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「奥能登国際芸術祭」開催地の珠洲市を支援する「奥能登珠洲ヤッサープロジェクト」がスタート。

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February 29, 2024 | Art, Travel | casabrutus.com

2024年1月1日、強い地震に見舞われた石川県の能登半島。「奥能登国際芸術祭」の開催地である珠洲(すず)市も大きな被害を受けました。支援のため、芸術祭ディレクターの北川フラムらが「奥能登珠洲ヤッサープロジェクト」を立ち上げています。珠洲に心を寄せる人たちが集まるプラットフォームです。

2024年1月の地震で被災した牛嶋均の《松雲海風艀雲》(2023年より常設)。

2017年、2021年、2023年と開かれてきた「奥能登国際芸術祭」。2023年の芸術祭は同年5月5日に発生した地震の影響で会期を3週間遅らせて開催された。が、2024年1月1日の地震はそれをはるかに上回る規模のもの。人的、建物の被害は甚大だ。

2023年5月、2024年1月のどちらも震源は芸術祭開催地の珠洲市だった。石川県は能登半島の先端に位置する珠洲市から福井県に近い加賀まで南北に細長く、陸上交通の便がいいとはいえない珠洲市は「さいはての地」といえる。

が、水上交通が主要な移動手段だった江戸時代以前には北前船などの寄港地として、また大陸からの文化や物資が真っ先に入ってくる最先端の地として栄えた。「奥能登国際芸術祭」が「さいはての芸術祭」とうたっているのは、「さいはてだけれど最先端」という思いもこめられている。

能登半島では里山が海に迫り、その海も半島の南北で外浦・内浦と分かれてそれぞれに個性的な景色や生き物の暮らしを育む(2023年7月撮影)。photo_Takeshi Shinto

その芸術祭で制作された常設作品のいくつかも破損した。地震の揺れで倒壊してしまったもの、芸術祭関連施設が津波の被害にあったり、見ていて心の痛む光景だ。が、その中で無事だった作品もある。小舟に赤い糸が無数に絡む塩田千春の《時を運ぶ船》は芸術祭のシンボル的存在だ。本誌『カーサ ブルータス』2023年10月号の特集『アートを巡る秋の旅。』で平手友梨奈とともに表紙を飾った作品だ。

『カーサ ブルータス』2023年10月号の表紙となった塩田千春の《時を運ぶ船》(2017年より常設)。平手友梨奈にとっても最も印象的な作品だったという。photo_Takeshi Shinto (c)JASPAR,Tokyo,2024 and Chiharu Shiota
本誌特集と連動したムービー『奥能登のアートを巡る平手友梨奈の旅。』。「奥能登国際芸術祭」の作品とともに珠洲の美しい風景が記録されている。movie_Kai Tada

さらに、廃線になったのと鉄道能登線の旧飯田駅に設置された河口龍夫や大岩オスカールの常設作品、海辺の公園で海を見つめるN. S. ハーシャのキリンの立体作品なども損傷を受けずに済んだという。

上戸エリアの公園に設置されているN.S.ハーシャの《なぜここにいるのだろう》(2023年より常設。撮影:岡村喜知郎)。

「奥能登珠洲ヤッサープロジェクト」はこの珠洲に心を寄せる人々の思いをひとつにするプラットフォームだ。アート作品だけでなく、人々の心と暮らしの復興に向けてできることは何かを探ろうとしている。プロジェクトを立ち上げた「奥能登国際芸術祭」のディレクター、北川フラムは「奥能登珠洲ヤッサープロジェクト」のサイトに次のようなメッセージを寄せた。

「一旦は奥能登珠洲を離れなければならない人が珠洲に戻り、暮らしの回復ができて、はじめて本当の復興と言えます。道路や住宅といったハード面の整備とともに、食事や団らんなど交流の場の回復も重要です。そのためには、珠洲に思いを寄せる人たちの結びつきが力になります」

『奥能登国際芸術祭2023』では約5万人の人々が珠洲市を訪れた。来場者はアートを鑑賞するだけでなく、奥能登の食と景色を楽しみ、場所の歴史に思いをはせる。恒久設置作品のひとつである〈スズ・シアター・ミュージアム〉に並ぶみごとな漆器などの生活道具に触れ、これまでの人々の暮らしを想像した人も多いはずだ。2023年には坂 茂の設計で地元の食が味わえる〈潮騒レストラン〉もオープンしたばかりだった。

〈スズ・シアター・ミュージアム〉は珠洲の家々に眠っていた生活道具1500点以上を収集して資料化している劇場型民族博物館。今回の地震で、作品の転倒や民具の破損が確認された。photo_Takeshi Shinto

能登半島には「能登はやさしや土までも」という言葉がある。その言葉通り人々のやさしさ、暖かいもてなしに心打たれた人もいるだろう。芸術祭では作品を通じてアーティストと鑑賞者がつながるだけでなく、足を運ぶ人と地元の人々との交流も生まれる。それも芸術祭の役割のひとつだ。

「能登はやさしや土までも」という言葉を実際に作品化したのが、2023年に公開された栗田宏一による《能登はやさしや土までも》だ。旧タクシー営業所の2階に石川県の地図を描き、その土地の土を配置していった。 photo_Takeshi Shinto

「奥能登珠洲ヤッサープロジェクト」では珠洲市の現状を発信し、地元のニーズに応じた支援活動を行う。ボランティアのコーディネートや、復興に必要な事業の立ち上げも行う。また、これらの支援活動のために基金も設立した。復興には長い時間がかかることが見込まれる。諦めることなく少しずつでも前に進めるよう、心を寄せていきたい。

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奥能登珠洲ヤッサープロジェクト

「奥能登国際芸術祭」の総合ディレクターである北川フラムを中心に結成。プロジェクトの公式サイトでは、被災後の常設アート作品の点検情報や、詳細な活動報告が随時更新されている。また「奥能登珠洲ヤッサー基金」で寄付も募っている。

北川フラム

きたがわ ふらむ 東京藝術大学美術学部卒業。アートフロントギャラリー主宰。米軍基地跡をアートの街に変えた「ファーレ立川」アートプロジェクト企画のほか、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』(2000年~)、『瀬戸内国際芸術祭』(2010年~)など多くの芸術祭の総合ディレクターを務める。著書に『ひらく美術 地域と人間のつながりを取り戻す』(ちくま新書、2015年)『越後妻有里山美術紀行 大地の芸術祭をめぐるアートの旅』(現代企画室、2023年)など。

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