May 17, 2024 | Architecture, Art, Travel | casabrutus.com
〈鳥取県立美術館〉が槇文彦率いる槇総合計画事務所の設計で完成しました。来年の開館を前に、建築のみどころを紹介します。
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1951年に〈神奈川県立近代美術館〉が開館して以来、各県に作られてきた県立の美術館。全国43県のうち2024年時点でそれがないのは鳥取県と鹿児島県の2県だった。そのうちのひとつ、〈鳥取県立美術館〉がいよいよ2025年3月に開館することに。手狭になった〈鳥取県立博物館〉の美術部門が独立する形だ。先ごろ完成した建物は槇文彦率いる槇総合計画事務所の設計だ。
場所は鳥取県のほぼ中央、JR倉吉駅が最寄りだ。市立図書館や複合文化施敷設・倉吉未来中心などが集まる倉吉パークスクエアの一角になる。敷地はもともと市営ラグビー場だった。隣には7世紀ごろの寺院の跡地である「大御堂廃寺跡地」があり、広々とした空間に向かって美術館が開かれる構成になる。
エントランスを入ると大きな吹き抜けに目を奪われる。開館後は2・3階の展示室に行く前に、まずここでアートが出迎える予定だ。
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さらに進むと「ひろま」と呼ばれる大空間が。自然と上のほうに視線が誘われる。大きなガラス窓の外側にあるテラス「えんがわ」を介して「大御堂廃寺跡」に続いている。
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1階は基本的に誰でも無料で入ることができる。大きなガラスは大御堂廃寺跡を包み込むように円弧を描いており、どこにいても視線がそちらに向かう仕掛けだ。
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2階には5つのコレクションギャラリーがある。ふたつのギャラリーの間にある壁をとり払って一つの大空間として使えるもの、天井高が7メートルもある開放的な展示室、国宝や重要文化財なども展示できるケースを備えた部屋など、展示するものをより引き立てる個性的な設えの展示室が揃う。
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3階の企画展示室は面積約1000平方メートルの大空間だ。天井に設えられたグリッドに沿って自由に区切ることができる。壁面の展示ケースは国宝や重要文化財の展示にも対応できる。
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3階には展望テラスもあり、アートの余韻に浸りながら大山など、鳥取の山々の景色を楽しめる。大きな丸い天窓にはテントのようなドーム状の構造物があり、柔らかい光が降ってくる。砂丘のイメージが強いが意外に雨の多い鳥取で、天気に左右されないエリアとしてさまざまに使える。
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展望テラスの手すりは格子のようなデザイン。日本の伝統建築のボキャブラリーを採用した。上部の四辺形が大きく抜かれ、座ったときにも山並みがきれいに見える。この3階テラスから外部階段を使って2階のテラスへ降りられる。
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槇総合計画事務所の亀本ゲーリーは次のように語る。
「県立美術館というとかしこまって見えるかもしれませんが、私は“コミュニティ・カルチュラル・センター”と考えてもらうといいのでは、と思っています。自分の家の延長のようなスペースです。『ひろま』『えんがわ』など、伝統的な日本家屋に使われる言葉をつけたのもそのためです」
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亀本は長年暮らしたアメリカで、美術館でダンスパフォーマンスや結婚式が行われるのを見てきた。この美術館もそんな体験を思い起こしながら設計したという。
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〈鳥取県立美術館〉では〈鳥取県立博物館〉の美術部門が50年近い年月をかけて集めたものを核として引き続き、幅広く収集を続け、アンディ・ウォーホル、曾我蕭白、ギュスターヴ・クールベ、舟越桂など1万点以上の作品を所蔵している。なかでも前田寛治や辻晉堂ら鳥取県出身の作家の作品は今後も積極的に収集していく方針だ。館長の尾﨑信一郎は「収集は20年、30年の仕事です。長い時間をかけて方向性を出していければ」という。
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美術館では「OPENNESS!」(オープンネス)というブランドワードを理念としている。開放的な建築というだけでなく、さまざまな価値観や新しい考えに対して開かれた美術館だ。
「暗くていかめしい場所ではなく、明るくて開口部も大きい、敷居の低い美術館を目指しています」(尾﨑)
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来春開かれる開館記念展は『アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術―伊藤からモネ、リヒターへ』と題されたもの。〈鳥取県立美術館〉のコレクションだけでなく、日本中の美術館からこの展覧会のために名品を集めるという。リアルというと写実を思い浮かべるが、シュルレアリスムやキュビスムもそれぞれの方法論で現実を描き出したものだ。
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「若い頃から美術に触れることが大切」「と尾﨑館長はいう。その考えから、子どもから大人までワークショップなどを通じて美術館に関わってもらうことを構想している。開館までの間はアートが入る前の美術館を見学できる建築見学ツアーも開かれる予定だ。端正かつ開放的な建築でアートを見るのが待ち遠しい。