December 13, 2023 | Art, Architecture | casabrutus.com
〈ワタリウム美術館〉で開かれている梅田哲也の個展はパフォーマンス公演のような展覧会をツアー形式で鑑賞するというもの。予想できない展開が続いて次にどこへ行くんだろう、そんな奇妙な体験が待っています。
梅田哲也は『さいたま国際芸術祭2020』で役目を終えた旧大宮市役所の建物を大胆に変容させ、観客がそこを巡る《O階》、「梅田哲也 in 別府」(2021年)でイヤホンから流れる物語とともに別府のさまざまな場所を訪れる《O滞》といったツアー形式の作品を発表してきた。
〈ワタリウム美術館〉の『梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ』は所要時間約50分のツアー形式の作品だ。1組6名の観客は演者に導かれて美術館の内外を巡ることになる。水先案内人的な役割を果たす演者たちは梅田が仕掛けたさまざまな装置とともに動き、歩き、語る。ツアーにはふだん、観客が入ることのないバックヤードも含まれていて、この建物全体をいつもとは違う形で体感することになる。
展覧会の会期は1期・2期の2つに分かれていて、後半の2期は内容が変わる予定だ。1期・2期の間でも細部が変更されることはありうるし、同じ日でも昼と夜とでは見え方がかなり異なることだろう。
この作品にとって〈ワタリウム美術館〉が建つ敷地と建築の歴史も重要なファクターだ。この場所は1964年の東京オリンピック開催時、計画道路がもともとの区画に対して斜めに引かれたため、道の両側に三角形の敷地が残った。その三角形の土地に建築家、マリオ・ボッタは同じく三角形の建物を設計。展示室も三角形という、美術館としてはやや特殊な建築が生まれた。建設時のボッタの写真や図面なども展示に取り入れられている。
場を感じるための手段の一つとして梅田が用意したのは、演者の語りによって観客に方位を意識させることだった。地球の自転軸である南北と自転の方向である東西を認識することで、建物の下にある土地と自らとの関係性がよりリアルになる。それは「マリオ・ボッタがこの美術館を設計するときにたどったであろうプロセスの追体験になる」と梅田はいう。
彼は「視点を交換したい」とも語る。主体と客体、傍観者と当事者、それら異なる立ち位置がぬるーっと反転する、その瞬間がおもしろいというのだ。この作品では複数の"公演"が開始時間をずらしながら同時に開催される。その中では客席と舞台とが入れ替わるような事態も発生する。「他のところも見え方が変わるようなことをやりたい」という梅田の思惑に近いことが起きるのだ。
作品には「船」のメタファーと読み取れるところもある。波止場から船出して波の上を航行し、また着岸する。実際には動かないはずの建物が動き出すように感じられる。
「ふだん使われていない場を一度開くと、がーっと動き出す感覚がある」と梅田はいう。
この展覧会では体験するたびに違う体験ができるはずだ。一度だけでは見えないものもあるだろう。1回券もあるが、繰り返し入場できるパスポートで何度も通いたい公演だ。