January 8, 2024 | Design | KASHIYUKA’s Shop of Japanese Arts and Crafts
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは岡山県井原市。貴重な木を丸太から仕入れ、木地作りから漆塗りまでを手がける職人と出会いました。
宝石のように奥深い艶と、両手に優しく寄り添う形。普段使いできるシンプルな漆椀を見つけました。
親子丼や軽めのラーメンによさそうな大きさで、手に取るとすっとなじむ。重さを感じないほど軽く、手も熱くなりません。漆というと構えてしまいがちですが、なんだか“ふつう”で気持ちいい。
作り手は岡山県井原市の木地師・仁城逸景さん。本来、漆の仕事は木地作りと塗りの分業制ですが、仁城さんは丸太の仕入れから製材や成形や塗りまで、すべてを手がけています。これは漆界のレジェンドでもあるお父様、仁城義勝さんから継いだスタイルです。
まずは製材して5年以上自然乾燥させた木を、木工ろくろで成形する工程を見学。ろくろに木を留めて回転させ、鉤爪の刃物を当てて削ります。削り始めたら一度も止めず、回転速度も変えないまま。
「製材所で乾燥させた材料を買って作る方が、効率は断然いい。でも、最初から最後まで責任を持って木と関わることで、貴重な木を無駄なく使いきりたいんです」
次に見せてもらったのは、木地に漆を塗る工程。仁城さんの漆器は、よく見る朱赤や黒ではなく深い飴色。木から採れた漆を透明なまま塗り重ねる「溜塗り」によるものです。刷毛でサッとひと塗りしたり、塗り重ねたり。木には漆が染み込みやすい部分と、そうではない部分があるので、その都度、塗り方を変えているのだとか。場所によって木目の出方が違うところが、本当にきれいなんです。
「塗って乾かして砥ぐ、という工程を4回繰り返すだけのシンプルで原始的な方法です。最後の仕上げも、磨きを施さずに乾かしたまま完成させる “塗り立て” 。父や僕にとって大切なのは木。木を保護し、木の表情を残すために最小限の漆を塗る……という感覚です」
興味深かったのは、農業のような1年ごとのサイクルで漆器を作っているという話。
「春までは、木を削って器の形を作る作業。湿気のある夏から秋にかけて漆を塗り、乾燥させて完成した器を年内に売り切るんです。新作は作らず、毎年20種類ほどの定番を作り続けるのが基本。父が試行錯誤してたどり着いたこの形が、最善だと信じています」
今回は高台の低い五寸椀を買い付け。ため息が出るほど美しい質感も日常使いできる形も、木の味を生かすため。使うほどに木目が浮かび上がり、艶も増すそうです。