March 2, 2024 | Architecture | casabrutus.com
その気候や風土の影響、さらに戦後コンクリートが広く普及した経緯などから、独自の発展を遂げてきた沖縄の建築群。モダニズム建築の名作から、近年完成した市庁舎まで、見逃せない沖縄の名建築7選を紹介します。
・〈カトリック与那原教会(聖クララ教会)〉片岡献+SOM(1958年)
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戦後の復興を願う、光に満ちた祈りの空間。
沖縄本島南部、与那原(よなばる)町の高台に建てられたカトリック教会。美しいステンドグラスの礼拝堂はその歴史的な価値も認められ、DOCOMOMO Japanによる「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」の1つに選定されている。
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戦後間もなく来島した宣教師たちにより、修道院(非公開)を併せ持つカトリック教会が計画された。設計は在日米軍の建設部に所属していた日系人建築家・片山献で、シカゴを拠点とする設計事務所SOMの指導があったされている。現在のSOMは〈東京ミッドタウン〉など、日本でも高層建築を数多く手がける世界有数の大手設計事務所だ。
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低く抑えられたエントランスから、中庭に巡らされた回廊を通って、光の礼拝堂へと導かれるのにも、心動かされる。また平屋根の屋上は雨水が地下の貯水槽に集められる構造にもなっていて、それが生活用水に利用されるのも環境に配慮した先進的な仕組みだ。
カトリック与那原教会(聖クララ教会)
沖縄県与那原町与那原3090-5・〈沖縄県平和祈念資料館〉福村俊治 + team DREAM(1999年)
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沖縄戦を伝え、未来の夢や希望を願う「平和の形」。
壮絶さを極めた沖縄戦終焉の地に建つ、住民からの証言をもとにした沖縄戦の展示で平和を考えるための資料館。旧資料館の建て替えで設計され、沖縄戦で亡くなられた国内外24万人余の名前が刻まれる〈平和の礎(いしじ)〉を取り囲むように配置され、集落のような風景が作られている。
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建物の外側の柱廊、敷石や植栽のある中庭、エントランスホール前の広いピロティ、石畳のスロープなど、伝統的な沖縄建築を新しい形で再現している。内部はモダンで、柱が並ぶ湾曲した長いホールが印象的。北側に展示室や多目的ホールが連なる。
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2階にある常設展示室には沖縄戦の実相と悲惨さが克明に記される。その先に大きな海と空に開かれた〈海と礎の回廊〉があり、また展望台からも〈平和祈念公園〉全体と太平洋が一望できる。歴史に向き合い、平和について考えるための空間だ。
沖縄県平和祈念資料館
沖縄県糸満市摩文仁614-1 TEL 098 997 3844。9時〜17時。年末年始休。常設展示室観覧料300円。・〈石垣市役所〉隈研吾建築都市設計事務所・洲鎌設計室(2021年)
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石垣の伝統的な集落をイメージした、隈研吾にとって沖縄初の建築。
旧市役所が津波による危険性のある立地であったことから、2021年に移転された〈石垣市役所〉。設計を担ったのは、これが沖縄では初のプロジェクトとなった隈研吾だ。石垣島を拠点とする洲鎌設計室と共に手がけている。
目をひく漆喰の赤瓦は、石垣島の伝統的な集落を再現したもの。失われつつあるという、この漆喰の赤瓦を使用していることに、土地の歴史への敬意が見える。
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石垣島の集落が、十字路を中心にして家が立ち並ぶことで景観やコミュニティを形成していたことに着想を得て、施設の中心に東西と南北に伸びる十字の軸を設けて空間をデザインした。室内は1〜3階の開放感ある吹き抜け空間となっており、随所にあしらわれたリュウキュウマツもあいまって、住民を温かく出迎える。
このエリアは空港の跡地であり、近くには病院や消防署も位置する。四方のどこからでもアクセス可能な作りとしているのは、建物の外と中を明確に区別せず、人々のゆるやかな流れを作り出すことにある。
伝統へ敬意を払いながら未来へと繋ぐ、新たな交流の場となっている。
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石垣市役所
沖縄県石垣市真栄里672。8時30分〜17時15分。土曜・日曜休。・〈石垣市民会館〉前川國男(1986年)
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八重山の文化を伝える、前川國男のモダニズム建築。
沖縄唯一の前川建築で、最晩年に手がけた作品だ。前川國男(1905-1986)はル・コルビュジエに師事し、戦前・戦後の日本の近代建築に大きな影響を与えた建築家である。
〈石垣市民会館〉は「詩の国、歌の島、踊りの里」といわれる八重山諸島の文化拠点として、市民の強い要望により完成した建物だ。大ホールと別棟になった中ホールがあり、その間を渡り廊下がつないでいる。
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外壁の赤煉瓦の打ち込みタイルとコンクリートは、前川の代表的な作風だが、沖縄の伝統的な建築にも馴染み深い。
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沖縄の気候風土にあわせて、渡り廊下やエントランス部分にパーゴラがあり、半屋外のピロティ空間となっている。外壁のコンクリートの壁には装飾が施され、穴あきブロックやガジュマルの植栽など、南国らしさも感じられる。
石垣市民会館
沖縄県石垣市浜崎町1-1-2 TEL 0980 82 1515。9時〜22時。月曜・火曜・年末年始休。・〈沖縄県庁行政棟〉黒川紀章(1990年)
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沖縄の伝統と現代建築が融合した、自然と共生するポストモダン建築。
国際通りの入り口にあることからよく見るけれど、県民でも意外と中に入ったことがないという〈沖縄県庁舎行政棟〉。設計を担当した黒川紀章(1934-2007年)は丹下健三に師事し、〈国立新美術館〉や〈国立民族学博物館〉のほか、国内外で多数の建築を手がけ、都市計画にも積極的に携わった。
大きな長方形をずらしたように配置された2棟の事務所棟が、中央2ヶ所のエレベーターで繋がる構成だ。「雁行する形態は、西洋の対称性軸といった秩序感覚に対して、より日本的、伝統的な秩序感覚なのである」(黒川)という。
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地域性や文化的伝統の表現も各所に見られる。正面玄関のシーサーのほか、コミュニティ道路に面する外壁には〈首里城〉外壁の引用、南側の庭園には〈首里城〉正面の階段が反転してつくられ、植栽にもデイゴなど伝統的な風景を構成する種を選択。3層になったファサードは下部の自然に近い素材から、上部の工業化された素材へと変化することで歴史と未来の共生が暗示されている。
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さらに文化や伝統の記号的引用は室内にも。1階〈県民ホール〉の床には、読谷山花織(よみたんざんはなおり)のパターンがタイルで構成され、客用エレベーターの扉には伝統的な琉球絣(かすり)のパターンをエッチング。床材は八重山や宮古の素材などが使用されている。応接室などには、芭蕉布や琉球絣、琉球漆や琉球ガラスなどの工芸の伝統が表現されているそうだ。
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2つの事務棟が繋がる部分の6階に庭園があり、その上は吹き抜けになっていて、より動きのある風景が作り出されている。様々に試みられている「共生」を改めて見直したい。
沖縄県庁行政棟
沖縄県那覇市泉崎1-2-2 TEL 098 866 2333。8時30分〜17時15分。土曜・日曜休。・〈浦添市図書館〉内井昭蔵(1985年)
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市民に愛され大切にされている、心地いい図書館。
優しい光に包まれた閲覧室は、その豊かな空間がどこか北欧の雰囲気をも漂わせる。浦添市の文化ゾーンの一角に建つ図書館で、県内初の市立図書館として計画されたものだ。建築家の内井昭蔵(1933-2002)は菊竹清訓建築設計事務所出身、代表作に〈世田谷美術館〉(1986年)や皇居・吹上御所(1993年)などがある。同じエリアに内井が設計した〈浦添市美術館〉(1991年)があり、11もの塔が立ち並ぶ回廊で繋がれた建築が注目されているが、この図書館は意外と知られていない。
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中庭とエントランスには、沖縄の住宅建築で見られる深く庇が出た部分を指す「雨端(あまはじ)」や、目隠しや魔除けの役割を持つ塀「ヒンプン」が取り入れられている。住宅がすべての建築の原点と考えていた内井は、図書館を住宅の延長線上におき、沖縄の民家が持つスケールや伝統的な要素を設計に盛り込んでいる。また室内は、書斎の延長のような、長くとどまりたくなるような図書室を目指したという。
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2019年に、「25年以上の長きにわたり、建築の存在価値を発揮し、美しく維持され、地域社会に貢献してきた建築」を登録・顕彰する『JIA(日本建築家協会)25年賞』を受賞している。
浦添市図書館
沖縄県浦添市安波茶2-2-1 TEL 098 876 4946。9時30分〜19時。月曜・祝日休(そのほか資料整理のための休日あり)。・〈那覇市立城西小学校〉原広司+アトリエ・ファイ建築研究所(1987〜2018年)
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35年かけて完成した、集落としての小学校。
〈首里城〉の一角、守礼門の横に赤瓦の町のような建物がある。実は小学校で、〈首里城公園〉と連続するようなランドスケープを計画したものだ。老朽化のための改築で、1983年に設計が始まり、1987年に30の教室、図書室、職員室、給食室など、2003年に特別教室、2018年に屋内運動場、幼稚園、児童クラブの改築が行われた。
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赤瓦の建物は教室。ひとつの教室がひとつの屋根を持っていて、それを取り囲むように中庭に植栽や吹き抜けが設けられている。この同じ場所にかつて集落があり、それを写した50年前の写真が参考になったという。沖縄の気候を考え、日陰ができ、風が通るオープンプランに。それぞれの家が異なるように、各教室の天井は少しずつ異なる形になっている。
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35年の時間を引き継いだ2018年の改築は、最初の理念や目標に従いつつ、自然の中の色に彩られた現代的な空間となっている。多様な空間と風景が、子供たちの豊かな心を育んでくれるだろう。
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