May 2, 2024 | Art, Culture, Design | casabrutus.com
ホームタウンの福岡をベースに制作活動を続けるKYNEが、国内初となる大規模個展『ADAPTATION』を〈福岡市美術館〉で開催中。これまでのキャリアからアートや福岡への想いまで、KYNEのインタビューを交えた展覧会の独占レポートです!
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モノクロを基調としたシンプルな線画の中にどこかノスタルジックな空気が漂うKYNEの作品。国内外に多くのファンを持つ彼が日本初の大規模個展の舞台として選んだのは生まれ故郷であり、活動拠点を置く福岡だ。
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KYNEは美大時代に身につけた日本画の表現方法と1980年代の大衆文化、ストリートカルチャーをミックスした作風で知られている。知名度を上げたのは福岡の街中に突如現れた、クールな眼差しを携える女性のステッカーだった。
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「グラフィティの世界では限られた面積、短い時間の中で最大のインパクトを与えるという側面があります。そういった条件に適応するにはステッカーボムは効率がよかったんです。また、強い印象を残すため、顔をトリミングし、色や線を絞った結果、今の作風が確立されました。その後もキャンバスや彫刻、壁画といったサイズや場所のフォーマットに適応しながら自分のスタイルを拡張してきた感覚があり、《アダプテーション》という言葉を展示タイトルにすることにしました」
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展示空間で感じるのもその適応力だ。会場デザインは福岡と東京で活動するケース・リアルの二俣公一に依頼。KYNEが運営に関わるギャラリー〈cassette〉の設計も手掛けるなど親交があった。今回は市の美術館というオーソドックスな作りや既存の備品を活かしながら、ストリート出身らしいKYNEの偶然性を面白がる姿勢を大事にした。
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全体を5つのゾーンに分け構成。過去の絵画作品が並ぶzone1には美術館が所有するガラスの展示ケースを利用。立体作品を陳列するケースにあえて平面の作品を入れることでキャンバスの裏面や側面の筆致を可視化した。また、zone2では倉庫として使われている場も活用し、仮設用のポールに絵を掛けた。工事用の照明が照らす空間は、まるで高架下のような雰囲気が漂う。さらに進んだ先のzone4には女性が横たわる巨大な壁面ペインティングが描かれている。
「2020年に〈福岡市美術館〉の壁に絵を描いたことが今回の展覧会に繋がったので、壁画は今回も挑戦したいなと。4×12mというサイズが決まっていたので、それに合わせて構図を考えました」
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展示を締めくくるzone5には新作絵画群が。これまでの作品にはあまりなかった女性の全身像や背景を描きこんだ作品が並ぶ。
「作品サイズが大きくなるにつれ、引きの絵も描くようになり、絵画的な手法にも挑戦しています。背景に用いた階段は原始的な構造且つ普遍的なモチーフ。限られた色調の中で、奥行きや上下の関係を表現できる点が良くて」
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こうして過去から現在までの作品を辿って見ていくと、作品名のほぼ全てが《Untitled》だと気づく。
「グラフィティは作品名どころか作者名も明かされないことがほとんど。情報がない状態で発信する方がおもしろいなと。また、作品の中に物語は必要ないとも思う。自分には福岡で活動してきて出会えた人や得られた経験があって、その結果を作品にも投影している。つまり、深読みしたり、ストーリーを想像しなくても成立する。観る側も、絵を絵として純粋に楽しんでもらえたら嬉しいです」