January 13, 2024 | Art, Design | casabrutus.com
機械の美を愛でる。今から100年前に生まれたトレンド「マシン・エイジ」をテーマにした展覧会が箱根の〈ポーラ美術館〉で開かれています。機械と人間の出合いのさまざまな様相を表現するデザインやアートが並びます。
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今から約100年前。1920年代、急激に工業化が進んだパリでは機械の美を讃える「マシン・エイジ」と呼ばれる時代を迎える。1850年代以降、蒸気機関車で旅に出る人が増え、第一次世界大戦後には馬車にかわって自動車が普及し、飛行機産業も発展した。それまでにないスピードで人や荷物を運ぶのりものや蓄音機といった機械に人々は夢中になる。
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その中のひとりが彫刻家のコンスタンティン・ブランクーシだ。マルセル・デュシャン、フェルナン・レジェと一緒に航空機の展示会に出かけた彼は、プロペラの流線型の虜になってしまった。1920年代に制作された「空間の鳥」シリーズは空気を切って飛ぶ飛行機の翼やプロペラを思わせる。この作品を個展の際、アメリカに送ったところ、無税の芸術作品ではなく機械部品とみなされて課税されたという“事件”もあった。後に裁判でブランクーシは勝訴し、無事に税金を取り戻している。会場には実際の機械部品も並んで、その美を競う。
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第一次世界大戦に従軍したフェルナン・レジェは太陽光を反射してきらめく大砲の砲身に美を見出した。彼は「マシン・エイジの芸術家」を自認し、《鏡を持つ女性》を始めとする工業製品のパーツを組み合わせたような絵画を描いている。鏡に見入る女性はティツィアーノやベラスケスら多くの画家が描いた古典的なモチーフだ。20世紀の女性も同じ仕草をしているけれど、その姿はかつての女性とは異なる「マシン・エイジのミューズ」だ。
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ブランクーシ同様に飛行機に魅せられたロベール・ドローネーの絵には回転するプロペラを思わせる円盤が頻出する。彼は1937年のパリ万博で航空館と鉄道館の壁画を担当した。展示室ではドローネーの作品と蓄音機が取り合わされている。レコードと相似形をなすドローネーの円盤に着目したものだ。写真や映画と同様に、レコードという複製技術が芸術とみなされるようになった時代背景に言及している。
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「マシン・エイジ」はアール・デコの時代でもある。その前の「アール・ヌーヴォー」が虫や植物から引用した有機的な曲線に彩られていたのに対し、通称「アール・デコ博」とも言われた1925年の『パリ現代産業装飾芸術国際博覧会』では幾何学的な建築や装飾が来場者を魅了した。
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ルネ・ラリックの香水瓶は型抜きガラスで量産されたもの。このやり方なら大きな建物や客船にたくさん取り付けられるシャンデリアなどにも対応できる。同じころ、バウハウスのデザイナーやル・コルビュジエも量産家具のデザインを進めていた。それらは「アール・デコ」とは違うテイストだが、こちらも機械化に対する応答の一つといえる。
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杉浦非水は日本のグラフィックデザイン、とくに広告デザインの先駆的存在だ。1910年代から活躍し、とくに三越百貨店のポスターで注目を集めた。「三越の非水、非水の三越」ともいわれたほどだ。彼は1923年にヨーロッパに遊学し、帰国後はアール・デコのエッセンスをとり入れたデザインを手がける。《ポスター「東洋唯一の地下鉄道」》では主役であるはずの地下鉄が、やや極端なパースで遠くに描かれる。最新鋭の地下鉄が新しい時代を連れてくる、そんな期待感に満ちている。
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1927年、フリッツ・ラング監督の映画「メトロポリス」が封切られたことなどをきっかけに日本ではロボット・ブームが巻き起こる。写真だけで紹介された西洋のロボットはどんなふうに動くのか、人々の関心を集めた。古賀春江の《現実線を切る主智的表情》はマシンガンを構える女性と馬に乗るロボットという、ちょっとチグハグな情景を描いたもの。映画という複製芸術が絵画に影響を及ぼした一例でもある。
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展覧会の最後には"21世紀のマシン・エイジ"にふさわしい現代のアーティストが登場する。ラファエル・ローゼンダールの作品はインターネット上でユーザーが画面をクリックするとそれに応じて色面が分割されていくというもの。ムニール・ファトゥミの映像作品はたくさんの歯車が回転するように見えるが、よく見るとそれらはアラビア文字のカリグラフィーでできている。偶像が厳しく禁じられているため文字で美しく装飾されているイスラム教の書物や建物を思わせる。"セクシー・ロボット"で知られる空山基の近作は彼が描くロボットを立体化したもの。宇宙空間を漂うロボットなのか、コールド・スリープから目覚めたところなのか、SF的な光景が広がる。
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産業革命以降、機械は私たちの暮らしや経済を大きく変えてきた。そして今、かつての産業革命に匹敵するといわれるデジタル化が産業革命以上に世界を変えている。これまで起こったことを振り返りながら、これから何が起きるのかを想像してみたい。