December 23, 2016 | Vehicle, Architecture, Art | Driven By Design | photo_Tatsuya Mine
text_Hiroki Iijima
大山を望む最高のロケーションにそびえ立つのは、故郷山陰を舞台に活躍した写真家・植田正治の美術館。日本で蘇ったアバルトで、贅沢な空間を体感しに行きました。
1995年に開館した植田正治写真美術館。建築家の高松伸、主役の植田正治ともに高名ゆえ、この施設のことも本やネットの情報で知ったつもりになっている読者も多いだろう。しかし実際に訪れると発見があるもので、今回はまるで新築のような建物の表情に一瞬目を疑った。聞けば2015年の夏、外壁に大々的なクリーニングを施したという。周りの田園風景と輝く白壁とのコントラストが実に強い。
この館はバブル経済全盛期に構想され、それが急速に冷え込んだころに竣工した。それから20年を経た今、真っさらに近い形で向き合ってみると、バブル時代を冷静に見直すことができる。4つのキューブと大きく湾曲したバックヤードの壁とを組み合わせた建物が当時斬新だったのは疑いようもないが、館内の魅力的な空間づくりは今なお変わらぬ価値をたたえている。各所のしつらえはシンプルでモダンに徹し、どの空間にも余裕がたっぷり与えられている。それが植田作品のスケール感をさらに増し、同時に静かな余韻をもたらす。伯耆富士、大山を借景にしたというが、これは名峰を丸ごと独り占めにしていると言っても過言ではない。たった一人の写真家のためにこれほどの立地と建物を差し出す贅沢。当時の時代性抜きには考えられないだろう。
キリッとした直線と緩やかな曲面のバランスが見事。
映像展示室自体が暗箱(カメラ・オブスキュア)と化し、外の風景が壁面に逆さに映し出される。メイン写真いちばん左の建物の穴に巨大レンズが設置されている。
写真展示室と逆さ大山を望む窓が交互に並ぶ。
1972年の元祖アバルト124の顔つきが蘇るフェイス。約8km離れた大山を背に。
アバルト124スパイダーはマツダとフィアットとのコラボによるクルマだ。124は60年代にデビューしたフィアット124からの引用で、アバルトがそれをさらにチューンナップした。エンジンと外皮以外はほとんどマツダ・ロードスターそのものと考えてよく、実は日本国内のマツダの工場でつくられている。それでもイタリアンな感覚がちゃんと備わっていて、排気音にも走りっぷりにもこってりしたリッチさが加わった仕上がりになっている。
往年の124スパイダーはFR(後輪駆動)だった。その後、イタリア車の大半がFF(前輪駆動)になってからもう30年以上たつ。FRのマツダ・ロードスターは既に4世代目を数え、日本の自動車界の宝というべき好ハンドリング車だ。今回のコラボを最も喜んでいるのは、我々よりイタリアのクルマ好きたちのほうかもしれない。
内装もイタリアンデザインにしてほしかった。
巡礼車:アバルト124スパイダー
こちらは1.4リッターのターボ、マツダは1.5リッターの自然吸気エンジンを搭載しているのが両者のいちばん大きな違い。アバルトのほうが出力で3割強、トルクで6割ほど勝る。アバルトはマツダより高速向きの仕上げに感じるが、幌を開ければどんな道でも楽しい。3,888,000円(6MT)(アバルト TEL 0120 130 595)。
巡礼地:植田正治写真美術館
設計/高松伸。1995年竣工。竣工時には植田が代表作《少女四態》を思わせると語り、高松を喜ばせたという。植田が近隣の境港市で生まれ、山陰を舞台にした写真を多く撮ったことから、この場所に建てられた。大山観賞スポットとして有名な福岡堤もすぐ近くにある。鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3 TEL 0859 39 8000。