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【独占】KYNE初の大規模個展はなぜ〈福岡市美術館〉なのか?

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May 2, 2024 | Art, Culture, Design | casabrutus.com

ホームタウンの福岡をベースに制作活動を続けるKYNEが、国内初となる大規模個展『ADAPTATION』を〈福岡市美術館〉で開催中。これまでのキャリアからアートや福岡への想いまで、KYNEのインタビューを交えた展覧会の独占レポートです!

イントロダクションスペースでは新作のペインティングが出迎える。

モノクロを基調としたシンプルな線画の中にどこかノスタルジックな空気が漂うKYNEの作品。国内外に多くのファンを持つ彼が日本初の大規模個展の舞台として選んだのは生まれ故郷であり、活動拠点を置く福岡だ。

2017年から2022年までの平面絵画を展示したzone1。美術館所有のガラスの展示ケースに絵画作品を1点ずつ陳列。その合間からはこちらにまっすぐに視線を向ける女性と目が合う。
村上隆とコラボレーションした作品も登場。

KYNEは美大時代に身につけた日本画の表現方法と1980年代の大衆文化、ストリートカルチャーをミックスした作風で知られている。知名度を上げたのは福岡の街中に突如現れた、クールな眼差しを携える女性のステッカーだった。

zone2には通常ストックとして使われている空間も含まれる。ここには原点ともいえるステッカーを元にした絵画作品を。
作品を輸送する際に貼付しているというオリジナルステッカーも作品に。

「グラフィティの世界では限られた面積、短い時間の中で最大のインパクトを与えるという側面があります。そういった条件に適応するにはステッカーボムは効率がよかったんです。また、強い印象を残すため、顔をトリミングし、色や線を絞った結果、今の作風が確立されました。その後もキャンバスや彫刻、壁画といったサイズや場所のフォーマットに適応しながら自分のスタイルを拡張してきた感覚があり、《アダプテーション》という言葉を展示タイトルにすることにしました」

zone3では2010年頃から近年までのドローイングを初披露。

展示空間で感じるのもその適応力だ。会場デザインは福岡と東京で活動するケース・リアルの二俣公一に依頼。KYNEが運営に関わるギャラリー〈cassette〉の設計も手掛けるなど親交があった。今回は市の美術館というオーソドックスな作りや既存の備品を活かしながら、ストリート出身らしいKYNEの偶然性を面白がる姿勢を大事にした。

街に開かれた公園のようなスペースをイメージしたというzone4。
新作の彫像は3Dプリンターで制作。〈福岡市美術館〉にある佐藤忠良の彫刻へのオマージュも込めた。

全体を5つのゾーンに分け構成。過去の絵画作品が並ぶzone1には美術館が所有するガラスの展示ケースを利用。立体作品を陳列するケースにあえて平面の作品を入れることでキャンバスの裏面や側面の筆致を可視化した。また、zone2では倉庫として使われている場も活用し、仮設用のポールに絵を掛けた。工事用の照明が照らす空間は、まるで高架下のような雰囲気が漂う。さらに進んだ先のzone4には女性が横たわる巨大な壁面ペインティングが描かれている。

「2020年に〈福岡市美術館〉の壁に絵を描いたことが今回の展覧会に繋がったので、壁画は今回も挑戦したいなと。4×12mというサイズが決まっていたので、それに合わせて構図を考えました」

KYNE独特のカラースキームにも注目したい。
zone5の新作絵画の前には天童木工のために二俣がデザインした《SAND》があり、座ってゆっくり眺められる。

展示を締めくくるzone5には新作絵画群が。これまでの作品にはあまりなかった女性の全身像や背景を描きこんだ作品が並ぶ。

「作品サイズが大きくなるにつれ、引きの絵も描くようになり、絵画的な手法にも挑戦しています。背景に用いた階段は原始的な構造且つ普遍的なモチーフ。限られた色調の中で、奥行きや上下の関係を表現できる点が良くて」

オリジナルグッズが買えるショップは展示室外ではなく室内に入れ子状にレイアウト。作品制作と同じ熱量で商品開発に取り組むKYNEの姿勢が表れている。
ショップ内の壁には地元の銘菓『博多通りもん』とのコラボレーション用に描き下ろした絵画が。

こうして過去から現在までの作品を辿って見ていくと、作品名のほぼ全てが《Untitled》だと気づく。

「グラフィティは作品名どころか作者名も明かされないことがほとんど。情報がない状態で発信する方がおもしろいなと。また、作品の中に物語は必要ないとも思う。自分には福岡で活動してきて出会えた人や得られた経験があって、その結果を作品にも投影している。つまり、深読みしたり、ストーリーを想像しなくても成立する。観る側も、絵を絵として純粋に楽しんでもらえたら嬉しいです」

『ADAPTATION-KYNE』

約1200平米の展示空間に新作の巨大壁画を含む絵画や版画、立体、ドローイングなど約150点を公開。オリジナルグッズも必見。〈福岡市美術館〉福岡県福岡市中央区大濠公園1-6。TEL 092 714 6051。〜2024年6月30日。9時半〜17時半(入館は閉館の30分前まで)。月曜休館。一般 1,700円。

KYNE

1988年福岡生まれ。大学時代に日本画を学び、2006年頃から福岡で活動。クールな表情の女性の画風で知られ、アパレルブランドのコラボレーションなどを通じて国内外で大きな注目を集める。2020年〜2022年には福岡市美術館に壁画作品を描き、話題に。香港など海外での展示も積極的に行う。

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