることができるのだ。

20代の頃、タイで出会ったスチームサウナに魅了され、ずっと作品に使えないかと考えてきたという栗林。実際にこの作品を手がけ始めたのは、原発事故以降、長年通ってきた福島の人々との交流も影響している。

「現地の人にすごく元気をもらったんです。別にこの作品には原発を肯定しようとも反対しようともしていません。スチームで動く原発の原理を転用し、ポジティブで人が元気になる作品に昇華できないか――そう考えてできたのが《元気炉》です」

大きな釜で湯を沸かし、薬草やハーブを煮出す。地元・宇都宮エリアのブランド柚子である「宮ゆず」なども使われるという。

栗林はこの《元気炉》を日本各地の展覧会、またドイツで開かれる現代美術の祭典『ドクメンタ』でも発表してきた。ちなみに今春、この新作が誕生する前にもここ大谷で《元気炉》を披露したこともある。改めて大谷に新作を設置したのは、「前作が撤去される際に、地域の人など様々な人から作品を残してほしいという要望があって。ただ作品なので新しい場所に単純に移設してもうまくハマらず。ならばその場所に合わせ、新たに作ってしまおうと」

制作のために3ヶ月ほど現地滞在。そこで栗林が着想を得たのは、周辺に放置されていた巨大な大谷石だった。

「1×2×2メートルほどの巨石が、何十年も使われずに置かれていて、それを使ってみようと」。残念ながら撮影不可のエリアだが、木のファサードの裏側には、その巨石、また同サイズのコンテナ風のスチーム部屋が積み上げられており、今までの《元気炉》とは趣の異なる空間になっている。

廃材を再利用した構造物の断面は鏡張りに。周辺の環境を映し込んだその姿も美しい。

なおハーブは、運営スタッフが近くの畑で育てたものを使用。「地産地消。その土地のものをその土地の人が享受していくのは、理にかなったこと。そういう循環を意識し、自分たちの暮らしの足元を見つめ直すことも、今の時代、大切だと思うんです」と栗林。

現地では、「生きていない!」という文字が書かれた特製タオルもグッズとして販売する。“現代人は未来のことばかりを考えすぎている。先に未来を見据えないと不安なのかもしれない。でもそうではなく、今、この瞬間、ここにいることを自然に実感し、生きるべきでは?”というメッセージを込めたものだという。「少なくとも、ここ《元気炉》では、そのような“今、ただここにあるだけ”ということに集中してもらえたら」

敷地内には『ドクメンタ』に日本人として初めて参加した美術家・原口典之の作品も展示。

また、今回の《元気炉》があるエリアには、美術家・原口典之の作品が置かれている。入場料にはこれらの鑑賞料も含まれている。

「原口典之さんは、日本人として初めてドクメンタに参加した大先輩。ご本人とは飲み屋でベロベロの状態で会ったことがあるくらいですが、じつは息子の原口英興さんは、僕が一緒にプロジェクトをおこなってきたシネマキャラバンのメンバーのひとりなんです。2022年のドクメンタも、シネマキャラバンと一緒に参加しました。原口家とは不思議な縁があるんです」

近年のアートの世界に対し、栗林なりに思うところがあると話す。「例えば、特に90年代以降、新しい美術館をつくるとき、有名な建築家が建物を設計し、有名な外国人の作品を置くようなスタイルがずっと続いてきました。その一方で、日本人の若い作家が作品を展示できる機会はあまりない。アートの持つ力とは何か、アートに何ができるかを改めて考えながら、作家が発表する場所をどう作れるか。そろそろ僕たち自身が率先して考えていかなければいけないと思うんです」

〈大谷元気炉六号基〉

栃木県宇都宮市大谷町909-11。火曜・木曜休。9時30分〜、12時30分〜、15時〜の各2時間制。入場料1,500円、《元気炉》の体験料は別途3,500円。体験用の水着やタオルは現地でレンタル可。入場料には元気炉以外のアート鑑賞も含まれる。

栗林隆

くりばやしたかし 1968年長崎県生まれ。社会や自然、そして日常生活や身体の「境界」をテーマにした大型のインスタレーションアートを数多く手がける。2022年には5年に1度開かれる現代美術の祭典『ドクメンタ』にも参加。

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