March 9, 2024 | Design, Food | KASHIYUKA’s Shop of Japanese Arts and Crafts
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは福井県の小浜市。若狭湾に臨む町の工房で、果てしない手間をかけて作られる塗りの箸と出会いました。
キラキラ輝く装飾と高貴な雰囲気から「宝石塗」とも呼ばれる塗り物があります。福井県小浜市の若狭塗は、貝殻や卵の殻、松の葉で模様をつける伝統工芸品。江戸時代初期、若狭湾近くに領地を持つ小浜藩の御用職人が、海底の景色をモチーフにした漆器を作ったのが起源だそうです。やがて武士の内職として藩の下で発展。当初は高級品でしたが、水や熱に強いことから、この塗りを施した「若狭塗箸」が日用品としても広まりました。
さて、そんな若狭塗を作り続けているのが、〈加福漆器店〉4代目の伝統工芸士、加福宗徳さん。
「若狭塗は分業ではなく、20以上の工程を一人の職人が行います」
まず下地となる木地に漆を塗り、貝や卵殻で模様をつける。その上から何重にも漆を塗る。乾かしたら、表面の漆を石や炭で研ぐことで模様を浮かび上がらせ、さらに漆を塗って研いで磨いて……を繰り返す。果てしない手仕事です。
さっそく拝見したのは、角箸の4面に貝殻で模様をつけるところ。
「アワビの貝殻を細かくしたものを、一つ一つ貼り付けます。一気に蒔けば効率的なのでしょうが、角っこの部分につかなかったり、薄い貝が重なったりしてきれいにいかない。伝統のやり方を守ることが大事なんです」
実はアワビの貝を削って使えるようにしてくれる職人さんが年々減っているそう。守りたいものは技術のほかにもたくさんあることが、お話から伝わってきます。
続けて丸盆の「研ぎ出し」も見学。卵殻の模様の上に赤漆、黒漆と重ねたところを、粗い石でゴリゴリと研ぎ始めます。しばらくすると赤漆が現れ、さらに卵殻の白い粒模様が浮かび上がりました。
「地道だけれど、楽しい作業ではあるんです。自分でつけた模様がイメージ通りに出てきているか、この時に初めて見えてくるから。何色かの漆を重ねておけばカラフルな模様ができるし、貝や卵殻の色だけを生かすこともできます」
それならクリーム色の白漆に白い貝で古典柄をつけたらかわいいだろうなあ……とお伝えすると、「昔から続けてきたものをかわいいと言ってもらえるのは、意外だけれどうれしい。伝統技法は守りつつ、使う人の意見も取り入れて、新しい表現をしていきたいですね」。
今回買い付けたお箸は、貝殻と卵殻と金箔で模様をつけたもの。品がよくてモダンなかわいさもある、「毎日使える宝石塗」です。